第21話 俺は最弱だと気がついた
「島田、話していたからまだ伝えてなかったけど、ソナーに反応してリーノが洞窟から出てきたから、集落の場所がわかったわよ」
シルフはポンと手を叩く。
おお、ソナーの音を感知できるのか。あの触覚で音波を読み取るのかもしれない。
「リーノはそのまま帰ったのかな?あとアズール達はどうだ?」
「リーノは異常がないことがわかると戻っていったわ。何かあればそのままこちらに伝えに来るつもりだったんじゃないかな。アズール達の洞窟からは誰も出てこなかったね」
リーノが出てきたのは、あれだろ、少しでも異常があればそれにかこつけてここに食事しに来ようとしていたんじゃないか。食いしん坊だし。
リーノの食いしん坊のおかげで彼女の集落がどこにあるのかわかったので、次からは集落へソナーを飛ばすのを辞めよう。
「次回からアズールとリーノの集落へはソナーを打つのやめておこうか。ソナーを感知できることはわかったしね」
「そうね。感知できるかを試す意味もあったし」
「リーノの集落へは、監視カメラを設置しに向かってくれないか?どんな集落なのか見てみたい」
「了解。そう言うと思って一台ラジコンを準備してるわよ」
さすがシルフ。仕事がはやい。
「シルフ。引き続き調査を頼むよ。俺はタピオカジュースを試しておく」
偉そうに言っているが、ジュースキノコのジュースにタピオカを入れて飲むだけだ。試すもなにも甘い紅茶にタピオカなので、味に問題があるはずはなく単なる息抜きを試すと言ってるだけだ。
今日でちょうど7日になるから、アズールはそろそろこちらに来る頃だろう。来たら、タピオカジュースとメロンを出してみよう。メロンもようやく実って食べ頃になったんだ。先にメロン食べちゃおうかな。スイカも食べごろなんだよなー。どっちにしようか島田迷っちゃう。
俺がスイカにするかメロンにするか畑で迷っているとシルフからアズールが来たとの連絡が入る。アズールが来たならメロンにするか。
俺はメロンを半分に切ってお皿に乗せ、アズールと俺のテーブルにメロンの乗った皿を置いておく。飲み物はタピオカジュースだ。
[こんにちは]
「アズール。待っていたよ。アズールに食べてもらいたかったフルーツがやっと食べれるようになったから、試して欲しい」
前はメロンが無かったからキュウリだったものな。あの甘い紅茶(ジュースキノコのジュース)とキュウリに塩じゃあなあ。食べ合わせ良くなかっただろうに、文句の一つも言わず「おいしい」と言ってくれたけど。
あの時の俺はまだジュースキノコを試したことが無かったからあんなに甘いとは思ってなかった。
[わあ]
アズールはメロンに興味深々といった様子だ。メロンからは甘い香りがしている。甘い食べ物を出すのは初めてなので口にあうか分からないが、シダの種はキュウリとメロンに近いらしいからたぶん大丈夫。
さっそく食べてもらうように促すと、スプーンを掴んだアズールは少しだけメロンの身を取って口に運んだ。
[甘くておいしいです。この前のキュウリもそうですが、コンブルの種に少し似ていますね」
「コンブルの種って、この前アズールが持ってきてくれたシダの種かな」
[そうです]
コンブルの種を持ってきてもらうようお願いしようと思ったけど、キュウリとメロンがあるから特にいらないか。
「アズール、テレパシーって俺にも使えるようにならないかな?」
第二エネルギーを俺が使えるようになれれば、第二エネルギーを感知できるようになるはずなので、帰還か通信か目処がたつかもしれない。
[島田さんは、非常に珍しいのですが体にマナが全くないです。体にマナがないとなると、白銀さえ使えないんでは?]
マナって言うなー。俺の脳みそ!アズールにマナって言うなーって怒っても仕方ない。俺の脳がそう解釈してるのだから。
第二エネルギーを体に蓄積して力に変える?のか?
「俺が第二エネルギーを体に貯める方法ってあるのかな?」
[私たちは生まれながらにして、体に蓄積できるマナの総量が決まっています。マナには受動的なものと能動的なものがあります]
マナって。もういい諦めよう。第二エネルギーは生まれながらに総量が決まっているため、現時点で全く蓄積されていない俺は今後体内に第二エネルギーが蓄積することは厳しいという解釈か。
第二エネルギーの使い方は、白銀のように触れているだけで効果を発揮するものと、テレパシーのように意識して使うものがあるってことか。
[しかし、稀にマナが体に全くない人が生まれます。その場合、単にマナの吸収に障害があるか、蓄積できない先天的な障害のどちらかです]
「テレパシーは自分で意識して使うものだよな?使われたエネルギーはどうなるんだ?」
[マナを自分から使うと、体内のマナは減少します。その場合は自分の蓄積量まで空気中からマナを吸収します」
なるほど。てことは第二エネルギーの吸収に障害があった場合、エネルギーを使った場合、補充が効かないからいずれ空っぽになる。蓄積できない場合はそもそも第二エネルギーが体にない。
きっと白銀のような受動的なものでもエネルギーは減るんだろうな。質量保存的に。
「吸収に障害がある場合、治療できるのか?」
[はい。マナを無理やり通してあげれば、流れるようになります]
つまり、水道管の詰まりのようなものか。ゴミではないんだろうけど、何らかの弊害で取り込み口が詰まっているから、勢いよく水を流して上げることでこじ開けるのか。
「それ、俺に試せるかな?」
[はい。すぐにでもできますよ。やってみますか?ただ...]
ただ...何だよ!言葉切るなよ怖いよ。
[ものすごーーーく、痛いです]
ものすごーーく痛いのか。可愛い感じでテレパシーが変換されたけど、やるとしたら必要性の判断ができてからだな。第二エネルギーを吸収できるようになるかは半々なので尚更だ。
「わ。わかった。やるときはお願いするよ」
俺は乾いた笑い声をあげながらアズールにそう返した。
[島田さんがマナを取り込めるなら、安全になりますね。私の集落へ来るお話覚えてますか?]
もちろん覚えているとも。あの幻想的な風景を直に見てみたい気持ちは変わっていない。
「もちろんだよ。楽しみにしているんだ」
[そのお話を集落でしたところ、マナの無い人を連れてきて万が一怪我したらどうすると皆が言ってるんですよ。私が守るから大丈夫とは言ってるんですけど]
小さな昆虫娘に守られる、大の大人の図は正直見たくない。ということは置いておいて、第二エネルギーは身体能力を向上させる効果があるのか?アズールとリーノの泳ぎはたしかに凄かった...オリンピック選手も真っ青なほどに。
「俺はそんなにその...」
さすがにはっきりと言うには気恥ずかしい。
[ビートルに蹴られたらと思うとゾッとします。マナがないのは分かってましたが、この前ご一緒したでしょう。洞窟まで。あの時の泳ぎを見て集落で何かあったら怪我をさせてしまうんじゃないかと心配なのです]
あー。そこまで身体能力に差が出るのか。元々種族的に人間とアズール達とは開きがありそうな気がするんだけど、小柄な体格だし人間より強靭かもしれないけど、アズール達は物理的な筋力量から計算される筋力よりはるかに強化されてるということか。
第二エネルギー凄まじいな。第二エネルギーがありさえすれば強化されるなら、確かに俺の力は最弱かもしれない。
「ひょっとしてだけど、この前の泳ぎはかなり抑えて泳いでいたのか?」
[正直に言います。島田さんを押した時はリーノもそうですが、島田さんが怪我しないよう慎重に泳いでました。ガッガリしているところ申し訳ありませんが、私は泳ぎが苦手です]
ダメだ。決定的すぎる。武器を持って殴りかかったところでまず勝てないだろう。ということは、最初に会った時もおそらく気絶なんかしてないな。ルベールからの指示だろう。
「情報ありがとう。今日は泊まっていけるのか?」
[はい。島田さんはシルフさんが付いてるので安心はしてますけど、やはり心配ですし。集落の皆も同意してくださいました]
リーノと同じで、シルフの信頼度高いなおい!少女な見た目のリーノが過保護に俺を心配すると地味にへこむんだけど...
シルフの話が出たので、思わず三角座りしているシルフをじーっと見ると、察したのかニヤニヤされた。AIだけあってさすがに頭の回転がよいんだよなシルフ。喋り方からはそうは思えないんだけど。
「島田。私が優秀だってことを話していたんでしょう?」
上目遣いで、シフルが俺に向かい一言。ひ、否定はしないが、俺の扱いがかなり酷い。
「あ、ああシルフは確かに優秀だけど、俺もそこまで心配されるほどじゃあ」
[シルフさんは、この大きな建物をわずかの期間で作ってしまうほどの人です。そんな人が島田さんに付いてるなら安心ですよ。テレパシーの通じない人は強き人と聞いてますし]
「それは、ルベールから聞いたのか?」
つい爆弾を落としてしまいました!あまりの自分の情けなさに自棄になったわけではない。いずれ聞かないといけないことだからね。
[ルベールをご存知だったんですね。そうです。ルベールは賢者です。彼女が言うのでしたらそれは間違っていないと私は思っています]
どうやらルベールとアズールの関係は良好なようだ。ルベールが提案したことだから、アズールは信じて俺と接触したのだろう。結果、俺はアズールに友好的に接しているからアズールからしてみれば、ルベールの言うとおりだったんだろうなあ。
一息ついたところで、俺はアズールを連れて洞窟環境の植物ドームへ足を運ぶのだった。その後の育成状態が気になっていたみたいだしね。
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