第24話 矢印本線(後編)

『そろそろ、五の食ごのしょくを済ませておきましょう』

「ごのしょく、とは何ですか?」

『この世界の食事です。私たちは、零の食れいのしょく二の食にのしょく、五の食、八の食はちのしょくと、一日に四回食事をとります。食事の名前がそのまま時刻に対応していて、零の食は0デサー、二の食は2デサー、五の食は5デサー、八の食は8デサー前後に食べます』

1日が10デサーなのはわかっている。五の食ということは、今は5デサー、つまり一日の半分が経過したところなのだろう。僕のいた世界では昼食と言ったところだろうか。

「わかりました」

『だったら、次のグラハルで降りて、五の食にしましょう』

「はい」


ここの食事はまだよくわからない。というのも、この世界に来てからはまだ1回しか食べていない。この世界では昼食に何を食べるのだろう。


〔まもなく、グラハル、グラハルです〕

『ここで降りますよ』


電車がグラハルに止まる。彼女は僕の手を引いて電車から出る。僕はどこに連れていかれるかもわからずに、彼女の後を追い続ける。

500メートルほど走っただろうか。気が付くと僕たちは店の中にいた。ファミリーレストランのような場所だ。


『小草炒めを2つ』

彼女がウエイターに注文する。小草炒めとは何だろう。

「何を注文したのですか?」

『見ればわかります』


しばらくして、料理がやって来た。炒め物というよりはサラダに近い感じだ。種々の野菜や果物が皿の上に混ぜられている。彼女はもう食べ始めているようだ。僕も葉っぱを1枚食べてみることにする。レタスの味がする。他のものも食べてみるが、どれも今まで食べたことのあるものばかりだ。もしかしたら、僕の世界からこの世界に野菜が伝わってきたのかもしれない。ただ、1つだけ気になる野菜がある。僕の世界では見たことのない、細長い草のような物体だ。しかも「ω」のような形に曲がっている。僕はそれをフォークですくい、彼女に質問する。

「これは何ですか?」

『それは小草です。ここの少し先で栽培されている、この世界では有名な野菜です』

「そうですか」

僕は恐る恐るその野菜を食べてみる。意外とおいしい。フォークを持つ手が止まらない。気が付いたら僕は小草を一本残さず食べてしまっていた。ここの料理はおいしい、そう実感した。


僕は先に店を出る。彼女はカウンターの店員に石のようなものを渡しているが、あれがお金なのだろうか。彼女が店から出てきた。聞いてみよう。

「さっき店員に渡していたものは何ですか?」

『銀です。ここより先では極度のインフレにより本来の貨幣が機能しなくなっているので、地域独自の貨幣がよく使われます。このあたりでは銀が一般的です』

「銀以外にも、いろいろなものが使われるのですか?」

『はい。この先では金やイリジウムなど、希少な金属が使われることもあります』

「それは面白いですね」

『はい。地域ごとの貨幣を集めるのも面白いですよ』

「集めているのですか?」

『はい。後でコレクションを見せますね』

「ぜひともお願いします!」

そんな会話をしながら、僕たちはホームがある方向へと戻った。

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