第27話 グラハム線(中前編)

〔間もなく右手に見えますのは、デカエクサクシス駅です〕

彼女は何も言わずにノートに書く。


Deka-exaxis = 10↑↑↑↑↑10


矢印が5本もあってわけがわからない。いや、どう計算すればいいのかはわかるのだが、とてもなく大きな数になっているだろう。

ところで、僕にはまだ解消できていない疑問がある。

それは、「ωオメガ+1」の謎だ。

オメガとは何なのか。そのオメガに1を足すとは一体どういうことなのか。オメガとは足し算ができる何かなのか。あの動く歩道は一体何なのか。なぜあんなに急加速する必要があるのか。そこまでして僕達はオメガに辿り着く必要があったのか。

これは彼女に聞くしかない。


ωオメガ+1番線って、どういうことですか?こういう時には普通自然数を使うのではないですか?」

『ついに、話をするときが来ました』

彼女が神妙な面持ちで答えた。

「あの話とは、一体何ですか?」

『急増加関数、そして、ωオメガです』

そう言いながら、彼女は両手でωの形を作る。そういえばそんなジェスチャーをする人が表紙に描いてある漫画があったような。


『ではまず、急増加関数から始めましょう。一旦、添字は自然数に限定しますね』


f_0(n) = n+1

f_(a+1)(n) = f^n_a(n)


『f^n_aとは、f_aをn回繰り返すという意味です。少し例を出しますね』


f_0(3) = 3+1 = 4


f_1(3)

= f^3_0(3)

= f_0(f_0(f_0(3)))

= f_0(f_0(4))

= f_0(5)

= 6

f_1(n)

= f^n_0(n)

= f_0(f_0(...(n回)...f_0(n)...))

= n+1+...+(n回)+...+1+1

= n+n

= 2n


f_2(3)

= f_1(f_1(f_1(3)))

= f_1(f_1(6))

= f_1(12)

= 24

f_2(n)

= f_1(f_1(...(n回)...f_1(n)...))

= n*2*...*(n回)*...*2*2

= n*2^n

> 2^n


f_3(3)

= f_2(f_2(f_2(3)))

= f_2(f_2(24))

= f_2(402653184)

= 402653184*2^402653184

> 2^2^2

f_3(4)

= f_2(f_2(f_2(f_2(3))))

= f_2(f_2(f_2(64)))

= f_2(f_2(64*2^64))

≒ f_2(f_2(2^64))

≒ f_2(2^2^64)

≒ 2^2^2^64

> 2^2^2^2

f_3(n) > 2↑↑n


f_4(3)

= f_3(f_3(f_3(3)))

> f_3(f_3(2↑↑3))

> f_3(2↑↑2↑↑3)

> 2↑↑2↑↑2↑↑3

> 2↑↑2↑↑2

= 2↑↑↑3

f_4(n) > 2↑↑↑n


『このように、前の段階の関数を重ねることで次の段階の関数が作られます』

「この表記は、どれくらいの大きさになるのですか」

『添字が自然数の場合は、矢印表記と同じ大きさになります』


f_a(n) > 2↑^(a-1) n


「わかりました。では、添字が自然数でない場合はどうなるのですか」

『添字が自然数でない時、添字は超限順序数になります。ということで、急増加関数の話を続ける前に、順序数の話をしましょう』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る