第21話 FREAKS' SHOW ④
そこはよく手入れされた庭園のような、緑溢れる場所だった。ここはウィッチシーカーが管理するワールドアパートの一つである。
だが、そこには緑溢れる庭園には似つかわしくないものがあまりにも多すぎた。所々石造りの東屋のようなスペースが有り、そこに本棚、机、椅子が設置されている。それだけならまだいいのだが、その周囲で本が飛び回っており、さらに人型の機械めいた何かが、ガシャンガシャンと音を立てながら忙しそうに何らかの作業をしていた。飛び回っているのは魔導書、人型の機械は司書ゴーレムである。
何よりも異質なのは、庭園の中心に設置された金属の檻だった。そこには二人の外国人の男性が捕らえられている。『フリークスレギオン』構成員、ルスヴン・ファイアアーベントとジュノー・シルバーレインである。二人は、石神の使った魔法『アバドーン』でこのワールドアパートの檻の中に転送されたのだ。
「すみません、俺のミスで捕まってしまいました」
「構わん、私の落ち度でもある。それに威力偵察の成果としては十分な情報が得られた。
それにしても
ルスヴンは、現在も作戦に加わっている仲間の名を口にした。青い髪とイヤリングをした美女で、そして元ウィッチシーカーの構成員である。
「やはり適当な事を言っていたか。あの女やはり信用ならんな」
「まあ、とりあえず今はここから出ましょうよ。ワールドアパートの発動体は内側にないといけませんから、それを壊せば脱出できるはずです」
「そうだな。手始めにこの檻を壊せるか?」
ルスヴンは、彼らが閉じ込められている檻を指差した。シルバーレインは檻をよく観察した。
「この檻はチタン等が含まれるオリハルコン合金ですね。オリハルコンは魔法絶縁体ですけど、この檻のは純度が低いんで、俺の
「ああ。罠がないか気を付けろ。壊したらゴーレムや魔導書共との戦いになるだろう。そいつらも任せたぞ」
「了解っす」
シルバーレインは手袋をはめた手で檻に触れた。手袋から檻に黄金色の波のような何かが染み入るように放たれている。
シルバーレインは魔法を使った。
「灰は灰に、塵は塵に、万物は
詠唱が終わると同時に、檻は真っ黒に染まりそのままボロボロと崩れ去った。シルバーレインはジャケットから試験管を取り出し、抽出し液体状になったオリハルコンを回収する。異常に気が付いた魔導書や司書ゴーレムが何冊も、何十体も二人の方を向き、戦闘モードに移った。警報が鳴り響いた。
司書ゴーレム達が腕から戦闘用のブレードを出して走り寄ってくる。魔導書達は魔法の詠唱を始める。シルバーレインは懐から4個、野球ボールほどの大きさのカプセルを出し、それぞれ四方に山なりに投げつけた。
そこへ同じ魔法を詠唱完了した全ての魔導書が、凄まじい轟音を立てて衝撃波を撃った。地面が抉られて土煙が上がる。これは『ジャバウォック』と言う広い範囲を制圧するための魔法で、魔法の中では珍しく直接の物理影響力がある。カプセルはあっさりと壊されて、中身の非常に細かい赤い粉が空気中に散らばった。フリークスレギオンの二人も、全方向からの飽和攻撃で、死にはしないまでも全身の骨が折れてもおかしくない重症を負うはずだった。
そうはならなかった。土煙が晴れた後には、ルスヴンと前方に両手をかざしたシルバーレインがかすり傷ひとつ無く立っており、透明な六角形の盾を敷き詰めたハニカム構造の半球状のバリアが展開されていた。
「観測は操作の前段階、
そしてそれだけではなかった。シルバーレインは既に、わざと割れやすいように調整したカプセルを霊素盾を貼る前に真上に投げ上げていた。中身はなんの変哲もない火のついたマッチ。
カプセルが霊素盾にぶつかり、割れた。そして空気中に撒かれた非常に細かく赤い粉────異界の物質、
「物質が燃えるのに酸素など必要ない。
それは爆発に近かった。凄まじい業炎が周囲を焼き尽くした。業炎に巻き込まれた魔導書は跡形もなく燃え尽き、司書ゴーレムも大破するか機能停止に陥った。
「ざっとこんなもんですかね」
敵がいなくなった事を確認し、霊素盾を消したシルバーレインは、何事もなかったかのように軽い口調でそう言った。本来のペースを取り戻したのだ。
「早く発動体を見つけて、元の世界に戻りましょう」
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