第17話 夢と身体が連動する事ってあるよね
母さんのせいで、学校を休む理由がとんでも無い事に誤解されていたけれど、とりあえず関係しそうな人へ断りは入れた。
少し硬式テニスの練習が出来なくなるけれど、助けを求めてきている人が居るのに、それを無視するような男になっちゃダメだよな。
一ヶ月だけだ。俺が一ヶ月協力すれば、ミコちゃんが救われるかもしれないんだから。あとは、ユキがどれだけ頑張れるかだ。
「って、まだ二時か。ユキが来ないと話にならないし……寝よう」
やるべきことを終えた安堵からか、それとも本当に千葉先生が若さと体力を吸っていったのか、身体がダルい。
ユキが来るのは夕方だし、それから全力でテニスをするし、今は休んで体力を回復させるのが正解だろう。
スマホのアラームをセットしてベッドへ横になると、ものの数秒で夢の世界へと旅立った。
……
「あはは、瑞穂君。私を捕まえてー」
「待て待てー」
白い砂浜で、うさみみを生やした美少女たちと鬼ごっこをしている。
ユキみたく垂れているのではなくて、いかにも『うさみみ』と言った感じの分かり易いやつで、黒に灰色、オレンジも居れば、白と茶色が混じっているのとか、色とりどりのうさみみ少女たちだ。
しかも、どういう訳か皆、走る度にチラチラと白い太ももが露わになる短いスカートで。というか、斜め前に居る女の子は淡い水色の何かが見えた気がするよ!?
と、そのうちの小柄な一人が俺に抱きついてきた。
「うふふ。お兄ちゃん、見てー。里菜にも、うさみみ生えたんだよー」
「えぇっ!? 里菜っ!? まじで!? ど、どうして!?」
「でしょでしょ? お兄ちゃんが愛して止まない里菜に、お兄ちゃんの大好きなうさみみが生えたんだよー」
「お、おぅ。兄ちゃん、うさみみが大好きなんて言ったっけ?」
「言ってるよー。うさみみは、モフモフして柔らかいって目がそう言ってるよー」
そう言いながら、里菜がぐにぐにと胸に顔を押し当ててくる。
頭が揺れるたびに、真っ直ぐ伸びたうさみみも揺れるのが、ちょっと面白い。
「お兄ちゃん。せっかくだから、なでなでしてー。ほらほら、早くー」
小さな頭に手を置くと、里菜のサラサラした髪の触り心地が伝わってくる……と思っていたのだが、予想に反してムニュムニュした感触が伝わってきた。
うさみみが生えたから? しかし、それで柔らかくなるのか? それにいくらなんでも、頭にしては小さ過ぎる。何だ、これ?
「ちょ、ちょっと、瑞穂。触り過ぎ……」
「いや、うん。あまりにも可愛いからさ」
「か、可愛いって、そんな……」
里菜……だよな? こんな声だっけ?
あれ? 里菜が縮んでる!? どういう事!? 一体、何が起きてるんだ!?
手では里菜に触れているのだけど、視界から今にも消えてしまいそうな程、小さく縮んでいってしまう。
「どうして? 小さい! 小さくなってる!」
「人の胸を鷲掴みにして、小さいとか言うなーっ!」
よく聞き慣れた声が響いたかと思うと、白い砂浜やうさみみ少女たちは消えてなくなり、すぐ目の前に白い板がある。硬くはないものの、柔らかさと弾力を兼ね備えていて……って、白い板!? これってもしかして!
いろいろと頭をよぎったものがあるけれど、柔道場での二の舞にならないようにと、口を噤んだまま視線を上に動かしていき、
「おはよう、瑞穂。どうしてあんたは転移してきた直後を狙ったかのように、ウチの身体を触るわけ!? この変態っ!」
俺の胸へ、白いテニスウェアに身を包んだユキが馬乗りになっていた。その表情は不機嫌を越えて呆れているのか、ジト目で睨みつけてくる。
まぁ今考えると、うさみみ少女たちと鬼ごっこだなんて、どう考えても夢の世界の話だよな。
ユキが来る前に起きておくつもりだったけど、よほど疲れていたのか、アラームに気付かなかったようだ。
「って、あれ? まだ四時だけど?」
「テニスの練習を少しでも長く出来るようにって、トモくんが頑張って少し早めに送ってくれたのよ。なのに瑞穂は寝てるしさ。おまけに……」
「いや、ごめん。寝ぼけててさ。夢の中では頭を撫でてたんだよ。決して、変な事をしようとしたわけでは無くてね」
トモくんが昨日と同じ場所へユキを送ったせいで、マウントポジションを取られてしまっている。
今、ここでユキを怒らせようものなら、血の雨が降ることに! もちろん、俺の血がっ!
「とにかく、触ってしまってごめん」
「べ、別にウチは触られた事を怒ってるんじゃないわよ」
「え? じゃあ、触っていいの? てか、じゃあ何に怒ったの?」
「さ、触って良いかって聞かれると困るけど、それよりもウチが嫌だったのは、小さ……って、何を言わせるのよーっ!」
何がどうなったのかは分からないが、何故か再び怒りだし、顔を真っ赤にしたままのユキとテニスコートへ向かう事になったのだった。
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