第26話 予選最終戦

 一戦目を快勝した後、大会本部へ結果を報告しに行くと、すぐさま二戦目を促される。

 ストレート勝ちであまり疲れてないから良いけれど、一休みくらいはさせて欲しい。でもユキの調子も良いし、この勢いでいくのもアリか。

 そう考え、素直にコートへと移動する。


「よろしくお願いします」


 次の相手は男子ダブルスなので、各ゲームが一ポイント俺たちに得点が入った状態から始まるという訳だ。

 そんな有利な状態で、先程の初心者ミックスダブルスよりも少し打てる――その程度のレベルなので、


「ゲームセット。四対零でユキ選手、ミズホ選手ペアの勝利です」


 あっと言う間に勝ってしまった。

 いや、マジで優勝出来るのではないだろうか。楽勝過ぎるだろ。


「やったぁ、瑞穂。また勝ったね」

「あぁ、そうだな。四組のリーグ戦で二勝しているし、とりあえず決勝トーナメントには進めるんじゃないかな」

「そうなんだ。よかった。じゃあ、次は万が一負けてたとしても大丈夫なの?」

「えーっと、ちょっと待ってね」


 大会本部へ移動し、試合結果の報告を行うついでに各試合の結果ボードを見ると、最後の一組も全てストレート勝ちとなっていた。

 まぁ最初の二組が弱過ぎただけなのかもしれないけど。


「えーっと……あ、残りの一組も二勝してるから、負けても決勝進出は確定だね。でも、出来れば勝っておきたいかな」

「そうね。どうせなら、全戦全勝の方が気持ち良いもんね」

「まぁそれもあるけど、一位通過の方が決勝トーナメントで良い位置になるんだよ」

「どういうこと?」

「予選は総当たりのリーグ戦だったけど、決勝戦は一度負けたら終わりのトーナメント戦。で、決勝トーナメントの一回戦は予選一位通過の組と、別のリーグの予選二位通過が当たるようになっているんだ」


 まだ一つも名前の書かれていない、明日の決勝トーナメントのドロー表を見ると、Dリーグの一位とCリーグの二位。Dリーグの二位とAリーグの一位が当たるようになっている。


「決勝トーナメントは明日って話だし、初戦で未だ身体が温まっていない時に強敵とか避けたいだろ?」

「なるほど。でも、結局勝ち進まないと意味がないのは一緒でしょ?」

「いや、それはそうだけどさ。まぁ何にせよ、次も勝とうぜ」


 ユキとそんな話をしていると、恐る恐る本部のお姉さんが声を掛けてきた。


「ユキ選手、ミズホ選手。次の試合なんですけど……」

「えっ!? もう? 三試合連続ですか!?」

「で、ですよねー。いやー、AリーグとDリーグの試合進行がやたらと早過ぎるんですよー。BリーグとCリーグは試合内容が競っているので、程良く待ち時間があるんですが」

「そうなんですか。試合進行も大変ですねー」

「でしょー? で、次の試合なんですけどぉー……五分、いえ十分後でいかがでしょう? 出来れば、午前中に全ての試合を終えて欲しいなー、なんて」


 お姉さんは、この大会をどれだけ早く終わらせたいのだろうか。

 まぁこの規模の大会なら、普通にそれくらいで終わりそうだが、女子ダブルスなんかだとシコラー――ひたすら繋ぐテニスで、相手のミスを待つタイプ――が多くて、決着まで時間が掛かるって聞くしね。

 日本でも女子の大会では、とてつもなく時間の掛かる試合があるそうだ。まぁ男子ダブルスだと、そういうタイプはそこまで多くないけどさ。


「ユキ、十分後でも良い?」

「ウチは大丈夫よ。ちょっと飲み物だけ買ってこようかしら。瑞穂もいる?」

「あぁ、頼むよ。……じゃあ、お姉さん。十分後で大丈夫です」

「ありがとうございます。対戦相手の二人は既にコートへ移動されていますが、先に了承いただいているので、十分後に試合を始めてください」


 早く終わらせたいっていうのは、明日の準備とかがあるからだろうか? そんな事を考えながらユキを待っていると、ペットボトルを片手に帰って来た。

 あれ? 一本しか持ってない?


「お待たせ。ごめん、いっぱい売れたから、飲み物が最後の一本だって」

「そうなんだ。じゃあユキが飲みなよ。今日はあと一試合だけし、俺は大丈夫だから」

「えっ!? で、でも水分補給は大切だよっ!? この暑さの中で動いているわけだしさ。ほら、買ってきたのも瑞穂の好きなトロピカルウォーターだよっ!」


 トロピカルウォーターと言えば、確か前にユキとカフェへ行った時、俺が頼んだものだと思うけどさ。別にそれが好きという訳ではなく、それしか飲みたいと思えるものが無かったというか、てかよく覚えてたね。

 ユキは熱中症でも恐れているのか、俺にペットボトルをグイグイ押し付けてくる。


「うーん、でも一本しかないし……じゃあ、少しだけ」

「そうね。ウチの分を少し残しておいてくれれば良いわよ」

「……うん、喉が潤ったよ。ありがとう」

「じゃ、じゃあ、後はウチが飲んじゃうからねっ」


 ジッとペットボトルを見つめたユキが、少し間をおいて口を付けた。

 いや俺が飲んだ後だからって、変なものとか混ざってないと思うんだが。

 ユキが飲み終わるのを待っていると、大会本部のお姉さんが声を掛けてきた。


「うふふっ。いいですねー、初々しくて。今日、午後から恋人とデートなんですけど、私もそういう事してみようかなー」

「デートっ!? あれ? 明日の準備とかじゃないのっ!? てか、初々しいって何の事ですか?」

「明日の準備? そんなのすぐ終わりますよ。それより、あっちの売店ですけど、明日の分まで含めて、今朝かなり大量に補充して……」

「さぁ瑞穂っ! 試合よ、試合っ! さくさくっと勝つわよっ!」

「えっ!? ユキ、突然どうしたんだっ!? ちょっ、押さなくても歩くってば」


 どういうわけか、顔を紅く染めたユキが俺の背中をぐいぐい押して、コートへと向かわせる。

 お姉さんはニコニコしながら「頑張ってくださいねー」と手を振っているし、まぁ言われなくても頑張るけどさ。


 コートへ着くと、対戦相手――うさみみ少女二人がコートの中央でミニラリーをしていた。

 そのフォームは今まで快勝してきた二組とは明らかに違い、しっかりとスイートスポットでボールを捕らえていて、それなりにソフトテニスの経験を積んでいる動きだ。

 とはいえ、レベル的には里菜やユキくらいだろうか。女性二人組なので、こちらが一ポイント不利な状態からゲームが始まるものの、ユキが練習通りの動きをすれば負けはしないだろう。


「ユキさんとミズホさんですよね。よろしくお願いいたしますわ」

「よろしくお願いします」


 まだ少し時間があるので、ユキと一緒に軽いストレッチを行い、試合前のラリーへ。

 俺の相手は、最初に挨拶をしてきたオレンジ色のうさみみを生やす少女だ。様子見なのか、それともこれが全力なのかは分からないが、随分余裕を持って打っている。

 おそらく、それなりに自信を持っているのだろう。ただ、男女の差もあるけれど、このラリーだけを見ると、負ける気はしない。

 一方、ユキも押されている感じはせず、むしろ打ち勝ってしまっている気がする。そして、


「セブンゲームマッチ、プレイボール」


 審判のコールが響き、相手側のサーブで試合が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る