第36話 ゴールデンタイムラバー ④
ドッ、というその威力の割に小さく短くコンパクトで、それなのに
そのはずだった。空間防壁はびくともしなかった。
「何今の音?」「えっなに?動画撮影?」「怖……近寄らんとこ」
「無駄ですよ、花散里奏」
通行人の声に混じって、花散里の耳にどこからか
「指向性のスピーカーであなたにだけ聞こえるように話しています。まず、この空間防壁は貴方の攻撃を想定して構築しており、いくら殴ろうとも破壊されることはありません。さらにお察しのこととは思いますが、貴方がたの行動は全て把握しており、帰還用ポータルも全て私どもの方で確保しております。貴方といえどもできることはもう何もありません。ご理解いただけたら終野澄香さんを解放して投降してください。悪いようには……」
『平行植物界因果律植物門虚空植物網事象植物目トロイメライ科トロイメライ属トロイメライ種。
花散里は一気にそう詠唱すると、自分の右こめかみに親指と人差し指を突っ込んだ。
そしてジュルジュルと音を立てて指を引き抜いた時、その指には五百円玉程度の大きさの暗青色の花が根っこごと摘まれていた。血液、脳漿等の体液は一滴も付着していない。一見コスモスのようにも見えるが、目を凝らして見れば見るほどコスモスとはかけ離れたなにかのようにも見えてくる。そしてその花弁は常に回転していた。
「相変わらず話が長いのね。もっとシンプルで面白い事しましょ?」
花弁の回転が激しさを増す。それとともに花弁の周りの空間が渦を巻くように歪んでいき、回転が速くなるごとに歪みが大きくなり、花散里も澄香も莉花も巻き込み、通行人もモニュメントもペデストリアンデッキも巻き込み、やがて駅も街も巻き込み、空間も時間も因果律さえも………………………………
「?ょしまし事い白面でルプンシとっも。ねのい長が話ずらわ変相」
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莉花と澄香の確保に成功した花散里は、二人同時に左肩で抱えてある場所へと走っていた。
二人が空気に押し潰されないギリギリのスピードで、街灯や建物を飛び移るパルクールじみた動きでショートカットしつつ急
いでいたのだが、道の真ん中で急停止した。左肩の二人はあわや慣性で投げ出されるかと思いきや、うまく力を流されてふわりと着地した。
「あっ、ここが目的地なんですか。でも、『隙間』はどこにも見えませんけど……」
「違うの。莉花、起きて」
「うう……」
頬をぺちぺち触られて莉花が目覚めた。
「予定変更。もうこの手しかないんだからしょーがないわよね。うん、しょーがない」
花散里は
「莉花!澄香ちゃん!『塔』にカチコミに行くわよ!」
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その頃、フリークスレギオンが一時的な拠点として使っている某国の寂れたビル。
「花散里からの連絡はまだか……」
ルスヴンがやや焦れた様子で言う。それに対して、狩猟用の服を着た長身の亜麻色の髪の男がニヤニヤ笑いを浮かべて応える。予備戦力として待機していた、灰谷を撃った男だ。
「旦那も心配性ですねえ。まだ10分ぐらいしか経ってないですよお」
「ウィッチシーカー側が何の手も打たないはずがない。ましてや花散里の強さも、手の内も我々以上に解っているはずだ」
「大丈夫ですって。さっきの奴ら見たでしょ?あんな大した事ない連中、姉さんならさっさと片付けて、今頃は『塔』ごと壊滅させているかもしれませんよお」
「それだ。一番の問題は」
「は?」
「実際に可能かどうかは問題ではない。あの女は強者に飢えているタイプのバトルジャンキーなのだ。戦ってもいい口実があれば何でもするし、誰とでも戦うぞ。かつて自分が裏切った古巣ともな」
狩猟服の男からニヤニヤ笑いが消えた。僅かだが冷や汗をかいている。
「……いやいや冗談ですって。姉さんだって分別はあるんですから。大体なんでそうなるんですか」
「ウィッチシーカーの情報力から考えて第三ポータルは既に封鎖された可能性が高い。それに加え莉花への助けが間に合わなかったにしろ間に合ったにしろ我々との連絡が取れないのであれば状況は差し迫っていると言っていいだろう」
「連絡取る手段が無いんじゃないですかあ?スマホもないし、盗聴とか探知を警戒してるとか、あとここの場所がばれるかもしれないとかあるじゃないですかあ」
「そんな些末な情報より梨花が捕まる方が遥かに大問題だ。なのでもう既に、フリークスレギオン中枢に救援を要請している。シャストル、お前も出られる準備をしておけ」
「いつの間に……。そんで姉さん達を助けに行くんですかあ?無茶ですよお。
「問題ない――来たようだ」
ルスヴンが古ぼけてくすんだドアの方を見た。シャストルも釣られるように見た。
コンコン、と静かなノックの音がした。
「こういう時のための隠し玉を呼んだ。救援感謝する。入れ」
ドアが軋みながらゆっくりと開いた。
マジカルライフ 加納佑成 @awcyfollower001
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