第28話 SOS ③
ルスヴン達は喫茶店内での戦闘に勝利した際、倒したウィッチシーカーの魔法使いの身の安全と引き換えに、シルバーレインの身柄を引き渡す様石神に交渉した。交渉は成立し、シルバーレインは応急処置を施した後ルスヴンが背負っている。
「今日の所は帰るとしようか。我々フリークスレギオン内でよく話し合った後、日を改めてまた来るとしよう。それと君達の対応も含め今回の件は君達のスポンサーに連絡させてもらう」
「ご自由にどうぞ。お気をつけて」
「ではさらばだ。『天使の揺り籠』」
ルスヴンは薄桃色の球を床に転がし、発動した。 これは『悪魔の揺り籠』と対になる
「待って」
花散里奏が止めた。
「この中なら外に話は聞かれないのよね?
花散里は緊急連絡装置である呪術人形を見せた。右足と左手首が破損している。ウィッチシーカー側に奪われ情報が漏れるのを防ぐために花散里と
「……了解した。『錨』は設置できたのか」
「一応1個は設置できたみたい」
「そうか……不幸中の幸いだな。とにかく第二集合地点に向かおう」
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地下鉄、五橋駅。フリークスレギオン構成員、
平日のこの時間帯は、あまり利用者は多くない。だが莉花はできるだけ人目を避けるようにして行動し、幼い頃その身に受けた、『莉花が望めば誰からも認識されなくなる』という呪いあるいは祝福をフル活用して行動している。先程この街の主要なポイントに『錨』を埋め込んでいる際、よりによってこの作戦の口実であり発端となった終野澄香と思われる人物に何故か一発で発見され、話しかけられたからである。放置するわけには行かなかった。拉致されたにも関わらず何ら怯えた態度もなくのんきに話しかけてくる澄香は薄気味悪かったが、嫌悪感はあまり感じなかった。雰囲気が、幼い頃に生き別れになった妹に似ていた。あるいは妹にも、自分にも澄香のような人生があったのかも知れない。
思い出したくない記憶を思い出しそうになったため、莉花は思考を切り替え、作戦の事に集中することにした。澄香とも家族とも、きっともう二度と会うことはないのだから。
莉花が離れたため既に終野澄香は存在を発見され、今頃ウィッチシーカーの連中に事情を聞かれていることだろう。奴らが追ってくる前に第二集合地点に向かわなければならない。
『一番線に、間もなく電車が参ります。危険ですから白線の内側までお下がりください』
駅の構内アナウンスが聞こえた。莉花が次に乗るつもりの地下鉄だ。だが莉花は切符など買っていないし勿論定期も持っていない。不本意ながら無賃乗車をするつもりであった。いくら莉花が世界からほとんど認識されないといっても、不審な乗車記録を残せばそこから足がつき、ウィッチシーカーに捕捉される危険があった。ウィッチシーカーの調査能力については未知数な部分も多いが、とにかく最大限の警戒を以って、特に莉花は存在をバレないように動くよう事前のミーティングで言われていた。
なにしろ今回の作戦は莉花の存在がバレないことを前提に立てられている。極端な話、(莉花の個人的な感情とは別として)ルスヴン・ファイアアーベント、ジュノー・シルバーレイン、花散里奏の三人の存在がバレようが捕まろうが殺されようが、莉花さえ作戦を遂行できればそれで成功なのだ。あの三人は陽動部隊である。 一応『錨』を埋めるという最低限のノルマは達成した。
と、そこへ唐突に。
莉花から3m程離れた所の空間が開く。
そこからゴロン、と空中から終野澄香が落ちてきた。受け身もろくに取れていない。
「いたた」
「……!?」
思わず走り寄る。
「どうしてここにいる。なにをしている」
「あっリーファちゃん!大丈夫だった!?ウィッチシーカーの人に追われなかった!?」
現在進行系で追われているしそれはお前のせいだしそもそもお前もその現場にいたはずだしお前がいるとますます捕捉される可能性が高くなるしこちらの質問に答えろという事を伝えたかったが、莉花の日本語能力ではそれを翻訳できなかったので我慢した。
代わりに「さっさと帰れ」と言おうとしたその時。
澄香の顔色がさっと青ざめた。
「リーファちゃん!」
澄香が莉花の腕を強くつかみ、手前に引く。
何をするのかを問いただそうとした瞬間。
一秒前まで莉花が立っていた地点に、広がる渦のように人一人分の大きさの穴が開いていた。
「…………!!」
息を呑み、顔を見合わせる。
明らかなウィッチシーカーからの魔法攻撃。だがどこから?どうやって?
何より対応が早すぎる。
シュウ、と音を立てて地下鉄が到着した。落下防止ゲートとドアが開く。
「乗って!」
澄香が莉花の手を引いた。半ば呆然としたまま、引かれるがままに乗り込む。ウィッチシーカー側に
地下鉄のドアが閉まり、発車した。
そこでは凄惨な戦闘が繰り広げられることとなる。
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