外伝5 島田の生態談義

 常々ホープの生物で不思議に思っていたことがある。

 脊椎動物がいないんだ。


 地球の脊椎動物はどうだったのかというと、古代も古代から存在する。地球の生物史は大雑把に三つの区分に分けられるのだけど、古生代、中生代、新生代になる。一番古い時代の古生代にはすでに脊椎動物は反映していたんだ。

 古生代はまだ菌類が植物の死骸の何だったかを分解できなかったから、高酸素時代だった。高い時で30パーセントほどの酸素濃度だったらしい。


 最初に陸に上がった生物は昆虫で、空に初めて飛んだのも昆虫だ。

 外敵がいないため、一メートル以上もあるトンボや、ムカデのような生物が存在していた。ただ、それらは古生代が進むと絶滅する。両生類が陸に上がって来たためだ。

 さて、ここでホープのカルデラ環境を考えてみよう。地球基準で言うと低酸素、高温だ。実はカルデラ環境に近い環境だった時代が地球にはある。

 それは、二つ目の時代区分である中生代だ。中生代は恐竜の時代と言われてるが、ホープに特に近いのは三畳紀、ジュラ紀と言われる低酸素時代。蛇足だけど、最後の白亜紀は正直恐竜たちには厳しい環境だったと思う。


 低酸素に特に強かった脊椎動物は何かというと爬虫類になる。彼らの呼吸効率は爬虫類から進化した鳥類も含め、我々哺乳類より格段に優れている。言わば低酸素に適用した生物群なのだ。


 ここまで何を言ってるのかわからなかったかもしれない。俺が何を言いたいかというと、爬虫類こそ巨大化し、ホープカルデラを闊歩してもおかしくないというわけだ。


「という考えなんだ。シルフ」


 俺が熱弁してるのに、途中から欠伸をする仕草をしていたのは知っている。熱弁って始めると止めれないんだよなあ。


「要は昆虫や軟体生物、甲殻類の数が多いのは分かるけど、巨大化した爬虫類がいないのが何でってことよね」


 昆虫類や甲殻類は現在の地球でも個体数、種の数で見るなら支配的な生物だ。だから、昆虫類や甲殻類がいないってのは考えられない。

 地球陸上の王は昆虫であり、海の王は甲殻類だ。これは地球史で普遍の事実である。甲殻類なんて海の底は底の海溝にも棲息してるし......


「そうそう。ちゃんと聞いてるじゃないか」


「答えは結構簡単と思うけど。まあ、島田だしね」


 何!俺の生物スペクタクル考察で謎だったのに、簡単とは。


「島田、ルベールは何万年かかったか分からないけどさ、まだ分からない?」


 何万年、ひょっとしたら何百万年かもしれないが、この際どちらでもいい。

 そうか、そういうことか。


「進化する時間が無かったのか!」


「私はそうだと思うけどね」


 昆虫や甲殻類は世代交代が非常に早く、環境適応能力が脊椎動物と比べ物にならない。殺虫剤に適応した虫がすぐ出てくるし。つまり、数億年かかる脊椎動物は生まれ進化する時間的余裕が無かったのか。

 だからカルデラで見かける生物は、昆虫、キノコ、コケ、シダ類、カニなどの甲殻類、タコなどの軟体動物ということか。どれも進化速度が非常に早い。


「なるほど。なるほど。それに第二エネルギーとかがあるから巨大化出来たのかな」


「天敵がいないのと、第二エネルギーのお陰で体が巨大化しても保てたんでしょうねー」


 ふむふむ。ルベールが他のカルデラにも手を出してたら脊椎動物もいるかもしれないけど。聞いてみよう。



「島田。リーノから通信よ」


 お、先にリーノから来たか。あなたのお気に入りの生き物見せてって頼んでたんだよ。何来るかな。


「こんにちは。島田。私の乗り物を見せてやろう」


 リーノは持たせたカメラを乗り物とやらに向ける。

 巨大なムカデがそこに居た。しかも、蛍光紫だ。これは本気で気持ち悪い。


「壁も登れる優れものだ。どうだ?欲しくてもやらんがな」


「いや、カメラもう切って......」


 正直かなり気持ち悪い。もういいよ、ムカデはまあ許す!しかし、色が酷い。これは無いこれは無いぞ。


 次に通信が来たのはアズールだ。


「こんにちは、島田さん。私は生活に欠かせないものをお見せしますよ」


 すんごい、いやな、予感が、する。

 もういいよと口を開きかけた時には既にカメラはそいつに向けられていた。


 映された映像は、


 金色のカブトムシだった!しかも体長三メートルはある!

 以前見た青いやつに勝るとも劣らない気持ち悪さ。


「このビートルは、炉になるんですよ。料理にもよし、白銀の加工にもよしです!」


 あれで料理するのやだー!もういい、企画した俺が馬鹿だった。二度とこの企画はやらない!

 そう心に誓った俺であった。



 次に俺はルベールと今後のホープ緑化について話をすることにした。もうムカデとかカブトムシは見たくない。

 俺は生物育成ドームに足を運び、ルベールに植物を見せつつ話を始める。


「ルベール。現地球で最も支配的な植物は被子植物と言われる植物なんだ。支配的ってのは大きくなる植物の中では最も隆盛してるってことだ」


[なるほど。被子植物は進化系統樹が長いのでしょうか?]


 被子植物は植物の歴史の中で最も遅く出現している。ルベールの言う進化系統樹ってのを植物誕生から伸びている木に例えるなら、確かに先端のほうになる。被子植物が反映をはじめたのは、恐竜時代の最後の紀である白亜紀だ。

 被子植物のいいところは、果実がなるところ。俺たちが食べている果物類なんかは全て被子植物になる。

 これに対し、被子植物より前に栄えていた裸子植物。こちらは果実が成らない。銀杏とか食べれるものは種を食べる。


「うん。ホープ緑化させるなら、最終的には被子植物を繁栄させるといいと思うんだ。食べれる果実が沢山できるから」


 まだ実がなってないが......


[なるほど。あなた方が食用にしてるものでしたら、適応する生物も出てくるでしょう]


「最初はコケ類を巻こうと思ってる。これで酸素濃度が上がればいいなと」


 コケ類も流石に現ホープ地表では育てることはできない。地表部分の狭い地域でよいので、一度ルベールに第二エネルギーのドームを作ってもらって、生育してもいいかもしれない。


「一度地表に第二エネルギーのドームを作ってみないか?中の環境がどうなるか見てみたい。もう一つ手はある。俺たちのドームを建てることだが......」


[なるべく、自然に育ったほうが望ましいですね。一度マナドームを地表に作ってみましょうか]


「了解!」


 さて、コケ類が育つんだろうか。ちょっと楽しみになってきたぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る