第15話 ローリア ③
そこには────
全身が崩れかけた少女。そしてそれを取り囲むウィッチシーカーの魔法使いが、私から50m程離れた場所で今まさに戦闘中だった。
「お嬢ちゃん、『悪魔の揺り籠』壊してきたんやね」
不意に、呟くような声が掛けられた。金髪碧眼の外国人の女性だ。戦闘の輪から離れ、澄香のすぐ近くにいたが、戦闘体制を全く崩してはいなかった。張りつめた気配を発しており、私に話しかけながらも目線は少女を捉えている。
「何しにきたか知らんけど、何もせんとおとなしくしとき。今来てもお嬢ちゃんに出来ることは何もあらへん。────何より、力ずくで無理矢理出てきはったんやろ?解除コード使わないで」
「自分、もう呪いかかっとるよ」
声を出す間もなかった。
突然目の前の床が壁のように競り上がってきた────あれ、なんで、と思ったが。
錯覚だった。実際に床に近づいているのは私の身体で、つまり私が床に倒れ込んでいた。痛みすら感じない。
薄れゆく意識の中で、虚ろに女性の声を聞いた。
「仮死状態になるだけの呪いや。大丈夫、寝てる間に全部終わる」
嫌だ。
今度は、今度こそは助ける。
バキッ、と音がして、私の中で呪いが砕けた。間髪入れず再び立ち上がる。前を見る。
今まさに、崩れかけた少女の
「……
あの子たちにお願いした。ギロチンからあの子たちが
「……!」
その場の全員が、当惑と怒りを孕んだ眼で私を見た。そして誰よりもその感情が強かったのは。
「……………………」
私が今助けた、もう既に全身ボロボロの、瀕死とさえ呼べる状態の少女だった。持ち前の邪悪な可憐さをかなぐり捨てた、鬼のような顔で私を見ていた。
その姿を不意に見失って。と思ったら目の前にいて。
お腹をおもいっきり蹴り飛ばされた。大して痛くはなかったが、それでも瀕死とは思えない力だった。
思わず身体をくの字に折った所に顔面に膝蹴りを喰らった。
「ア……アンタ本当に死にたいの」
声が怒りのあまり震えていた。
「この私が……アンタ
少し冷静になったものの、怒りを全く隠さない、
「大好きなお婆ちゃんに地獄で褒めてもらったら?いいこと教えてあげる。今回の計画の首謀者は誰だと思う?アンタの祖母よ。ウィッチシーカーの連中もろとも出来るだけ苦しませてからアンタを殺すように契約したの。よっぽど恨まれてたのね。面白」
「そうだったんですか」
私は心底安心した。
「良かった……」
「はああ!?何でよ!」
「はいはいいいかな君達」
常磐木さんが呆れたような声で会話に加わった。
「語るに落ちてんぞ。それだと色々矛盾が生じるだろ。あのな、俺対策なのかなんなのか知らないけど、言い方を曖昧にしたり事実をあえて歪んだ解釈で伝える事で印象操作しようとしたり肝心な事だけ言わなかったり、そういう『嘘はついてないが本当の事も言ってない』系の誤魔化し方、全部意味ねーから。そういうのも広義の嘘に含まれるから」
そう少女に言った。少女は常磐木さんを睨んだ。私は言った。
「祖母に頼まれたというのは本当なんですよね?」
「…………」
少女は答えない。
「祖母が何を目的として計画を立てたのかはもう知ろうとは思いません。それはもういいんです。祖母が私に何かを遺そうとしてくれたというだけで十分なんです。
今までありがとうございました。あなたを倒し、そして護ります。
かかってこい!」
私は大声で少女に────終野黒枝に宣戦布告した。震える声で。裏返った声で。
終野黒枝は。
爆笑した。
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