Linear omega level

第30話 グラハム線(後前編)

〔間もなく右手に見えますのは、ブーゴルプレックス駅です〕

僕たちが話し終わったタイミングで、車内アナウンスが聞こえてきた。


『ブーゴルプレックスは、次のように表される数です』

a↑^n b = {a,b,n}とするとき

boogolplex = {10,10,{10,10,100}}


『矢印で書くと、こうなります』


10↑↑...↑↑10

 `----v----′

10↑↑...↑↑10

 `----v----′

   100


「グラハム数に比べると小さいですね」

『はい。ですが、すでに矢印の本数は巨大数になっています』

「確かに、テトレーションなどと比べたら大きいですね」

とは言っているものの、何か心に引っかかることがある。この気持ちは何だろう。僕はもう一度定義を見返す。


boogolplex = {10,10,{10,10,100}}


左辺と右辺の式が、何か合っていない気がする。定義だからこれで間違いないはずだが、何かがおかしい。僕は定義をじっくりと見る。


boogolplex = {10,10,{10,10,100}}


やっとわかった。左辺にはplexと付いているのに、右辺は10の形になっていない。n-plexは10のn乗という意味だから、その形になっていないのがおかしいのだ。

(著者注: 明らかにboogolplexは10^(整数)の形で書ける。このことは非常に自明なので証明は読者の演習問題とする。)


『何か気がかりなことがあるのですか?』

彼女が話しかけてきた。

「左辺はplexが付いているのに、右辺が10の何乗の形になっていないのはおかしいと思っていたところです」

『はい。実は、この数を定義した人は-plexを別の意味で使っていたのです。n-plexは、nの定義式の100をnに変えたもの、という意味で使われていました』

彼女はboogolplexの行の上に書き足す。


boogol = {10,10,100}


「定義が人によって違うと、混乱しそうですね」

『実際には名称は駅名くらいでしか使われないので、それほど混乱しません』

「そうですか」

なんとなく腑に落ちない気分でいると、また次のアナウンスが聞こえてきた。


〔間もなく右手に見えますのは、ブーゴルドゥプレックス駅です〕

『ブーゴルドゥプレックスは、ブーゴルに2回プレックスを適用した数です』

彼女はboogolplexの行の下に書き足す。


boogolduplex = {10,10,{10,10,{10,10,100}}} =


10↑↑...↑↑10

 `----v----′

10↑↑...↑↑10

 `----v----′

10↑↑...↑↑10

 `----v----′

   100


「ここでも、plexは違う意味で使われているのですね」

『はい。同じ系列の数なので、boogolplexと同じ意味で使われています』

そういうものなのか、と僕は妙に納得した。

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