第13話 ローリア ①
時は少し遡る。
「最後に確認しますが、本当に『悪魔の揺り籠』に澄香さんも入るのですか?黒枝Bが作った黒枝────便宜上黒枝Cと呼びますが────黒枝Cさえ入ってしまえば後は防衛戦、時間稼ぎとなります。リスクを侵して黒枝Cと2人きりにならなくても、時間稼ぎの手段はこちらで講じますが」
「お願いします。私なら大丈夫です。どうしてもやらなくてはいけない事なんです」
「……分かりました」
石神さんはしぶしぶ了承してくれたようだった。
「ですが、退避コードを教えますので、必要な話だけしたらすぐに逃げて下さい。黒枝Cがあなたを殺したくないというのは憶測に過ぎませんし、殺しさえしなければいいと思っているかもしれません。よろしいですか?」
「分かりました」
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そして現在に時は戻る。私の目の前には黒枝C────少女が黒いタールのような液体を吐き出しながら苦しんでいた。
私は言った。
「もう一度言います。降参して下さい」
少女は苦しみえずきながらも、こちらをキッと睨んだ。そして何かに気付いたように自分の胸に手を当てた。
「魔導書が……ない」
そう。
石神さんからはこのように説明を受けた。
『悪魔の揺り籠』は内部に入れる対象を選べるが、一つの生物に対しては1単位として扱い、身体の一部のみを千切り取るような真似は出来ないそうだ。
だが、魔導書は生物ではない。そして黒枝Cは、魔導書が発動した魔法によってヒューマン・イミテーターに黒枝Bを
つまり、魔導書と黒枝Cは別々の存在なので魔導書のみを『悪魔の揺り籠』に入れる事は可能なのだそうだ。そして魔導書から常に使われている魔法によって存在している黒枝Cは、魔導書が無くなれば存在を保っていられない。魔法的な慣性で数分は持つだろうが、それを過ぎれば崩壊するだろうとの事だった。
「ゴボッ……舐めるんじゃないわよ」
自らの身に起こった事態を把握しながらも、少女は折れなかった。
折れなかったが、自ら弾け飛んで消え去った。
『悪魔の揺り籠』の中には、私だけが残された。
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それと同時に、『悪魔の揺り籠』の外側にあった魔導書がバラバラと凄まじい勢いでページがめくられ、同時にページの隙間から莫大な量の漆黒の影が泡立ちながら溢れ出した。
ボコボコと溢れ出した影は本を内側にして人の形に固まっ
ていく過程で首を
「予測してない訳ねーだろ。馬鹿が」
『悪魔の揺り籠』の内部の黒枝Cが死んだ事により、魔導書を中心に存在を再構成しかけていた黒枝Cを斬った張本人、
斬られた黒枝Cの身体は切断面からボコボコと泡のような影を出し、尚も身体を繋ぎ合わせて再構成しようとする。そこを常磐木はまた斬った。
「魔導書に対する拘束・ジャミング・ハッキング・リソースの枯渇を目的とした各種魔法・呪術等計128種をお前がいない間に掛けていた。一つ一つが対終野黒枝を想定したレベルの魔法だ」
反撃・再生しようとしていた黒枝Cの動きが徐々に鈍り、そして止まった。固まりかけていた影がボロボロと崩れおちていく。
「このまま死ぬまで斬り続ける。完全にリソースが尽きてからお前を封印書庫に送る」
その言葉通り常磐木は高速で何十回も斬り続ける。単なる滅多斬りではなく、全て刃筋の通った急所を的確に斬っていた。
崩れかけた胴体の切断面から口だけが発生する。そこを常磐木は斬
る寸前で刀を止めた。
口が
「リソース?その手の下らない発想に
胴体全てが口になり、極限まで大きく開かれた。常磐木は既に後方に跳んでいた。
大量の濁り切ったドブ河の大洪水の如く、莫大な量の漆黒の影で出来た
だが、それは常磐木達に届く事無く、見えない壁に阻まれた。見えない壁に触れた時点で
「悪いね。パンプルムース」
「かまへんよ」
常磐木が礼を言い、常磐木の後方にいた金髪碧眼の女性がそれに応えた。
彼女が、攻性防御にアレンジした
「しかし妙やねえ。魔導書に使った魔法も呪いも、結構効いてるはずなんよ。ほら見てみ?黒枝Cの身体を作ったそばから崩れて、ほんでまた作って……を繰り返しとるやん?見るからに苦しそうやし。どうも本当に無限のリソースがあるっぽいんよね。それを湯水のようにつぎ込んで、無理に機能継続しちょる感じ?」
「だってさ。どうする?石神ちゃん。あの状態なら全員で畳みかければ多分勝てると思う」
常磐木は、パンプルムースの話を石神に振った。
「指示くれ」
石神は一度目を閉じ、そしてまた開けて、よく通る
「魔導書の確保は諦めます。目的を魔導書の破壊に切り替え、戦闘をお願いします」
気負いもてらいも恐れも傲りもない、ただ事実をありのままに捉え、覚悟を決めた魔法戦闘のプロの顔で、全員が答えた。
「了解」
戦闘が再開された。
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一方その頃、終野澄香は────
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