第19話 多階鉄道(後前後後編) (10↑↑20(後編))

なぜだ。


僕は電車に乗っている。


僕は寝ていたのではないのか。


意識の無い間に彼女に運ばれたのか。


僕は前の表示板を見る。


現在地: f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+M_M_2)(10)

次の駅: f_ψ(ε_(T+1))(10)

停車まで: 32#67


なんだこれは。表示がバグったのか。僕が最後に見た時はE8.5#18と書いてあった。そもそもここの表示はE(小数)#(整数)で表されるのではないのか。それとも、少し前にあったF3.34みたいな別の表記で表されているのか。しかしこれは奇妙だ。fとかψとかTとか、見たことのない記号がたくさんある。むしろわかる記号が右端の10しかないくらいだ。停車までの時間も異常に長い。前は長くても10分以内だったのに、32分とはどういうことなのか。これは快速か何かなのか。こうして考えている間にも現在地の表示はどんどん変わっていく。僕はその表示を観察してみることにした。


f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+M_M_2)(10)

f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+M_M_M)(10)

f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+ψ_M(1,0)(M(1,0)))(10)

f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+ψ_N(N))(10)

f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+ψ_C(1,0;0)(C(1,0;0)))(10)

f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+ψ_K(K^K^K))(10)

f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+ψ_T(T^T^T))(10)

f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+ψ_T(T^(T^(T^Ω)*I)))(10)

f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+T)(10)

f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+T+ψ_T(T^(T^(T^Ω)*I)+T))(10)

f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+T2)(10)

f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+Tω)(10)

f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+TM)(10)

f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+T^2)(10)

f_ψ(T^(T^(T^Ω)*I)+T^T)(10)


しばらく眺めてみたものの、まったくパターンがつかめない。記号が変化していることは分かるが、何がどうなっているのか見当もつかない。とりあえず彼女に聞いて、それでも理解できなければ諦めよう。僕は彼女の方を振り向く。



だが、彼女がいない。



振り向いた先にいるはずの彼女がいない。その代わり、車窓の外に草原が地平線まで広がっている。彼女はどこに行ってしまったのか。なぜ草原が見えるのか。ここは本当にどこなのか。ここに表示されている得体の知れないものはそもそも数なのか。疑問が尽きない。とりあえず終点まで乗って、降りた先で誰かに道を尋ねよう。終点の駅なら少なくとも駅員はいるだろうから、そこで乗り継ぎを聞くのもよい。とにかく端まで乗ってみて、話はそれからだ。



『そろそろ行きましょう』



彼女の声がする。周りを見渡しても彼女はいない。いったいどこから話しかけているのか。そもそも行きましょうとは一体どういうことなのか。



『私の声が聞こえますか』



聞こえてはいるんだ。だが、どこにいるかわからない。早く出てきてくれ。



『生きていますか』


「生きてるよ!!!」


叫ぶと同時に世界が崩壊していく。どうなっているんだ。世界が崩壊して、暗闇になっていく。そして・・・




・・・えっ?

僕はベンチに横たわっている。ベンチの冷たい感触が僕の背中に伝わる。僕は夢を見ていたようだ。



「ああ。今、起きました」

『大丈夫ですか?いきなり叫んだので、驚きました』

夢じゃなくて現実でも叫んだのか。

「気にしないでください。ちょっと混乱していただけです」

『そうだといいのですが』

「それから、少し聞きたいことがあります」

『聞きたいこと、とは何ですか?』

「長くなりそうなので、電車の中で話しましょう」


こうして僕たちは、多階鉄道の来るホームへと戻っていった。

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