第3話 アニー ③
「…………?」
「どうしました?」
「いえ、広告が気になって。あ、この道を左です」
今、あまりに弱く、そして一瞬であったが灰谷の魔法覚に近くで魔法が使われた感覚があった。終野が魔法を使うような動作は一切確認出来なかったが、灰谷はもう迷わなかった。隣の終野にバレないように細心の注意を払い、会話をしながらロックを外し、緊急連絡用の栞を破く。
現在、灰谷契と終野澄香は灰谷の案内で、雑談をしながら仙台市図書館に向かっていた。
「────という訳なんです。ちなみに献本する本はこれです」
と、終野が会話の流れから、『プリンキピア』と思われる本をおもむろに取り出した。表情は笑顔だったが、どこか陰があった。灰谷の緊急連絡には気付かなかったようだ。
その緊急連絡への『塔』からの応答が来ない。何故だ?
実は相当にまずい事態が進んでいるのではないか?
「本当の事を言うと、あまり献本したくないんです。祖母の大切にしていた本ですから。私も大切にしたかった。いえ、違いますね」
終野は一呼吸置いて、続ける。
「私には、祖母の他に大切に出来る人や物がありませんでした。きっと私には大切に出来ないでしょう。然るべき所で保護して貰うのが一番いいのでしょうね」
そう言った。まるで、物であるはずの本に対して、人のように見なしているような、そんな言い方だった。
だが、灰谷の意識は終野が見せた本の方に引き寄せられていた。魔導書である事は間違いない。しかし確実に『プリンキピア』ではない、表紙だけが『プリンキピア』を模した偽物だ。
何故それが判ったか。今まさに現在進行形で魔導書から魔法が使われていたからだ。
灰谷契は即動いた。終野が「保護して貰う」と言ったあたりで魔法は使われ始めた。魔導書の予備動作からどこにどのような魔法がくるか予測。「一番いい」の所で右手のみで終野の奥襟を取り、重心を崩す。「のでしょうね」の所で何が起こっているのか分かっていない終野に大外刈りの要領で足を後ろから払い、終野を掴んだまま前方に5m移動した。
一秒前まで二人がいた場所を、軽トラック程の大きさの泡のような影で出来たナニカオカシナヘンナモノが通り過ぎていった。
それは、戦闘態勢をとった灰谷と驚いて固まっている終野に向き直り、威嚇するようにボコボコと音を立てた。シルエットは猪に近いが、腕、脚、頭は人間の形をしており、顔に当たる部分がなかった。
気付けば辺りに人影はなく、その代わりにそれ以外の街の全ての物が泡のような影で出来ていた。
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