【蕭蕭】

――『蕭蕭と 梅雨冷えに泣く 恋し肌』




【ちょい短編】

 梅雨の夜――。

 冷たい風が吹き、気温が急に低くなる時がたまにある。


 私はシクシクと泣くような柔らかい雨音で目を覚ました。

 まだ、起きるには早過ぎる。普段は放り散らしている肌掛けにくるまり、体温が上がるまで、ジッと体を動かさないようにしていた。


 ――こういう時間は、ふと寂しさが募る。


 二人で一緒に過ごしていた時は、彼の背中に張り付いて、同じように体を『く』の字にさせて寝ていたものだ。裸だろうが冬の時季だろうが、寒さは微塵も無い。肌の触れ合う部分が広いほど、私の心に滲みこんでくる温もりも大きかった事を――この体は覚えている。


 今は独り……あの頃を思い出し、単独で『く』の字を描いて温もりを探してみた。





 ……ダメだ、寒い。





 私は、再び体を丸くして、肌掛けと共に一回転した。もう一度、深い眠りにでも就きたかったのだが……すっかり目が覚めてしまった。

 体を丸めたまま、視界に入る正面の棚を見つめる。その先には、私とその横で白い歯を見せて笑っている彼の写真があった。いつまでも変わらない笑顔――時を知らずにフレームの中で褪せていく二人――は、私の心を追いかけるでもなく、無機質に「現在(いま)」を拒否していた。なんだか写真を見ているうちに、だんだんと悲しくなってくる――。


 ……全く、いつも自分勝手なんだから。

 ……これから先、私はどうすればイイっていうのよ。


 目頭と心がジワジワと熱くなってくる。奇しくも、その熱で体まで温まってきた。寒さで震えていたはずなのに……気が付けば、それは嗚咽の震えへと変わっていた。



 外は蕭蕭――。

 私の涙に合わせるように、シクシクと雨が降り続いている――【了】




【ひとこと】

蕭蕭――雨や風の音などがもの寂しいさま。

秋口の少し冷え込んだ時期に使われる事の方が多いでしょうか。ただ、単純に「雨風が寂しい」という事であれば、この梅雨の夜に時々感じる寒さでも使えるのではないかなと……。


最初は「蕭蕭雨」という言葉で季語にならないかなと閃いたのですが、調べたところ前例が無かったので、今回の季語は「梅雨」にしました。


物悲しい雰囲気……出てますか?

こんな時は……誰を『く』の字の相手に思い浮かべますか?




私ですか? 私はもちろん――『ニ〇リで見つけたシロクマの抱き枕』です☆

(お値段以上の抱き心地とフィット感♪)



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