Class 2

第4話 7.6兆(前編)

2167937

壁の数字が徐々に大きくなる。



35368547

1回のワープで10倍以上になっている。これなら世界の端にもすぐにたどり着けそうだ。





682005953

一、十、百・・・6億!?知らない間にそんなに移動したのか。








15277169617

これは・・・152億か。コンマを打ってもらわないとわからない。


『だいぶ、遅くなってきましたね』

彼女は言う。


「確かに、最初よりは1回の移動に時間がかかっているような気がします」

『はい。実は、n番目の素数を計算するというのはとても時間がかかることなのです。一つの数の素数判定でも時間がかかるのに、n番目の素数を求めるなんてとんでもないことなんです』

「僕たちは、高望みしすぎたようですね・・・」

『でも、いいものがあります。これを見てください』

そう言って彼女は装置から降りて、部屋の中央のテーブルを指さす。そこには、別の機械が置かれている。


『これはn任意装置です。ここに行きたい部屋番号を入力すれば、どこへでも一瞬で行くことが出来ます。ただ、この装置には制限があって、5000兆番までの部屋にしか行けません』

「だったら、まず5000兆番まで行って、そこから先へ向かう方法を考えればいいではないですか」

『でも、5000兆番の部屋からは、先へ行く方法がありません。その代わり、一度手前の部屋を経由するともっと先へ進めます』

「具体的には何番ですか」

『見ればわかります。さあ、ワープしますよ。私につかまってください!』

彼女は左手で僕をぐっと掴み、右手でテーブルの上の装置に数字を入力する。そして「転送」と書かれたボタンを押した。



すると僕たちは、大きな部屋に出た。今までの部屋の10倍の大きさはあるだろう場所だ。

『ここは、7兆6255億9748万4987の部屋、別名メガフガスリー駅です。』

確かに、駅のような見た目をしている。奥には線路も見える。


『ここから、電車に乗ってもっと先に行けるのですが・・・次の電車は20ミラー後ですね』

「20ミラー?」

耳慣れない言葉だ。ミラーは時間の単位だろうか。

『あの電光掲示板を見てください。1段目は現在の時刻、それより下はこの駅に止まる電車の情報です』

僕は電光掲示板を見る。そこには、次のように表示されていた:


7;63#29

7;85 上り 下二階鉄道 各駅停車

8;23 下り エクス3号 快速

8;61 上り テトラ3号 各駅停車


『今の時刻が7デサー63ミラーで、次の電車は85ミラーなので、あと22ミラーあります』


僕は少し興奮していた。久しぶりに、この量の日本語を見たからだ。よく考えると、僕はこの世界に来てから数字以外の文字をほとんど見ていない。数字以外で見た文字といえば、「p_n」とか「転送」とか、その程度だ。これほどまとまった日本語はこの世界では初めて見た。


僕の興奮が収まってきたところで、冷静になって質問した。

「ミラーって、何ですか?」

『もう一度1段目を見てください。5桁目の数字が増えていっていますよね?あれが1増えるのにかかる時間が1ミリヤンで、ミラーはその100倍です。ちなみに、ミラーを100倍するとデサーになります』

僕は再び一段目を見る。確かに、数字は少しずつ増えている。一番下の桁が1増えるのにかかる時間は1秒より少しだけ短いようだ。0.8~0.9秒といったところだろうか。ということは、次の電車まであと22ミラーということは、2200×0.8秒で1760秒、つまり約30分だ。

「だいぶわかってきました。まだ結構時間がありますね」

『そうですね。そこに備え付けの素数大富豪セットがあるので、それで遊びましょう!』

彼女は棚からトランプとノートパソコンを取り出す。いったいこれで何をしようというのか。


彼女はトランプとノートパソコンを近くにあったテーブルの上に置き、そしてノートパソコンの電源を入れた。


彼女は僕に、そのテーブルに座るように言った。彼女は僕の反対側に座った。そして、ノートパソコンが立ち上がるまでの間に、僕と彼女に11枚ずつトランプを渡した。


『では、素数大富豪を始めましょう』

僕は素数大富豪というものはTwitterでしか見たことがない。素数しか出せない大富豪だということだけ知っているが、合成数出しとかグロタンカットとか。本来のルールはもっと複雑らしい。


「ルールを確認させてください」


彼女は解説する。解説によると、ルールは次のようになっているらしい。

・自分のターンの最初に、山札からカードを1枚引くことができる(引かなくてもよい)。

・基本的にはトランプを何枚か組み合わせて素数を出す。例えば、Qと7のカードをつなげて127とすることができる。

・出す素数は、場に出ている素数と同じ枚数でより大きい素数でないといけない。例えば、Qと7で127が出た後には8とJで811を出すことはできるが、4と4と3を使って443を出すことはできない(枚数が違う)し、7と9で79を出すこともできない(場の数以下になっている)。

・出せないときは、パスすることができる。

・合成数であっても、手札からその数の素因数分解に含まれるすべての数を一緒に出すことが出来れば、その数を出せる(もちろん元の合成数も出さなければならない)。例えば、12と一緒に2と2と3を出せば、12=2*2*3なので出すことが出来る。ただし、場に出た数自体は12なので、もし12をクイーンで出せばこれは1枚出しということになる。

・「57」という数は特別で、素数の代わりに57を出すと場が流れる(ただし57を素数とみなしたときに出せる状況でないと出せないので、57より大きい数が出ているときや1枚出しの時は出せない)。

・ある1人以外のプレーヤーが全員パスしたら、場が流れ、場のカードは全て山札に戻る。

・素数出しまたは合成数出しを行うと、素数出しのときは出した数が本当に素数かどうか、合成数出しの場合は素因数分解が正しいかどうかの判定が行われる。素数でない、あるいは素因数分解が正しくない場合は、出したトランプを全て手札に戻し、さらに出した枚数(合成数出しの時は素因数の分も含む)の分だけ山札から手札にカードを追加する。


『これが全部ではありませんが、とりあえずこれだけでも十分楽しめます』

「だいぶ理解できてきました」

『では、早速このルールでやってみましょう。そちらからどうぞ』


僕が先攻のようだ。僕は手札を見て驚いた。素数を作りたいのに、奇数が1枚もない。とりあえず、手札を数字の順番に並べ替えた。


22244466101010


麻雀なら三暗刻だ。だがここではそんなことは全く役に立たない。

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