【螽蟖】
――『通夜の座に飛び入りたるや螽蟖』
季語は「螽蟖(きりぎりす)」。
鳴く虫として馴染みの深い昆虫だが、鳴くというよりも羽を擦り合わせて音を出すというのが正しい。その声は「ギイィィィィ、チョ!」とか「チョン、ギース!」とか、とてもじゃないが童話に出てくるようなバイオリンを弾きながら歌うイメージとは結び付かない。しかし、これが聞こえてくると、秋が始まったなぁという気持ちにもなる。
とある通夜に参列した時、キリギリスが会場内に紛れ込んできた。
鈴とお経の音色に誘われたのか、自らはバイオリンを持参せず徒手空拳でやってきた。姿は見せず、会場の端の方でひと鳴き。それに気付かない者の方がほとんどだったが、愛宕は気付いてしまった。
きっと、そいつは故人が可愛がっていたキリギリスで、通夜に参加したくともその資格が無く、意を決して危険な人間の包囲網を掻い潜り会場の片隅からフェアウェルの歌を届けたんだと思う……。
んなわけないが、お経を聞くのに飽きていたので、キリギリスに集中していた。
これくらいの妄想なら、バチは当たらないだろう。
こちらは、俳句生活のお題(八月)に投じた一句。
俳句のお姐さまとして敬愛する来冬さまは、この句を見て「しめやかな座が一転大騒ぎ。追い詰められたあげく、お坊さんの後頭部を滑り落ちる螽蟖が目に見えるようです」と評した。なんという想像力だろう。愛宕も、これくらいエッジのある妄想をしたい。
*来冬姐さまの思わずにっこりしてしまう俳句はコチラです。
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