第21話 多階鉄道(後後編)

〔次は終点、トリトリ、トリトリです〕


あれからどれだけの時間がたっただろうか。僕たちは何時間も電車の中にいた気がする。


『トリトリは、3↑↑↑ペンテーション3と表される数です』

この声を聞いたのも何時間ぶりだろう。もっとも、実際には1時間も経っていないかもしれないが(著者注: 前話執筆から3か月経ったなんて言えない)。


「そのペンテーションとは何ですか?」

ためらいなく彼女に質問できるようになってきた。


『ペンテーションは、テトレーションの次の演算です。これを見てください』

彼女はノートを何枚か前にめくる。めくった先のページは、こんなことが書かれている。


3=3↑↑1

3^3=3↑↑2

3^3^3=3↑↑3

3^3^3^3=3↑↑4

3^3^3^3^3=3↑↑5


彼女はこの下に付け足す。


3=3↑↑↑1

3↑↑3=3↑↑↑2

3↑↑3↑↑3=3↑↑↑3

3↑↑3↑↑3↑↑3=3↑↑↑4

3↑↑3↑↑3↑↑3↑↑3=3↑↑↑5


『テトレーションは、右から計算することに注意してください』

「つまり、3↑↑3↑↑3は、3↑↑(3↑↑3)になるということですか」

『はい。少し計算してみましょう』


3↑↑↑3

=3↑↑3↑↑3

=3↑↑(3↑↑3)

=3↑↑(3^3^3)

=3↑↑(3^27)

=3↑↑7625597484987

=3^3^...(7625597484987回)...^3^3


『3の指数タワーが、7625597484987段重なっています。最後の指数も、右から計算していくことに注意してください。』


そういえば表示板ではどうなっているのだろう。僕は首を上げて車両前のディスプレイを見る。


現在地: E 23 257. 437 266 912 # 1 212 778 213 341

次の駅: E 12. 560 902 641 # 7 625 597 484 986

停車まで: 6#82


「なにか、想像もできない数になりましたね」

『はい。こんなに大きい数を3↑↑↑3とたった5文字で表せるのが、この矢印の強みです』

「これ以上大きくならない気もするのですが」

『いいえ。まだ私たちは巨大数の入り口にも立てていません』

「もっと大きいところに行くのですね」

『はい。この矢印を並べるだけでは到底書き表せないような、矢印のその先の世界へ行くのです!』

〔ご乗車、ありがとうございました。まもなく終点、トリトリ、トリトリです〕


彼女の興奮をアナウンスが遮った。


僕たちは電車を降りて、次のホームへと向かう。テトレーション、多角形表記、アッカーマン関数、ペンテーション。今までいろいろな表記を見てきたけど、これからはどうなるのだろうか。僕はそんなことを考えながら、歩を進める。

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