第28話 グラハム線(中中編)

『順序数とは、自然数を拡張した概念で、全ての自然数より大きい数が定義されます』

「無限ということですか」

『はい。ただし、順序数の無限には大小関係があります』

そういえば、自然数と実数の個数は違うとか聞いたことがある。そんな話だろうか。そんなことを考えている間に、ノートの最後の行に数式が書き足されていた。


0<1<2<...<ω<ω+1<ω+2<...<ω2<ω2+1<...<ω3<...ω4<......<ω^2


『0,1,2,...という自然数の列の先に、ωオメガがあると考えます。そして、この後もω+1,ω+2,...と続き、その先にω2があります。ω2からもまたω2+1,ω2+2,...と続けることができ、この先にあるものがω3です。このようなプロセス全体を無限に続けた先にあるのが、ω^2です』

いきなりいろいろ言われて混乱している。少し整理しよう。

「少し整理させてください」

『はい』

「ωはどの自然数よりも大きいのですよね」

『はい』

「ω+1はそれよりも大きいですね」

『はい』

「ω+1よりも上にω+2,ω+3,...と続いて、その先にあるのがω2なのですね」

『その通りです』

「ここで一つ質問していいですか」

『どうぞ』

「ω2は2ωとは書かないのですか? 普通の数式だと、xの2倍は2xですよね」

『2ωだと、2×1,2×2,2×3,...の先にある極限、つまりωになってしまいます』

「つまり、ω2と2ωは違うものなのですね」

『そうです!』

「そして、ω2+1,ω2+2,...と続く先がω3だと」

『はい』

「最後に、ω,ω2,ω3,...と続く先がω^2ですか」

『完璧です! では、これを急増加関数の添字に入れてみましょう』

「急増加関数は有限の関数ですよね。無限を入れると無限になってしまうのではないですか」

『今からそこを説明します』

彼女はノートに急増加関数の定義を改めて書き直す。


n: 自然数

a: 順序数

f_0(n) = n+1

f_(a+1)(n) = f^n_a(n)

f_a(n) = f_a[n](n) もしaが極限順序数のとき


『極限順序数とは、ω、ω2のように、1つ小さい順序数が存在しない順序数です』

「ω^2は、極限順序数ですか」

『はい。ω^2の1つ前が存在しないので、ω^2は極限順序数です』

「[n]とは、何のことですか」

『極限順序数αに対し、α[n]はαの基本列のn番目、すなわち極限がαであるような列のn番目という意味です。いくつか例を出しますね』


1, 2, 3, 4, ...はωの基本列

このときω[3]=3

ω+1, ω+2, ω+3, ω+4...はω2の基本列

このときω2[3]=ω+3

ω, ω2, ω3, ω4, ...はω^2の基本列

このときω^2[3]=ω3

2, 4, 6, 8, ...はωの基本列

このときω[3]=6


『最初と最後の例からわかるように、ある順序数に対する基本列は一通りではありません』

「では、α[n]は何でもよいのですか」

『α未満なら何でもありえますが、それだと使いにくいので、Wainer階層を使って基本列を定めることが多いです』

彼女は基本列の例の下に式を書き足す。


ωa[n] = ω(a-1)+n

ω^2[n] = ωn


『ω^2以下の場合はこの2つで基本列が定義できます。上で挙げた最初の3つの例は、このWainer階層と同じになっています』

(著者注: 「上で挙げた」にはメタ的な意味(この小説のテキスト内で上に書かれている)と、非メタ的な意味(「僕」たちが見ているノートで上に書かれている)の両方が含まれている)

『例えば、ω=ω1なので、ωの基本列を得るためには1つ目の規則にa=1を代入すればいいことがわかります。ω0=0なので、ω[n]=nとなります』

「ωに0を掛けると0になるのですね」

『はい。どんな順序数にも、0を掛けると0になります。では、実際に演習してみましょう。今から書く極限順序数の基本列を右側に書いてみてください』

彼女はノートに3つの極限順序数を書く。僕に振るのか。


ω2

ω4

ω^2


(著者注: 読者も一緒に考えてみましょう)

(メタ著者注: 読者にも振るのか)


ω2には1つ目の規則が使える。a=2だから、ω2の基本列はω1+nだ。ω1はωと同じものだから、ω+nと表せる。ω4も同じだ。a=4だから、ω4[n]=ω3+nになる。ω^2には2つ目の規則をそのまま使って、ω^2[n]=ωnになる。つまりこういうことだ。

僕はノートの右側に回答を書き足す。


ω2 ω+n

ω4 ω3+n

ω^2 ωn


『正解です! では、急増加関数の添字に順序数を入れたらどうなるか、具体例で見てみましょう』

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