Class 4
第14話 多階鉄道(前前前編)
僕たちはミリオンドゥプレックスという駅にいる。この駅はかなり小さいが、ここがさっきの電車の終点らしい。
『ここから多階鉄道に乗り換えます。あの電車に乗りますよ』
彼女は隣のホームの電車を指さす。
『ここも乗り換え時間が短いので、早く乗ってしまいましょう』
彼女は僕の手を引く。
「ちょっと待ってください」
『1本逃すと72ミラーも待つことになるのですよ!』
彼女は足早に電車へと向かう。それに引かれるように、僕も電車のほうに走っていく。
発車ベルが鳴る。僕たちは残り数十秒といったところで電車に駆け込む。
「なんとか、間に合いましたね」
『なんとか、でしたけどね』
「これから、かなり大きい数のところへ向かうんですよね」
『はい。間に合ってよかったです!あんな所で72ミラー待たされるなんて、退屈でしかありませんから!』
72ミラーというと、1ミラーが1分強だから約1時間半といったところか。確かに、あの駅で1時間半も待たされるのはつらいだろう。しかし、もう少し本数を増やせないものだろうか。僕の地元の田舎でも30分に1本は来たのに。だが、そんな考えも車内アナウンスと彼女の言葉に遮られた。
〔次は、テトラログ、テトラログです〕
『
「10のテトレーションには特別な名前があるのですね」
『はい。テトレーションだけでなく、その上の演算であるペンテーションやヘキセーションにもこのような接尾辞が与えられています。これらの接尾辞は、Sbiis Saibianという人により提案されました』
「それは、どのような系列なのですか」
『今はよくわからないかもしれませんが、このように続きます』
taxis:10↑↑↑
petaxis:10↑↑↑↑
exaxis:10↑↑↑↑↑
eptaxis:10↑↑↑↑↑↑
octaxis:10↑↑↑↑↑↑↑
ennaxis:10↑↑↑↑↑↑↑↑
dekaxis:10↑↑↑↑↑↑↑↑↑
『演算子の名称と、接尾辞の名称が1つずれていることに注意してください』
「ええと、どういうことですか」
『あっ、気にしないでください。後になればわかります。とにかく、このように大きい数にも名前が与えられているのですよ』
「よくわかりませんが、僕にはまだ早いということですね」
『そうですね』
〔まもなく、テトラログ、テトラログです〕
電車が駅に止まり、赤髪ツインテールの女性が乗り込んでくる。髪型もかなり特徴的で、かなりきつい螺旋構造をしている。あんなに目立つ髪を僕は初めて見た。電車は再び動き出す。
〔次は、第1スキューズ数、第1スキューズ数です〕
『この数は、素数に関するある定理に関係する数です』
「具体的には、どのような定理なのですか」
『まず、π(x)をx以下の素数の個数、Li(x)を1/log(t)を2からxまで積分したものとします。このとき、π(x)-Li(x)は無限回符号を変えることが知られていますが、符号を変えるときの具体的なxの値は一つもしられていません。その上限として与えられたのが、第1スキューズ数です。この上限を求める際にはリーマン予想が仮定されていますが、リーマン予想を仮定せずに与えられた上限もあって、それは第2スキューズ数と呼ばれています』
「ちょっと・・・よくわかりません」
『もう少しゆっくり説明しますね』
彼女はいつものノートに書き始める。
『まず、π(x)とLi(x)を以下で定義します。Li(x)は対数積分と呼ばれていて、積分を含まない簡単な式では表せないことが知られています』
π(x)=x以下の素数の個数
/`x 1
Li(x)= / ------ dt
、/ 2 logt
『そして、π(x)-Li(x)を考えると、これはプラスにもマイナスにもなることが知られています』
「それは、どうしてですか」
『それをここに記すには余白が狭すぎます。今は、この結果を仮定して話を進めましょう』
「はい」
『では続けますね。π(x)-Li(x)はプラスにもマイナスにもなるのですが、具体的にどこでプラスとマイナスが切り替わるのかはまだ分かっていません』
「切り替わる場所があることはわかっているのに、具体的にどこにあるのかはわからないのですか」
『はい。ただし、最初に切り替わる場所の上限はわかっています。その上限として与えられた値が、スキューズ数です。スキューズ数には2つあり、第1スキューズ数はリーマン予想を仮定したときの上限、第2スキューズ数はリーマン予想を仮定しないときの上限です』
「それは、どれくらいの大きさなのですか」
『第1スキューズ数は、e^e^e^79です。10の指数タワーでは、10^10^10^34と近似されます』
「指数に重ねる数がeでも10でも、4段重ねることに変わりはないのですね」
『はい。数が極端に違わない限り、段数は基本的には変わりません』
「だったら、指数の段数で巨大数の大きさを表せるということですね」
『はい。それが、クラスという概念につながります』
「クラス・・・ですか?」
『このくらいの大きさの巨大数はクラスという指標で分類されることが多いです。具体的には次のようになっています』
クラス0: ~6
クラス1: 7~10^6
クラス2: 10^6~10^10^6
クラス3: 10^10^6~10^10^10^6
クラス4: 10^10^10^6~10^10^10^10^6
...
そこまでノートに書いて、彼女は付け加えた。
『境界の値は大きいほうのクラスに含まれます。10^6=1000000なので、クラスnは指数がn段重なった数のイメージです』
クラス0: ~6
クラス1: 7~1000000
クラス2: 10^6~10^1000000
クラス3: 10^10^6~10^10^1000000
クラス4: 10^10^10^6~10^10^10^1000000
...
『私たちが今いるのはクラス4です』
僕は前のディスプレイを見る。それと同時に車内アナウンスが流れる。
現在地: E 91. 172 957 323 # 3
次の駅: E 100. 000 000 000 # 3
停車まで: 4#13
〔まもなく、グーゴルドゥプレックス、グーゴルドゥプレックスです〕
E91#3=EE91#2=EEE91#1=EEE91=10^10^10^91だから、確かにこの数は10^10^10^6と10^10^10^1000000の間にある。僕は彼女の言葉を思い出す。
(著者注:10話より引用)
『Ex#yは10の指数タワーをy段積んだ後にxが来るものと同じ値になります』
確かにE91#3は10のタワーを3段積んだ上に91が来た数になっている。
しかし、さっきは次の駅がスキューズ数だと言っていたが、それはどうなったのだろう。たしか、スキューズ数は10^10^10^34だったから、僕たちが話している間に過ぎてしまったようだ。
数分して、電車はグーゴルドゥプレックス駅に止まり、4人が電車から降りた。
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