第23話 FREAKS' SHOW ⑥

「常に動き続けろ。少数で多人数を相手取る時の基本だ。死ぬなよ」


「ルスヴンさんこそ」


 そう言うとルスヴンとシルバーレインは間髪入れず、それぞれ別方向の敵に向けて走り出した。まとめて攻撃を喰らわないためとお互いに邪魔をしないため離れたのだ。ルスヴンは戦闘用ゴーレムの方向へ。シルバーレインはパンプルムースの方向へ。もちろんどちらの方向にも魔法使い達はまだ大勢残っている。


 ルスヴンは経験から敵陣の崩しやすい所を見極め、肉食獣の如き凄まじい勢いで、素手で魔法使い達を蹂躙していく。ハンマーを連想させる剛腕を一度振るえば、魔法使いの束が軽々と吹き飛んだ。防御も回避も間に合わない。


 近接格闘の心得がある者のうち一人がフェイントを織り交ぜて魔術短刀アサメイと呼ばれるナイフで脇腹を突こうとし、もう一人が鉄爪を振り上げて袈裟懸けに斬りつけようとした。ルスヴンは動じること無く、まずナイフ使いが自分と鉄爪使いで挟み込まれる、鉄爪使いにとって味方が邪魔になるような位置に移動した。次いで左手で自分がナイフ使いの腕の外側に来るようにナイフを捌き、右膝に前蹴りを打ち込んだ。いともたやすく膝が曲げてはいけない方向に曲がり、ナイフ使いはは苦悶くもんの叫び声を上げる。ルスヴンは右手でナイフを奪いつつ左手で相手を引き寄せ楯にした。攻撃をためらう鉄爪使いにナイフを投擲する。右目に見事命中し鉄爪使いは絶叫した。ナイフ使いには鳩尾みぞおちにロシアンフックを打ち込み気絶させた。


 そのような獰猛どうもうな暴力を冷静な戦術眼で使う。魔法も迂闊うかつに使えない。使うと同士討ちになるようなポジション取りをするように、ルスヴンが常に立ち回っているからだ。ウィッチシーカー側は数で圧倒的に勝っているにもかかわらず、徐々に切り崩されていくかのように思われた。


 そこへ4m以上の体高がある戦闘用ゴーレムが迫る。背後からの強烈な一撃を身を低くしてかわし、そのまま軸足を払う。だが、いくら体勢が崩れていたとはいえ体重差がありすぎた。ルスヴンの膂力りょりょくを持ってしても転ばせるには至らなかった。反撃の踏みつけがルスヴンを襲う。ルスヴンは、赤い血霞となってしまった。


 踏み潰されたからではない。踏みつけが触れる寸前に、比喩でも何でも無くルスヴンの身体が血のように赤い霞となったのだ。


「どうした?当たっていないぞ?もっとよく狙ってみてはどうかね?」


 赤い霞はそのままゴーレムに纏わりつくように上に昇った。背後斜め後ろを取った状態で回転しながらルスヴンの身体に実体化する。ゴーレムは振り向きざまに裏拳を放った。  



「――――吸血鬼魔法Kazıklı Bey断罪剣cellat mızrağı』」



 裏拳は当たらなかった。それどころか逆にゴーレムの右腕と、首の装甲の薄い部分が半分ほど切断されていた。


 地面に降り立ったルスヴンの手には鮮血の如き赫い剣が握られていた。実体化しながら魔法と斬撃の予備動作に移り、一手早く攻撃したのだ。そのまま止まること無く次のゴーレムに襲いかかる。


「済まないね君達」


 ルスヴンは言った。


「我々の邪魔をするのであれば、少々痛い目を見て貰おうか」

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