第11話 レアカラーのカブトムシはいらない
「まあ、冗談はさて置き、緊急時に蟻駆除は地球的にはアウトだけど、島田にはありね」
「もし、野良巨大蟻がニッチもサッチもいかなくなった場合、藁をも掴む感じでこのドームに押し寄せて来ないとも限らない」
「そういうことにしといてあげるわよ。素直じゃないわね、ほんと」
シルフが危険なことを言っていたが、実のところ俺個人で携帯できる武器はほとんどない。
というのは、戦闘行為が想定されていたわけではないから。せいぜい、護身用のライフルと麻酔銃、クリスタルカーボン製のハンマーなどの工具あたりしかない。
他には、炭鉱などに何かと使える爆薬類。何というか、「俺たち開拓団!」な感じの装備しかないんだ。
「シルフ、今のうちに蟻のいる洞窟の詳細な地形調査を頼む」
「あんたの考えたことが、だいたい予想つくわ。鬼畜ね、あんた」
何とでも言うがいい、駆除には安全確実な方法のはずだ。ただし地形による。
「あーシルフ、今育ててるマウスの一部を洞窟環境のドームで育ててみようと思ってるんだ」
「ドームだと限定的だけど、ウイルスや細菌の影響がどれくらいかわかるわね。ついでだから、ジュースキノコのパウダーを与えましょっか」
「化学合成できたのか?」
「未知の物質はなかったし、量産できるわよ」
仕事がはええ。合成できるなら、天然物ではないけど、アズール達に気前よく振る舞えるな。お土産にもよいかも。
ホープのものであっても、地球産の物質と同じものであれば、再現できるはずで、キノコジュースはできたということだ。もちろんできないものもある。何度も精錬してる白銀だ。重力が軽くなるのは何故か全く想像がつかない。
調査できてはないけど、おそらくタマムシ繊維も再現できない気がする。あれも硬度や重量が計算とズレそうだ。
白銀のような謎物質が、どういう構造か分かれば宇宙船や航空機の材料が劇的に変わるかもしれない。
まあ、帰還出来ないんだけど。
アズール達が来るのはたぶん7日後くらいだし、それまでは探索と植物ドーム、家畜ドームいじりをしよう。ヒヨコちゃんも鶏になったし、もうすぐ卵と鶏肉が食べれるぞ!
ドームは休むことなく増設をして行っている、新しいドームは地下洞窟環境にしてみて、地球産植物と洞窟産植物を育ててみるか。
そうと決まれば、洞窟産の植物を取りに行くか!まずはあれが欲しい、あの蛍光色に光る植物。
以前探検したときに、サンプルは取ったんだけど、戻るまでにダメにしてしまった。
なので、採取してくるなら、水中、地上でも運べるように、隔離ケースがいるな。ただのケースじゃダメだ。気密性のあるケースじゃないとな。温度も保てるようにしないとだ。
地上と地下の環境の違いもホープの謎だよなあ。どうなってんだろ。
「シルフ、光るやつ取りに行こうとおもう。気密できて温度も保てるケースがあったはずだ」
「あれは大きさもあるから、手動じゃないとだけど、行くの?」
「いずれ行くつもりだったし、この前アズール達と湖潜ったしなあ。今更警戒してもと思ってさ」
「蛍光色の生き物、植物かも知れないけど、調べたくなったって、ずいぶん余裕出てきたわね」
「何のかんので、生きていく分には不自由なくなってきたしな。食材はどうしようもないし、ちょっとした冒険もしてみたいってね」
「万が一のために、用意できるものはしておくわ」
「明日朝から出かけるよ」
「りょうかいー」
翌日。ワクワクの冒険が始まるよ!
と一人ではしゃいでみたが、虚しさだけが残った...やるんじゃなかったよ。
今回はサンプル採取のため、少し大きめのケースを抱えている。ケース自体のサイズはそう大きくはなく、10センチ四方くらいなのだけど、付属品で倍以上のサイズになっている。
温度を保つための冷暖房機能もあれば、気密性を保つための機能もある。これらを動かすための電源はバッテリーで行う。太陽光発電した電気をバッテリーに貯めておき、気密ケースに接続するわけだ。
このセットは濡れないよう、ケースに全て収納される。そのケースをバックパックに入れ準備完了だ。
湖に着くと、俺は水中移動用のバルブをバックパックから取り出す。これは、肩幅のサイズほどのバトンみたいなもので、手に持って進みたい方向に向けると進んでくれるスグレモノだ。水陸両用車で来ることも考えたのだけど、冒険するなら自力移動のほうが気分が盛り上がると思い、バルブを使うことにした。
自力というなら泳げよって話なんだけど、人力のみでバックパックを抱えたまま進むのはかなり厳しい...というわけでバルブを選択したんだ。
バルブのおかげで水中を快適に進むことができる。アズールたちの速度に負けないほどのスピードで俺は水中を進んでいく。シルフのナビゲートを受けつつ、最短距離でアズールの集落がある洞窟入口まで進んでいく。
なんなく洞窟までたどり着いた俺は、バックパックからケースを取り出し、蛍光色の一群を少し削り取ってケースに収納した。
ガサ!
何の音だ!虫が地を這う音に似ているが、それにしては音が大きい。
ガサ!ガサ!
まずい、近づいて来るぞ。と前方を見ると、うっすらと大きな虫の影とそれに乗る人型が見える。
「シルフ、人型が見えるので接触してみる。まずくなったらすぐ脱出するので、水際まで下がるぞ」
ヘルメットのインカムにそう告げると、俺はジリジリと湖の入口のほうへ後退しつつ、迫る虫と人を待ってみることにした。
虫は、巨大なカブトムシのようだった。ただ色が、アズールと同じような瑠璃色だ。かなり気持ち悪い。背に乗っているのはスーツとバイザーを付けていないが、遠目に見る限りアズールと同じ種族のようだ。
緊張を解かず、待っていると20メートルくらいの距離まで近づいてきた。
[島田さんじゃないですか。こんにちは]
「アズールか?」
[そうです。キノコの採取をしていたんですが、人の気配がしたので来てみました。島田さんがいてびっくりです」
どのあたりから感知出来るのかわからないけど、少なくとも、ここから20分ほど歩き、螺旋の下り坂あたりまでいかないとキノコはなかったはずだ。あの触覚か。感度のいいのは。
「この蛍光に光る生き物?が見てみたくてここまで来たんだよ」
[なるほど。ここまで出てこられるのなら、島田さんが集落に入れるようお話してみますね」
「それはありがたい!ぜひ頼むよ」
この言い方は、俺は引きこもりで外に出たくない!と思われていたのか、いや、水中に潜れないと考えていたのかもしれないぞ。この前、蟻がいる洞窟を案内された時に少し驚いていたようだし。
しかし、思わぬところでアズールから嬉しい提案を受けれた。あの幻想的な集落には行ってみたかったんだ。なら、お願いしたらいいじゃないと思うかも知れないけど、相手の事情や習慣もわからないので下手なことは言えないじゃないか。
異種族は集落に入れないとかあっても不思議じゃないし。
しかし、この巨大カブトムシは何なんだ。ポニーほどの大きさがあるカブトムシ...色はメタリックな瑠璃色。ポニーと違って足が横についてるので高さは低いが。
[ビートルが気になるのですか?]
ビートルってカブトムシじゃねえか!乗れるカブトムシ。乗りたくない...
アズールが説明するには、このメタリックブルーなカブトムシは翅がないそうだ。翅がある部分は空洞になっていてそこに荷物を収納できるらしい。
角に荷物を引っ掛けることもできるし、何より力持ちなんだそうだ。まあ、カブトムシだしね...
巨大蟻なんて目じゃないほど気持ち悪いぞ、カブトムシ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます