第18話 FREAKS' SHOW ①
某国、某都市の片隅にある寂れたビル、その一室。
4人の男女が簡素な丸テーブルを挟み、椅子に座っていた。
「結局集まったのは4人だけか」
屈強な、リーダー格の男が口火を切った。英語だった。
他のメンバーも英語で話す。
「しょうがないっすよ、急な話でしたし、『塔』案件ですよ?集まった方でしょ」
「連絡手段がまさかの伝書鳩だったしね……使い魔でも何でもない本当にただの伝書鳩……」
革のジャケットを着た若い男と、眼鏡を掛けた陰気そうな胸の大きな女がそう言った。屈強な男が応える。
「仕方あるまい。ウィッチシーカーの探知力を侮るな。少しでも気を抜けば奴らは我々を嗅ぎ付けてくる」
「それで、間違いないの?終野黒枝の孫が現れたって話は」
蒼い髪とイヤリングをした涼やかな美女が長い脚を組みながら屈強な男に質問する。
「ああ、タカシが『預言』で喋った事だから間違いない。喧嘩を売るいい口実になったな。可能であれば接触しろ。ただし深追いはするな。あくまで目的を忘れるな」
「そう、本当にいるのね。フフッ、さらに楽しみが増えたわ。『塔』懐かしいわ……契は元気にしてるかしら」
「我らが王の帰還の日は近い。王に余計なご心労をお掛けせぬよう、露払いをしなければなるまい」
屈強な男は、迷いなく言い放った。
「我々フリークスレギオンが、この世界を統治する」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
不動産屋さんから出ると雨は上がっていた。先程とはうってかわって照りつける日差しが
私、終野澄香はこの世界で暮らす為の住みかを探しに仙台駅の方まで来ていた。今しがた契約を済ませ、川べりにあるアパートに住むことになった(石神さんが保証人になってくれた。何から何まで世話になりっぱなしだ)。
家具類は既に注文しておりアパートに直接届くことになっている。次は編入する高校も決めなくてはならない。休学中も通信教育で勉強は続けてきたが、正直色々と不安がないといえば嘘になる。
これから忙しくなりそうだが、その前に────
「少し街を探検してみようかな」
まだ余裕がある今のうちにしか出来ないことをやることにした。
時刻はお昼をだいぶ過ぎた所だった。まずは何か食べよう。私はラーメン屋さんの
店内はまだ昼休憩中のサラリーマンとおぼしき人々で込み合っていたが、それが逆に居心地良かった。ラーメンは美味しかったし、置いていたBLEACHという漫画も面白かった。
店を出た後は仙台駅前を探索した。
仙台PARCOの九階にあったジャンプショップでさっき読んだBLEACHのキーホルダーを買い、同じ階にあった大人気RPGのショップで、ビーバーをモチーフにしたモンスターの可愛いぬいぐるみを買った。
他にも服屋さんや本屋さんにも寄ったりして、特に大した目的も無く街を探索しているうちに気付いた事がある。この街にはその機能や目的のよく分からない、謎の建築物が多い。
壁に垂直にくっついているどこにも続かない階段。二階の壁から単体で存在する、どうやって入るのか分からないドア。中途半端な高さの
気になったのでEBeanSの4階にある緑豊かな庭園のような野外休憩スペースで、ベンチに座って桃のジュースを飲みながらスマホで調べてみた。こういうのはトマソンといって、都市に多く見られる建築物の一種で、機能や目的がよく分からないように見えても実は災害時の備えとしての建築物だったりするのだそうだ。あるいは単なる施工ミスだったりそういう芸術作品だったりする場合もあるそうだ。
なるほど、と納得した。じゃあきっと、
ヒューマン・イミテーターが生まれては泡のようになってすぐ消える路地裏の影も、白目の無い真っ黒な人魚が顔を出すマンホールも、呼ばれている気がしてつい入りたくなってしまう神社も、ビルの上空に開いている『隙間』から見ている何かも、
きっとトマソンの一種なのだろう。
誰も気付かないように見えるのも、この街の人々はそんな事は見慣れてしまったからなのだろう。きっとそうだ。私はそう納得する事にした。
と、その時。
何か異質な気配がした。この街から常に感じる『ただそこに存在するだけ』の魔法の気配とは違う、魔法使いが使う何らかの目的を持った人為的な魔法の気配。そんなに遠くない。
何だろう?興味がある。見に行ってみようかな。
私は灰谷君と初めて会った時の事を思い出していた。彼はとてもいい人だった。今度はどういう人だろう?確か彼はまだ入院中だったか。そうだ、後でお見舞いにも行かないと。
とりあえず、私はEBeanSを出て、魔法の発生源に行ってみる事にした。
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