最終話 うさみみ少女と妹

「あ、そうだ。ほら、日本へ行くにはトモくんの能力が必要だよね? けど、一度にみんな行けないしさ……」

「じゃあ、ボクとお兄さんだね。ボクはお兄さんに『毎日』癒してもらわないといけないからねー」

「そ、それなら、ウチっ! ウチもっ! ウチは小さなうさぎに変身出来る能力があるもん! だから、二人と一緒に送れるよね。ね、トモくん!」

「ね、姉ちゃん……怖い」

「ほら、トモくん。ウチの小ささなら、一緒に送れるよね?」


 ユキが笑顔でトモくんに迫りつつ、一瞬でその姿が小さなオレンジ色のうさぎに変わる。

 あー、試合に使えない、ユキのもう一つの能力ってこれの事か。そういえば、はっきり見たことは無かったけど、転移時のユキはうさぎの姿だった気がする。

 しかし、本当に試合では何の役にも立たないな……って、このオレンジのうさぎって、どこかで見た事があるんだが、どこだっけ?


「あー、うさぎさーんっ! ロップイヤーだーっ!」


 唐突に里菜の声が響いたかと思うと、ユキが変身したうさぎに飛び付き、抱きしめた。


「おー、こっちはユキちゃんのご家族かな? みんなそっくりだな」

「健介! 今までどこに行ってたんだ?」

「ん? あぁ、里菜ちゃんがうさみみメイドさんたちに可愛い可愛いって、ずっと囲まれててさ。俺は里菜ちゃんが連れ去られないかと、ずっと傍で見張ってたんだよ。で、さっきようやく解放されたんだ」

「なるほど。里菜がうさみみさんたちに可愛がられる様子を、間近でハァハァ言いながら凝視してたって事か」

「……み、見てたのかっ!?」


 図星かよっ! てか、健介や里菜はどうやって日本へ帰れば良いんだ? さっきのナミってメイドは、召喚するだけで送る事は出来ないのか?


「じゃあ、アニキ。一先ず日本への転移スケジュールを考えるっス」

「転移スケジュール? どういうこと?」

「日本から来た人の数が多過ぎるっス。自分の能力では一度に送れないっス。なので、日を分けて送るっス」

「あ、そっか。別の日にすればまた転移能力が使えるのか。じゃあ、そもそもユキがうさぎに変身する必要もなかったのか」


 ユキの早とちりにクスリと笑い、里菜と戯れるオレンジ色のうさぎを眺めていると、


「あ、思いだした。どこかで見たと思ったら、あのユキの変身した姿って、ミコちゃんのオモチャと同じデザインなんだ」


 ようやく思いだせた。さっき、どこかで見たと思ったんだよな。


「オモチャ? ボクはうさぎのオモチャなんて持ってないよー?」

「えっ!? でも、昨日のお風呂に同じものが忘れられてて……って、どうしてニヤニヤしてるのさ?」

「え? てへっ。何ででしょう? いやー、お義兄さん。これからも仲良くしてくださいねっ!」

「そうっス。自分も義兄貴と仲良くしていきたいっス」

「二人とも、どうして急に俺を呼ぶニュアンスが変わったんだ?」


 気のせいかもしれないが、何となく少し距離が縮んだような、そうでもないような。

 と、不意にミコちゃんが俺の腕に抱きついてくる。


「ふふっ。お義兄さんがボクの思惑通りになってくれて、嬉しいよっ!」

「思惑? 何が? あ、能力の事?」

「えへへー。内緒っ。あ、でも一つだけヒントをあげると、ユキ姉に『お義兄さんの前では強めの口調にした方が良い』って助言したのはボクなんだよっ」

「え、それってどういう事?」

「だって、お義兄さんはツンデレ萌えだよね?」


 ツンデレ萌え? いや、どちらかと言えば、俺は妹萌え……げふんげふん。

 何にせよ、中途半端に伝わったのか、練習中だけ強気な口調だったけどね。


「えーっと、別に俺はそんな事は無いと思うんだけど」

「あれ? おっかしいなー。ボクが見たもう一つの夢では、『瑞穂っ! 子供の前なんだから、嫌いなものも残さず全部食べなさいっ!』って、お義兄さんがユキ姉に怒られてたんだけどなー?」

「え? それってツンデレなのか? どっちかって言うと……」

「あーっ! お兄ちゃんが、うさぎさんと抱き合ってるっ!」


 抱きつくミコに里菜が気付き、うさぎ――ユキをその場に置いて駆けて来た。


「ずるいー。里菜もお兄ちゃんと、ぎゅってしたいよー」

「えっ!? それって、家に帰ってからでよくないか?」

「えっ!? お義兄さん。実の妹と抱き合ってるの!?」

「いや、そう言う意味じゃなくて……って、ミコちゃん。どうして胸を押しつけてくるのさ!」

「あー、いいなぁー。じゃあアミちゃんも混ざっちゃおーっ!」


 左腕にミコちゃん。右腕に里菜。そして背中にアミさんの豊かな胸と、三方向から柔らかい温もりに包まれる。

 いや、何この嬉しい状況。向こうから健介が羨ましそうに見てるし。でも、こういう時は大概悪い事が起こるものなんだよね。


「みーずーほーっ! ウチというものがありながら、何をしているのかしら?」

「ゆ、ユキっ!? いつの間に元の姿に戻ったんだ!?」

「この、浮気者ぉーっ!」


 怒ったユキが、俺たちへ少し加減した風をぶつけてくる。

 一夫多妻制の国じゃないのかよっ! と心の中で突っ込んでいると、


「えいっ!」


 風を使った高速移動で、ユキが俺の胸に飛び込んできた。


「きゃあっ! 瑞穂! しっかり受け止めなさいよっ!」

「いや、この状況は流石に無理だって……あ」


 俺の頭がアミさんの胸の谷間に収まり、俺の胸の上にはユキが倒れ込んでいるのだが、俺の横には腕から離れたミコちゃんと里菜が立ちつくしている。

 それぞれのスコートの中からは、ピンクとうさぎ柄のアンスコが見えていて、


「やっぱりミコちゃんはピンクだね。里菜はうさぎ柄のアンスコか。珍しいな」


 思わず、言わなくても良い感想を口にしてしまった。


「むー、そっかぁ。ボク、スコート履いた事がなかったから分からなかったけど、結構簡単に見えちゃうんだねー。まぁアンスコだし、見られたのもお義兄さんだから別に良いけど」

「ちょ、ちょっと待って! 里菜は、これアンスコじゃないよぉっ!」

「瑞穂。実の妹のパンツを覗くなんて、やっぱり変態なのねっ!」

「ふふっ。アミちゃん、孫の顔が早く見れそうで嬉しいわぁ」

「いや、アミさん。うちの母と似たような事を言わないでくださいっ!」


 って、本気でみんな日本へ来るのっ!? 俺、これから大丈夫っ!?

 一抹の不安を覚えながらも、ユキと目が合うと、何とかなると思えてくるから不思議だ。

 そして、


「あのー。大会運営の妨げになるので、本部前でイチャつくのはやめてもらえませんか?」


 本部のお姉さんに呆れ顔で突っ込まれた俺たちは、慌てて帰路へ就く。

 一先ずユキの家に着いたのだが、


「ボクはお義兄さんから離れられないんだからねっ」

「里菜とお兄ちゃんのお家に帰るんだよ? 当然、一緒に帰るもん!」

「ウチは、瑞穂と離れないんだからっ!」


 早速、日本へ行く順番でバトルが勃発する。


「ふふ……瑞穂君、モテモテねぇー」

「流石、義兄貴っス」

「瑞穂、いいなぁ。里菜ちゃんだけでもオレに……」

「あはははは……」


 そんなやり取りを苦笑しながら見ていると、


「で、結局お兄ちゃんは誰を選ぶのっ!?」

「えっ!? 何だか、話の内容が変わってない!?」

「お義兄さんは、ボクのおっぱい触ったもんねっ。ボクでしょ!?」

「ちょっ! そ、それを言うなら、ウチだって何回も触られたもん! それにウチと瑞穂はキ……」

「お兄ちゃん!? どういう事なのっ!? 里菜の胸が一番良いって言ってくれたじゃないっ!」

「いや、言った事ねぇよっ!」


 日本へ帰ってからも騒がしい日々になるなと、未来を見る能力の無い俺でも、想像出来てしまったのだった。



 完

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うさみみテニス! 向原 行人 @parato

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