第26話 SOS ①


「誰も来ないね……」


「だまれ」


 私、終野澄香ついのすみかは、ハピナ名掛丁なかけちょう、アーケード街で出会った謎の女の子に拳銃を突きつけられ、五橋いつつばし方面の空き家の中に連れられて来ていた。


 中は完全に荒れ果てており、カビとほこりが私達が動く度に舞い散る。至る所に虫がいる。地震が来れば倒れるのではないかというくらい家自体が傷んでいる。もちろん電気など通っていないので薄暗かった。


 連れてこられる途中で色々質問したが、その度に嫌そうな顔をされた(日本語がよく伝わらなかったのかもしれない)。だが名前と、今から女の子の仲間の人と合流するのだということだけは教えてもらった。


 女の子の名前はリーファちゃんというらしい。胸の大きな、普段は物静かそうな感じの女の子だ。それなのに何故私は脇腹に拳銃を突きつけられて拉致されようとしているのか。それについても訊いてみたが、一切答えてくれなかった。


 それにしても不思議なことに、空き家まで移動する間、リーファちゃんは私に密着して特に隠す様子もなく拳銃を突きつけているにも関わらず、誰にも見咎められることはなかった。見てみぬふりをされているというわけではなく、本当に私達の存在が見えていないらしい。他の人はこちらを見てもいないし、リーファちゃんはできるだけ人ごみを避けて歩いたにも関わらず、途中何度も人にぶつかりそうになった。途中お巡りさんとすれ違ったが、全く気づかれなかった。


 そんなわけで、二人寂しく寂れた空き家の中でぽつねんとリーファちゃんの仲間の人を待っているというわけなのだ。リーファちゃんはなんだか不機嫌そうだし、話題がなくて気まずい。


 と、思っている所に私のスマホに着信があった。取り出して表示を見ると、非通知設定だった。誰かは分からないが、今の状況を伝えて助けを求められるかも―――と思ったが、


「でるな」


 リーファちゃんが拳銃を突きつけながら言った。その通りにした。


 駄目だったか……


 20コールほどで電話は切れた。


「スマホをきれ」


 リーファちゃんが拳銃を突きつけながら言った。その通りにした。


 静かになった。そして再び、気まずい沈黙が訪れた。困ってしまう。


 えっと……何か場を和ます話題を……そうだ!


「あっそうだ!さっきそこでゲジゲジ捕まえたんだけど一緒に見る?4本位脚取れちゃったけど」


「しね」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 第一級監視対象 個体名終野澄香ついのすみか特記記録



 仙台駅周辺を散策中の、第一級監視対象 終野澄香(以下『対象』と呼称)の存在が消失するインシデントが発生した。以下にその内容を記録する。


インシデント発生日: XXXX年XX月XX日 


報告内容:

15:00 - 仙台駅前ビル、EBeanS4階の野外休憩スペースで対象がベンチに座っているのを確認。バイタル正常。魔法反応正常。存在安定率99.99991%。


15:10 - 対象はビルを降り、南東方向に移動開始。理由は不明。


15:25 - 対象はアーケード街、ハピナ名掛丁なかけちょう中央部で立ち止まり、何者かと会話しているような言動を取る。同時に存在安定率の急激な低下を観測、38.37332%まで落ち込む。その為監視カメラの映像に対象のみにブレが発生し、またあらゆる手段による音声データは取得出来ていない。


15:26 - 対象の存在消失。この事態に際し、ゼネラルアドミニストレータ石神量子より簡易調査チームの結成と『塔』のウィッチシーカーモードへの移行が要請される。


15:27 - 上記の承認手続き完了。直ちに施行される。フリークスレギオンとの関連を視野に入れ調査開始する。


15:56 - 南西方向に約2.1km離れた五橋周辺の空き家内に、対象が突然出現する。原因は不明。存在安定率77.4602%。観測は困難だがほとんど動かずその場に座っている様子。様子を見る。


16:06 - 動きが見られない為、非通知設定で対象のスマートフォンに電話を掛ける。22コール後も応答なし。意図したものかは不明。


16:07 - 対象のスマートフォンの電源が手動で切られる。


16:10 -石神の指示により、調査チームを現地に派遣する。空き家内及び周辺を調査、安全を確かめた後最終的に対象を確保する予定。


16:13 -調査チームが現地に到着する。

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