第3章 ハーレムテニス

第10話 うさみみ×うさみみ×うさみみ

 ユキの家に招待されたものの、移動は朝五時だとか。

 朝練がある時は五時過ぎに起床しているから、起きれるとは思うけど……それにしても早いな。

 そんな事を思いながらも就寝準備を済ませ、いざ寝ようとしたところで、


「で、ユキは俺のベッドで何をしてるんだ?」

「何……って、睡眠に決まってるじゃない。朝早いんだから、瑞穂も早く寝なさいよねっ」

「いやだから、その俺が寝ようとしているベッドで、どうしてユキが寝てんだよ」


 うさみみパーカーを脱ぎ、ノースリーブにスコートという練習着姿のままのユキと目が合う。

 昨日と違って横になっていたので、照明を点けていなければ、気付かずにそのままベッドへ入り、また変態扱いされるところだった。


「だって、明日ウチの家に来るんでしょ? だったら、一緒に寝ないと行けないし。不本意ながら、一緒に寝てあげるのよっ!」

「えーっと、どういう事!? それより一緒に寝る!? 俺が……ユキと!? 同じベッドで!?」

「ちょっと、大きな声を出さないで。昨日みたいに里菜ちゃんが起きちゃうじゃない」


 どうやら俺が風呂へ行っている間に、一緒に寝ていた里菜が眠ったので抜け出してきたって事か。

 でも、一緒に寝る意味がわからないんだけど。流石に同じベッドへ入ったりしたら、俺だって先程の里菜と同じような勘違いをしかねないぞ?


「さっき言ったでしょ? トモくんに呼んでもらうって。一緒に居ないと、瑞穂は置いてかれちゃうよ?」

「あー、転移能力だっけ? それって、ユキの能力じゃなくて、弟君の能力って事なんだ」

「そうよ。だから、呼んでもらうの。約束の時間は、うさみみの能力が最も活発になる夜明け頃の五時。転移には大きなエネルギーが必要で、トモくんは一度使うと半日くらい使えなくなっちゃうのよ」

「それで、万が一寝坊しても大丈夫なように、一緒に寝るって事なのか?」

「その通り。寝ている間に離れてしまっても困るから、ウチが瑞穂の上で寝るからね」


 えっ!? えぇぇぇっ!? そんなの、身体と身体が密着するどころでは無い気がするんだけど……やばい。また鼻血が出そうになった。


「そういう訳だから、ぼーっとしてないで早く寝て」

「いや、その……俺、恥ずかしながら初めてなんだけど」

「大丈夫よ。ウチがちゃんと教えてあげるから。ほら、早く早く」

「え、えーっと、まだ心の準備が……」


 などと言っているうちに、起き上がったユキが照明を消し、そのまま俺の手を引いてベッドへ連れて行かれてしまう。

 ダメだ。緊張し過ぎているのか、異様に喉が渇く。


「ふふっ。瑞穂も緊張するんだ」

「そ、そりゃあ、少しは。えっと、どうすれば良い……かな?」

「先ずはリラックスして。身体の力を抜いて、そのまま目を閉じていれば、あっという間だからね」


 暗闇の中で囁かれた後、あれよあれよという間に横にされてしまった。

 毛布からユキの香りがすると思ったのも束の間、スウェット越しにユキの柔らかい身体が俺の胸へと触れ、やや高めの温もりを感じる。

 しかし、緊張し過ぎなのか、身体が言う事を聞かない。身体が硬く強張っていて、手足が真っ直ぐにピンと伸びきっている。おまけに、何故かはわからないけど、息まで止めてしまっていた。

 ……ユキは何をしているんだろう? 俺の胸に触れてから、それなりに時間が経ったと思うんだけど、それ以上何も無い。やっぱり男の俺から何かするべきなのか?

 ドキドキしながら目を開けてみると、暗闇に慣れた視界へモフモフとした固まりの影が映る。影からは輪郭しかわからないが、顔から左右に垂れた太い紐――もとい大きな耳は、間違いなくうさぎのそれ。確か、ロップイヤーとかって種類だっただろうか。垂れ耳のうさぎって。


「って、うさぎっ!? うさぎの姿なのかよっ!」


 考えてみれば、当たり前か。ユキは転移する時にうさぎの姿になるって言ってたね。そもそも、あの少女の姿で俺の上に乗るわけないか。俺が大変な事になりそうだし。

 勝手に俺が変な事を想像してしまっていただけのようだ。

 俺の言葉にユキが何かリアクションするかと思ったけれど、うさぎの姿では喋れないのか、それとも既に眠ってしまっているのか、ただただ沈黙が部屋の中を支配し続ける。


 女の子と同じベッドで寝るなんて、ドキドキして眠れないよ……なんて事になるかと思ったんだけど、ユキがうさぎの姿だと分かった途端に、あっさりと夢の世界へ誘われたのだった。


……


「……ほ。瑞穂ってば。もう、起きてよー」

「あれじゃない? ほら、お姫様のキスで目を覚ます的なやつ。姉ちゃんがキスしたら起きるんじゃないかな?」

「何バカな事言ってるのよ。そんなので起きる訳ないじゃない!」


 この声は……ユキかな? 視界ははっきりしていないけど、頭は起きつつあるようで、聞いたことのない声の主と何かを言い合っているのがわかった。

 多分だけど、俺が起きない事が原因らしい。正直、まだ眠たいけれど、俺が原因でユキが口論するというのもいただけない。

 とりあえず、何とか身体を起こそうとしたところで、


「そうかしら? 意外と良いんじゃない? それじゃあ、試しにママがキスしてみよーっと」

「えっ!? ちょっと、ママっ!?」

「瑞穂君だっけ? いっただっきまーっす」


――ゴロゴロ


 そこはかとなく嫌な予感がしたので、目を開ける瞬間さえ惜しんで横に転がり、身体を起こす。そして、ようやく目を開くと視界の中に、三人の人影が映った。

 一人は金色短髪で元気の良さそうな少年だ。背丈から中学生って感じだろうか。うさみみが頭から生えていて……あれ? 普通の耳もあるぞ? ユキは髪で見えなかったけど、合計四つ耳があるようだ。

 その傍には、ふわふわした髪の毛の少女――ユキだ。いつの間に着替えたのか、ノースリーブからTシャツに変わっている。まぁ、あまり大差ないけど、それから……あれ? ユキが、もう一人居る!?

 いや、違うか。顔はよく似ているけれど、髪はユキよりも更に明るい金髪だし、サラサラのストレートだ。キューティクルって感じがする。

 ユキが今の小中学生のような容姿から、女子大生くらいまで成長したら、こんな感じになるのではないだろうか。とはいえ、あと数年でここまで成長はしないだろうけど。なによりこの女性は、ユキが持っていない物……胸がある。しかも、それなりに……いや、かなり大きい。

 まるで胸を俺に見せつけるかのように、床に敷かれた布団の上で四つん這いになっている彼女は、首元と服の隙間からその大きな胸の谷間が見えてしまっているのだが、


「ちっ……避けられたか。勘が鋭いわね」


 小さく呟いたかと思うと、何事も無かったかのように立ち上がり、俺に近づいてきた。


「えっとぉー、はじめましてぇー。瑞穂君だよねー? いつも娘がお世話になってますぅー。ユキの母、アミでーっす」

「えっ!? ユキのお母さんですか!? 初めまして。瑞穂と申しま……って、お母さん!?」

「はーい、そーですよー。あ、アミちゃんって呼んでくれても良いですよぉ?」


 何だろう。見た目はニ十歳くらいなんだけど、何となく担任の千葉先生を彷彿させるのは何故だろうか。

 いや、もちろんキャラも見た目も全く違うんだけど、若作りという単語が頭を過る。


「良かったー。瑞穂ったら、全然起きないんだからっ!」

「えーっと、いつの間にか、いろいろと大切な何かを失いかけたけど、ここがユキの家……だよね?」

「えぇ。ウチの家へようこそ! ママ……は、もういいわね。で、こっちが転移能力でウチらを連れてきてくれた、トモくん。ウチの弟よ」

「はじめましてっ! 姉ちゃんの弟のトモっス。瑞穂さんの事は姉ちゃんから聞いてるっス。アニキって呼んで良いっスか!? てか、アニキって呼ぶっス。よろしくっス!」


 ユキの弟と言いながら、お兄さんにしか見えないトモくんなのだが、何故か初対面だというのにアニキと呼ばれる事になってしまった。

 しっかし、ユキの家族はテンション高いな。そして当たり前のように、うさみみがある。二人ともユキと同じく、うさみみと髪の毛の色が同じなんだけど、短髪にサラサラストレートなので、垂れていても目立ってしまう。

 流石に俺を騙そうと、うさみみを家族みんなで着けないだろうし……いや、このテンションの二人ならするかもしれないけどさ。


 とにかく俺は、ユキの家――ウォクク国という場所へ転移してきたのだった。

 ……あ、俺パスポートとか持ってないや。

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