第31話 SOS ⑥
ウィッチシーカー所属の魔法使い、
そして今、石神は『
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それは突然だった。
「くっ……」
このまま放っておけばどんどん侵食されていく。やむを得ない。莉花はとっさの判断で、ハッキングを受けた部分とその周辺の魔法を解除した。これで今以上の侵食は防げる。
それは戦術的には適切な判断であった。
しかし戦略的には不適切な判断であった。
何故なら、石神の立場上最も困ることは、『莉花達が既に地下鉄構内から出ており、どこに行ったか完全に見失う』事だからである。ハッキングに対して適切な対処をしてしまったことで、『今使われているカバラ魔術が自動発動であり、莉花達が地下鉄構外へ逃げ去っている』という可能性が消えた。
少なくとも莉花の認識射程内に地下鉄車両が入っており、干渉できる場所にいる事は間違いない。それが確定した以上、拘束するのは石神量子クラスの魔法使いにとっては簡単なことだった。
地下鉄が勾当台駅に停まった。しかしドアは開かない。代わりに莉花が『干渉遮蔽』『迷宮構築』を解除し、石神が掌握している部分の床から広がる渦の様な穴が開いた。そしてそこから一つだけ、楕円形の物体が飛び出してきた。
莉花はそれを『弾道誘導』で迎撃しようと銃を構え──ようとした時点でそれが何なのか気付く。もう遅かった。迷宮の壁を莉花からは透過して見える設定にしていたのが
それの機能と形は先程の縺昴l繧峨?繝偵にも似ていた。それであれば、莉花達は既に
「助けて」
スタングレネードと呼ばれるそれが放った凄まじい爆音と光は、莉花の意識を一瞬で刈り取った。
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意識を一瞬で刈り取られそうなほど凄まじい爆音と光が放たれた。視界が真っ白に眩んで鼓膜は破れそうだ。頭も痛い。この世界の祖母が作った魔導書──ローリアが使った魔法の余波を受けた時の事を思い出した。
それでも時間にすれば2秒程度のことだった。あの時に比べれば大した事はない。すぐに普段通りに回復する。それと同時に右手に奇妙な重みを感じる。
「リーファちゃん!?」
地下鉄内に入ってからずっと手を繋いでいるリーファちゃんが気を失い、身体を抱きかかえるようにしていた。側には何故か壊れた人形が落ちている。完全に脱力しているように見えたが、左手だけは固まったかのように強い力が入っていた。
つまり、私、
リーファちゃんの魔法は解けていく。地下鉄の壁や床を覆っていたものや、築かれた迷宮の壁がボロボロと崩れ落ちていった。
だが、リーファちゃんから湧き出ており、手を繋いでいる間私の事も覆っている『無の気配』は未だに続いている。きっと他の人からは私達は見えていないのだろう。
そして、リーファちゃんが最後に言った言葉を私は確かに聞いた。「助けて」と。
助けなくちゃ。でもどうやって?
お世話になったウィッチシーカーの人達と戦うの?
地下鉄内の床が歪む気配がする。またあの渦のような穴を発生させる魔法だろう。今度はこれまでの比ではない、地下鉄そのものを飲み込む大きさだ。リーファちゃんの魔法が無くなったから使えるようになったのだ。
もう何度も見た。だから消し方も分かる。
穴が開いた。そのタイミングで靴のつま先でトントン、と2回ノックをする。思った通り消し飛んだ。やはり『隙間』を開く時と同じ要領でやればいいのだ。
さて。
「ここからどうしよう……困ったな」
地下鉄の空間そのものが、ぐにゃりと歪んだ。
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