第12話 雨が炭酸
カブトムシ、カブトムシ...誰だファンタジーが素敵とか言ってたやつ。色違いのカブトムシとかほんとうに気持ち悪い。
と、帰還してから俺はしばらくあのカブトムシを思い出してワナワナしていた。
他の色とかいないだろうな、ほんとうに。
アズールの集落は、俺が一度ラジコンで入り口まで行っているが、思った以上に巨大な集落なのかもしれない。
あのサイズのカブトムシを騎乗用として飼育出来るなら、それなりの餌とスペースが必要だ。白銀の加工や、タマムシ繊維の加工もあるだろうから、予測される規模は集落レベルじゃないかもしれない。
もしくは、あのような集落が幾つかあって、行き来してるのかも。
蟻と違ってカブトムシが水中でも平気なら、地下洞窟内の広い範囲で居住可能だ。そうでなくても、水がないエリアが広大に広がっているのかもしれない。
アズールの集落にはものすごく行きたいのだけれど、冷静になって考えてみると、波風を立てないように細心の注意を払わないといけない。
ヘルメットも取れないし、出されたものも食べれない。うーん。
訪問許可とってくれるみたいだから、もし許可が出て、こちらの準備が整ったらぜひ行かせてもらおう。
「蛍光色はコケ、細菌、シダ、小さな虫と幾つか種類があったわよ」
さっそく、採取した蛍光色を調べてくれたシルフから報告が入る。今回の調査では、無事蛍光色を持ち帰ることができたのだ。
シルフの話を聞く限り、あの蛍光色は単一種ではなく、いろんな生物の集合体だったのか。ドーム内で育成できるか、地下洞窟環境ドームに入れておこう。
「野良蟻の洞窟はどうだった?」
「運の良いことに多少の工事で大丈夫そうよ」
ふむ、蟻のほうは状況がもし変わっても協力できそうだな。巨大蟻は見た目がアレなので躊躇するけど、成分的にはエビカニなので殺菌処理すれば行けるか?
すでにマウスに食べさせるようにシルフへ依頼してるので、問題なさそうなら食べてみよう。海産系の食べ物は養殖出来ないので、人工受精ができる用意もない。つまり、俺はホープにいる限り魚もエビカニ、ノリなどが用意できないのだ。海産物好きな俺には辛い...
その救世主が、蟻なんですよ、蟻。期待はしてるんだけど、いざ食べるとなるとなあ。一応、検査が完了するまで、冷凍保存している。
翌日朝、日課の鶏さんの見学に行くと、なんと卵を産んでいた!ついに卵ですよ。 卵。苦節2カ月?詳しくは数えていないけど、とにかくめでたい。
さっそく食べようとしたら、シルフに止められた。
「食べたいのは分かったけど、いきなり口をつけるのは危険よ。まず検査!」
そうだよね。一度異常が無いか見ないとダメだよね。
次にマウスを見に行った。洞窟環境のマウスも蟻を食べさせたマウスも順調そうだ。洞窟環境の低酸素でも健康被害は無さそうに見える。酸素の割合は地球の高地くらいだから問題ないのか。経過観察が必要だな。
ここに来て以来初めて雨が降っている。もう4日も雨が降り続いて、いつ止むのか想像がつかない。雨とはいえ、ほとんどの時間は霧雨で、非常に細かい雨粒が特徴だ。もう一つは、さすが二酸化炭素だらけなだけに、酸性雨どころか炭酸水じゃないのかという雨の成分である。
雨のおかげで、若干気温が下がり、現在外気温は52度。生身は無理だな。
この酸性雨がドームに影響するのかシルフに調べて貰ったけど、硫酸雨でも大丈夫なものが、炭酸程度ではビクともしないとのことだ。温度についても400度でも平気とのこと。強いなこのドーム。
しかし、これほどの雨が降ると地下洞窟環境はどうなってるんだろうか。水の流れる道は決まっているだろうから、変わらないんだろうなあ。
水は地下水となり、地表下まで落ちるはずだが、湧き水として地表に上がる。地表に上がれば180度の高温だから、蒸発する。地球のように、地表に水はたまらないはずだ。観測結果でも湖は局地以外存在しなかった。
そんなルートを通るはずだから、洪水にはならないんじゃないかなと勝手に推測している。
そんな長雨続きの日々にアズールが訪問してくれた。火傷しないか心配だよ。
[こんにちは]
「雨に打たれて大丈夫だったのか?」
[はい、この鎧と兜があれば平気です]
つええなカマキリバイザーとタマムシスーツ。俺の知らない効果があるのかも知れないけど。タマムシ繊維は手に入れてないからな。
「あ、そうだ。この前洞窟で会ったときに採取した蛍光色をさ、育ててるんだよ」
[私たちも灯りにしたりして、使いますので、育てますよ]
ほうほう、アズールたちは蛍光色を育ててるのか、ならアドバイスが聞けるかも。
「あ、それならうちのドームを見ていってくれないかな?アドバイスがあれば聞きたいな」
[私も島田さんの畑は興味あります。ぜひ見せてもらえますか?できれば他のも]
「時間的に大丈夫かな?なんだっけ空気草の効果が切れるんだっけ」
[この前来た時に気がついたのですが、いつものあの部屋にいるときは、空気草が枯れないのです]
「なるほど。ならアズールが兜を外せるところにずっといるなら大丈夫なのかな。ただ、俺がヘルメットを外せるところにアズールが兜をつけていって大丈夫かはわからないんだよな。危険なので、行かないほうがよいだろうなあ」
[そういうことでしたら、行けるところだけでも見せてもらえれば]
「せっかくだから、ゆっくり喋りたいところだね。空気草が平気なら泊まってくれても」
[本当ですか?でしたら次来る時には都合をつけてきますね]
「おお、ならぜひ泊まって行ってよ。部屋もあるし、寝たり、お茶飲めたりできるよう用意するよ」
用意するのはシルフだけどね。
こうして、次回アズールがお泊りすることが決まったのだった。
アズールが泊まってくれるなら好都合だ。一つ試したいことがあったんだ。彼女が寝たら決行するぞ。いや、エロいことじゃあないぞ、念のため。
俺は先にアズールをいつものアズール用ドームに案内する。一つ彼女を驚かせたいことがあったので、懐から白い粉が入った小瓶を手渡す。
[これは?]
「それは、ジュースキノコを粉にしたものなんだ。ここに水があるから混ぜて試してみて欲しいんだ」
飲みなれているアズールに量産化できる合成ジュースキノコの粉を試してもらいたい。味が天然物とどこまで違うのか興味がある。
さっそく、コップにキノコパウダーと水を混ぜてかき回すと、すぐキノコパウダーは溶けたのでアズールに差し出す。
両手でコップを掴み、じっとコップを見つめた後、アズールは少しだけ口をつけた。
[確かにジュースキノコですね。少し甘味が強いかもしれませんが。私は甘いほうが好きですけど]
「おお。味に問題ないようでよかったよ。よければお土産にそれを用意してるので、どうかな?」
[ぜひ。集落の皆さんにも飲んでもらいますね。ジュースキノコは雨季に入ると取れなくなりますし]
「雨季、今が雨季なのかな」
[これから2ヶ月ほどが雨季になります。雨の日が続きますよ。最も私の集落で雨は降りませんが]
まあ地下だしね。しかし、洞窟の中は一年中気温が一定なんだけど、生育しない時期とかあるんだな。興味深い。
アズールがジュースキノコを飲み終わるころ、俺は農場へ彼女を案内したのだった。
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