第22話 FREAKS' SHOW ⑤

 庭園のようなワールドアパートを維持していた魔法発動体は大した手間もなく見つかった。本棚の奥が二重底になっており、そこに魔導書が隠されていた。


「思ったより簡単でしたね。もう壊しますか?」


「待て、シルバーレイン。我々を捕らえておこうとしていたにしては、あまりにもぬるいのではないか?いくら何でも我々を舐めすぎている」


「それはそうですね」


「十中八九罠だろう。恐らく、ここから出たタイミングで我々を再び捕まえるつもりだろう。『正当な手続きを踏んで捕まえました』という既成事実が欲しいのだ。ウィッチシーカーの連中にとって、正当性とは常に作り上げるものだ」


「かといってずっとここにいるわけにもいきませんし。困りましたね……」


「問題ない。私に考えがある」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ルスヴンの読み通り、客も店員もいなくなった喫茶店の中で、ウィッチシーカーの魔法使い達は二人がワールドアパートから出てくるのを待ち構えていた。石神が警察に根回しし、テロ予告があったと発表させ、人払いをしたのだ。


 待ち構えるウィッチシーカーの魔法使いは総勢20名。その中には幹部である、緑のローブで全身を覆い隠した人物貞岡と、金髪碧眼の魔女パンプルムースがおり、さらに戦闘に特化した体高4m以上もあるゴーレムが4体配置されていた。


 ダメ押しとばかりに、彼らがワールドアパートから出てきた際に戻ってくるであろう地点、即ち石神に『アバドーン』で吸い込まれた地点の床には、内部の者の身動きを完全に封じる魔法陣が描かれていた。


「来たようですね」


 店内放送から石神の声がした。それと同時に、魔法陣の中央の床に空間の歪みが生まれた。


「それでは皆さん、手はず通りにお願いします」


「承知しました」


 構成員達が一斉に答え、身構えた。

空間の歪みが大きくなっていく。やがて歪みは消え去り、代わりに二人の標敵が現れる――――はずだった。



 そこに現れたのは白銀色の、優に直径2mはある金属の球体だった。



 ウィッチシーカーの魔法使い達は突然の事態にも動じること無く、当初の手はず通りに拘束しようとする。数名が手に持っている魔導書を捲り魔法を唱える。



『ALI−02−BA バンダースナッチ』



 魔法陣から金属の球体に向けて無数の黒い帯が伸び、そして絡みつく。だが、上手くいっていない。球体だからではない。表面で弾かれているため、摩擦が無いかのように滑って上手く絡みつけないのだ。


 パンプルムースが、バールのような短い杖を軽く振った。これは空間切断ウィッチシザースという魔女術ウィッチクラフトの基本的だが強力な魔法だった。金属の球体に音もなく斬撃が走ったが、これも効いていない。


 他の者がさらに攻撃を畳み掛けようとしたその時。


 あらかじめ金属の球体の見えづらい位置にくっつけてあった、燃素フロギストンの詰まった時限爆弾が爆発した。それによって金属の球体は猛烈な勢いで回転しながら、ウィッチシーカーの魔法使い達に襲いかかった。彼らは何人もボーリングのピンのように弾き飛ばされ、最後にたまたま真正面に立っていた貞岡に直撃した。貞岡は金属の球体ごと壁にめり込み、首だけガクッとうなだれて気絶した。


「……!?」


 ウィッチシーカーの魔法使い達に動揺が広がる一瞬のスキを突いて、シルバーレインはルスヴンと自分を覆い守っていた金属の球体を解除した。金属の球体は液体状になってシルバーレインの持っている試験管に吸い込まれていく。そう、その素材はワールドアパートの中で最初に二人を捕まえていた檻を分解した際に回収した、オリハルコンだったのだ。シルバーレインの先端錬金術アルファアルケミーによって極限まで純度を高められたオリハルコンは、大抵の魔法を絶縁する。量が量なのでこれ以上攻撃を重ねられたら流石に破壊されただろうが、初撃をしのぎ切るのと不意討ち、そして身動きを封じる魔法陣を無効化するのにはこれで十分だった。


「常に動き続けろ。少数で多人数を相手取る時の基本だ。死ぬなよ」


「ルスヴンさんこそ」


 そう言うとルスヴンとシルバーレインは間髪入れず、それぞれ別方向の敵に向けて走り出した。


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