第34話 線形オメガ航空334便(前前編)
あの状況で勝つ手はあったのかと考えながら、僕は飛行機の窓から外を眺めていた。
窓の下にはどこまでも続く白い床と、その上に等間隔に並んだ灰色の建物が見える。それぞれの建物の影が黒い線になって、地面に縞模様を作っている。時々見える大きな建物が長い影を地面に落としているから、影は何かの目盛りにも見える。
その中に、ひときわ目立つ建物がある。全体が新緑に塗られ、大きさは他の建物の10倍以上ある。屋根にはFORCALと書かれているが、会社名か何かだろうか。
『右に見えるのは、フォーカルです』
「あの緑の建物ですか」
『はい。あれがフォーカルです。フォーカルは、グラハム数の定義の64を100万に変えた数です』
彼女が説明する。
3↑↑...↑↑3 `
`----v----′ |
3↑↑...↑↑3 |
`----v----′ > 100万段
: |
: |
3↑↑↑↑3 ′
64段でも大きいのに、100万段になったら相当な大きさになりそうだ。
しばらくすると、巨大なオブジェが見えてきた。矢印を横に倒したような形で、こちらから見ると右向きだ。オブジェには「CONWAY'S TETRATRI」と書かれている。
『あれは、コンウェイのテトラトリです。コンウェイのテトラトリは、コンウェイのチェーン表記で3→3→3→3と表される数です』
「チェーン表記とは何ですか」
『まだ説明していませんでしたね。3変数以下の場合は、簡単に計算できます』
彼女はノートに書く。
a→b = a^b
a→b→c = a↑↑…↑↑b (↑がc本)
『変数が4つ以上になると、少し複雑です』
a→…→b→1 = a→…→b
a→…→b→1→c = a→…→b
a→…→b→(c+1)→(d+1) = a→…→b→(a→…→b→c→(d+1))→d
『少し具体例で計算してみましょう』
3→3→1→2 = 3→3 = 3^3 = 27
3→3→2→2
= 3→3→(3→3→1→2)→1
= 3→3→(3→3→1→2)
= 3→3→(3→3)
= 3→3→27
3↑↑...↑↑3
= `----v----′
27
3→3→3→2
= 3→3→(3→3→2→2)→1
= 3→3→(3→3→27)
3↑↑...↑↑3
`----v----′
= 3↑↑...↑↑3
`----v----′
27
3→3→4→2
= 3→3→(3→3→3→2)→1
= 3→3→(3→3→(3→3→27))
3↑↑...↑↑3
`----v----′
3↑↑...↑↑3
= `----v----′
3↑↑...↑↑3
`----v----′
27
『このように、3番目の数を1増やすと、矢印の段数が1増えることが分かります』
「ということは、さっきの100万段は、3→3→100万→2と表されるのですか」
『正確に同じ値ではありませんが、そのように近似することはできます。』
3→3→100万→2で100万段なら、3→3→3→3はいくらなのだろう。20段くらいだろうか。でも、100万段より後に見たということは、100万段よりは大きいのだろう。何億段とか、何兆段とか、そんな数が出てくるのだろうか。
「では、3→3→3→3は、どうなるのですか」
『3→3→1→3から順番に計算してみましょう』
3→3→1→3 = 3→3 = 3^3 = 27
3→3→2→3
= 3→3→(3→3→1→3)→2
= 3→3→(3→3)→2
= 3→3→27→2
3↑↑...↑↑3 `
`----v----′ |
3↑↑...↑↑3 |
= `----v----′ > 27段
: |
: |
27 ′
3→3→3→3
= 3→3→(3→3→2→3)→2
3↑↑...↑↑3 ` 3↑↑...↑↑3 `
`----v----′ | `----v----′ |
3↑↑...↑↑3 | 3↑↑...↑↑3 |
= `----v----′ > `----v----′ > 27段
: | : |
: | : |
27 ′ 27 ′
『3→3→3→3は、このように表すことができます』
さっきまで64とか100万だったところに、矢印表記を27段も積み重ねた巨大数が入っている。この右端の27も巨大数に置き換わるのだろうが、それもすぐにわかるだろう。もしかしたらもうそんなことでは辿り着けないほど大きな数になっているかもしれない。どっちにしろ、この先に何があるか、そしてどんな表記を使うのかが楽しみだ。
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