第12話 三階鉄道(前後編)
〔次は、ピキリオン、ピキリオンです〕
『ピキリオンは、picoに-illionが付いた数です。picoは10^-12なので、この数は10^(3*10^12+3)を表しています』
彼女が車内アナウンスに続けて言う。
ピキリオン駅では、あまり面白いことは起こらなかった。私服の女性が1人降りて行っただけだった。
この後電車は、フェムティリオン、アティリオン、ゼプティリオン、ヨクティリオンに止まったが、特別なことは何もなかった。
〔次は、ゾニリオン、ゾニリオンです〕
フェムト、アト、ゼプト、ヨクトまでは聞いたことがあるが、その上は知らなかった。ゾニリオンということは、元の単位はゾノなのだろうか。
『これもさっきまでと同様SI接頭辞をもとにした名前ですが、ここからは非公式のSI接頭辞が使われています』
「非公式・・・ですか」
『はい。非公式なので人によって若干スペルが異なりますが、一般的にはヨクトの後はこんな風に続いています』
xona=10^-27
veco=10^-30
meco=10^-33
dueco=10^-36
treco=10^-39
tetreco=10^-42
penteco=10^-45
hexeco=10^-48
hepteco=10^-51
octeco=10^-54
enneco=10^-57
『これより後は、別の系列の数詞が用いられるので省略しました』
「指数にマイナスがついているのは、ナニリオンやピキリオンのナノやピコが小さい数を表しているのと同じ理由からですよね」
『はい。小さい数を使うことで、大きい数を表しています』
電車は約1分ごとに駅に止まっている。ゾニリオン、ヴェシリオン、メシリオン、ドゥエシリオン・・・
〔次は、アイコシリオン、アイコシリオンです〕
『ここからは、違う系列の数詞を使っています』
「どういう系列ですか」
『ギリシャ語の数をもとにした系列になっています』
彼女はさっきの接頭辞の下に1行空けて書き始める。
icosa=20
meicosa=21
dueicosa=22
trioicosa=23
tetreicosa=24
penteicosa=25
hexteicosa=26
hepteicosa=27
octeicosa=28
enneicosa=29
triaconta=30
metriaconta=31
duetriaconta=32
...
tetraconta=40
pentaconta=60
hexaconta=60
heptaconta=70
octaconta=80
ennaconta=90
hecta=100
...
『今はこれだけあれば十分でしょう』
「アイコサやトリアコンタといった単語は、化学も見たことがあるような気がします」
『はい。1の位は少し変える必要がありますが、基本的にはここに挙げた数詞の後にneをつけると"その数だけ炭素があるアルカン"という意味になります。例えば、icosaneは炭素が20個、triacontaneは炭素が30個、tetracontanは炭素が40個あるアルカンを表します。』
僕は、何かの小説にテトラコンタンには炭素が40個あると書かれていたことを思い出した。テトラ魂胆、とか書いてあった気がする。
『ただ、この電車はメアイコシリオンからエンネアイコシリオンまでは通過して、一気にトリアコンティリオンまで行きます』
「それは、なぜですか」
『単純に、駅が多すぎるからです。でも、トリアコンティリオンの次の駅には、いいものがありますよ』
「そのいいものとは、何ですか」
『それは着いてからのお楽しみです。』
「では、それまで待ちますか」
電車はしばらく止まらなかった。車窓からの景色は相変わらず壁と部屋が流れるだけである。
〔まもなく、トリアコンティリオン、トリアコンティリオンです〕
電車はトリアコンティリオンに止まった。少し大きい駅で、数人が乗り込んだ。
「次ですよね」
『はい』
〔次は、グーゴルプレックス、グーゴルプレックスです〕
「グーゴルプレックス・・・何か聞いたことがあります」
電車は既に、かなり大きい数まで達していた。
現在地: 10^ (1. 839 626 793 * 10^93)
次の駅: 10^ (1. 000 000 000 * 10^100)
停車まで: 6#42
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