Tetration level
第17話 多階鉄道(後前前編)
〔まもなく、ミリオンクアドリプレックス、ミリオンクアドリプレックスです〕
ミリオンクアドリプレックスは、10^10^10^10^1000000だ。ところで、これは何桁あるのだろう。僕は少し考えてみることにした。
10^1=10は2桁で、10^2=100は3桁で、10^3=1000は4桁ということは、10^nはn+1桁になりそうだ。実際10^nは1の後に0がn個続く数だから、桁数はn+1で正しい。つまり、10^10^10^10^1000000の桁数は10^10^10^1000000+1ということになる。桁数を取ってもまだ大きいから、桁数自体の桁数を考えてみよう。
10^10^10^1000000+1は100...001という形の数だから、最後の+1はあってもなくても桁数は同じだ。つまり、10^10^10^1000000の桁数を考えればいいことになる。この桁数はさっきと同じよう考えて、10^10^1000000+1だ。まだ大きいからもう1回桁数を取ろう。+1を取って10の指数に+1すればいいから10^1000000+1だ。だいぶ小さくなってきたがそれでも10の100万乗プラス1、つまり1の後ろに0が999999個続いて最後にもう一回1が来る数だ。この数の桁数でようやく100万1だ。現実的な数字になって来たから、ここでいったん整理しよう。
10^10^10^10^1000000の桁数は10^10^10^1000000+1
10^10^10^1000000+1の桁数は10^10^1000000+1
10^10^1000000+1の桁数は10^1000000+1
10^1000000+1の桁数は1000001
つまり、10^10^10^10^1000000の桁数の桁数の桁数の桁数が100万1ということだ。
〔次は、オクタログ、オクタログです〕
『オクタログは、10↑↑8です。指数で書くとこうなります』
車内アナウンスと彼女が僕の思考を遮る。彼女はノートに数式を書き足す。
10
10
10
10
10
10
10
10↑↑8 = 10
指数の上に指数が何段も積み重なって、物凄いことになっている。
『オクタログという単語は、10の指数を8段積み重ねた数という意味です。指数を積み重ねるとテトレーションになるので、この数は10↑↑8と表されます』
「これは、どれくらい大きいのですか」
『そうですね。では、この数の桁数を考えてみましょう。nが十分に大きいと10^nはおよそn桁なので、10↑↑8=10^10^10^10^10^10^10^10はおよそ10^10^10^10^10^10^10桁、つまり10↑↑7桁になります』
さっき僕がやったことだ。ただ彼女は、nが大きい場合はn+1もnもほとんど同じだからと、nで近似してしまうらしい。
『同じように考えて、10↑↑xはおよそ10↑↑(x-1)桁になります』
「ちょっと待ってください。もう少しゆっくり説明してください」
いきなりxを使われると僕も混乱する。
『はい。まず、10↑↑xは10の指数をx段重ねた数、10↑↑(x-1)は10の指数をx-1段重ねた数なので、こんな式が成り立ちます』
10↑↑ x =10^10^...^10^10 (x段)
10↑↑(x-1)= 10^...^10^10 (x-1段)
『つまり、10↑↑x=10^(10↑↑(x-1))となります。』
「ちょっと頭の中で整理させてください」
指数は右から計算するのだから、10^10^...^10^10^10=10^10^...^10^(10^10)=10^10^...^(10^(10^10))=...=10^(10^...^(10^(10^10))...)となって……。これだとちょっとわかりにくいから、具体例で考えよう。
x=2のとき
左辺=10↑↑2=10^10,右辺=10^(10↑↑1)=10^10
x=3のとき
左辺=10↑↑3=10^10^10,右辺=10^(10↑↑2)=10^(10^10)=10^10^10
x=4のとき
左辺=10↑↑4=10^10^10^10,右辺=10^(10↑↑3)=10^(10^10^10)=10^10^10^10
ようやくわかってきた。単に指数を右から計算するという、それだけだ。一応一般のxの時でも確認しておこう。
左辺=10↑↑x=
右辺=10^(10↑↑(x-1))=10^(
「理解できました。桁数を取るたびに、↑↑の右の数が1つ減るのですね」
『はい。つまり、10↑↑8の桁数は10↑↑7、10↑↑8の桁数の桁数は10↑↑6・・・となって、10↑↑8に対して7回桁数を取ると10↑↑1、つまり10になることが分かります。正確には11ですが、桁数を7回取ると小さい数字に収まるということが重要なのであって、桁数を取った後の結果はあまり重要ではありません』
「結果よりも回数が重要になるのですね」
『はい。最も重要な部分だけに注目するというのが、巨大数ではよく行われます』
「回数を大きくすると、何が起こるのですか」
彼女は答えようとしたが、車内アナウンスがそれを遮った。
〔次は、デッカー、デッカーです。メガフガ線へは、ホーム右側の27番乗り場、ログ線へは通路を渡って左側の10番乗り場から乗り換えることができます〕
「次の駅には、乗り換えがあるのですね」
『はい。デッカーはマイルストーンにふさわしい数なので、メガフガ線やログ線など多くの路線がデッカーに乗り入れています。私たちは乗り換えずに、もっと先に進みます』
「デッカーとはどのような数なのですか」
『デッカーは、10↑↑10で定義される数です。さっきの桁数の例えで言うと、10↑↑10は桁数を9回取ると小さい数になります』
「つまり、さっきから桁数が2つ増えたのですね」
『いいえ、もっと大きいです。10↑↑10の桁数の桁数がおよそ10↑↑8です』
「一気に大きくなったのですね」
『はい。これから、もっと大きくなりますよ』
僕たちは車窓から景色を眺める。とんでもないスピードで景色が流れていきそうなものだが、意外とそうではないように見える。時速80キロぐらいを維持しているように見えるが、実際はもっと大きいことは前の表示板が示している。今は10を13段積んだ上に173、つまり10↑↑14と10↑↑15の間にいるようだ。
現在地: E 173. 343 444 040 # 13
次の駅: E 10. 000 000 000 # 19
停車まで: 6#82
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