Class 5
第16話 多階鉄道(前後編)
僕がアッカーマン関数の展開に見入っていると、彼女が口を開いた。
『怖い話は、好きですか?』
突然のことだったので、僕はしばらく言葉を失った。彼女は追い打ちをかけように言葉をつづける。
『最近、ある怖い話がこの世界で広まっているのですよ』
「それは、どんな話ですか」
『それは、巨大数たんという人の話です。この人も、私たちと同じように大きい数のところへ行こうとしていました』
「ちょっと待ってください。まだ心の準備が出来ていません」
『あ、すみません』
彼女が間を置いてくれた。僕はふう、と深呼吸して心情を整える。
『よいですか?』
「では、お願いします」
そして怪談が始まった。
『これは、巨大数たんという人の話です。巨大数たんは、ちょうど私たちがいるあたりから、大きな数を目指しました。巨大数たんもやはり、私たちと同じように鉄道で行こうとしました。しかし、どの鉄道でも大きい数に行けるのは間違いないからと、巨大数たんはその時丁度駅に着いた電車に乗ってしまいました。それは、今ではほとんど誰も乗らず、廃線が検討されている
「それは怖いですね」
『はい。電車は行き先を確かめてから乗るように、という教訓があります』
「ところで、巨大数研究Wikiとは何ですか?」
『インターネット上のサイトで、巨大数の百科事典のようなものです。この世界の鉄道の駅情報も、ここに載っています』
「今ここで見せられますか?」
『はい。これです』
そう言うと、彼女はタブレットを操作して、僕にその画面を見せた。画面には背景が緑色のウェブサイトが表示されている。「巨大数研究Wiki」と大きく書いてあるから、きっとこれがそうなのだろう。
『例えば、このリンクから記事に飛べます』
彼女はグーゴルと書かれたリンクをタップする。グーゴルに関するいろいろな情報が画面に映る。グーゴルが10^100であるという定義の記述、数学的性質、グーゴルという単語の語源、そしてグーゴルに止まる鉄道路線のリストだ。
「これは・・・すごいですね」
『はい。たくさんの人の共同編集により、これほどの情報が得られるようになりました』
「ということは、僕たちがどこに向かっているのかもわかるのですね」
『いいえ。ここに載っている情報は多いですが、全てではありません。私たちは、この世界で、まだ知られていない所へ行こうとしているのです』
「それは、どれくらい大きいのですか」
『今の私たちには想像もつかないほど、大きな数です』
「僕が生きている間に、辿り着けるのでしょうか」
『大丈夫です。数が大きくなればなるほど、どんどん速く移動できるようになりますから』
「それならよいのですが」
僕たちははるか遠くの景色を想像しながら、電車と一緒に先へと進んでいった。
〔次は、ミリオンクアドリプレックス、ミリオンクアドリプレックスです〕
『ミリオンクアドリプレックスとは、ミリオンにプレックスを4回施した数という意味です。ミリオンは100万、プレックスはf(x)=10^xを表すので、ミリオンクアドリプレックスは10^10^10^10^1000000となります』
そして想像から醒めた。
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