第14話 キュウリおいしいです

 地下洞窟環境ドームにアズールを案内したところ、アズールはある動物に興味を持った様子。

 じーっとその動物を眺め、手が出てまた引っ込めてとウズウズしてるようだ。

 その動物とは、実験用マウス。地下洞窟環境の適応とジュースキノコの危険性調査のために飼育していたものだ。

 あわよくば、マウスを持って帰ってもらい、集落の環境に適応できるか見たかった俺はこのチャンスをものにしたい。


「アズール、あれはマウスという動物なんだ」


じーっとマウスを見つめるアズールにそう声をかける。


[マウスですか。何をしてくれる動物なのですか?]


 わざわざドーム内で飼育してるのを汲んでその意図を聞いてくるアズール。まさか、俺が現地の食べ物を食べれるかの実験用とは言えない。


「割に環境変化に強い動物だから、俺が地下洞窟でヘルメットを外せるか試してるんだよ」


 マウスが環境変化に強いとか、ないけどね。


[そうなんですか、見たことない動物です。ペットなんですか?]


「そうだね。可愛がるだけしか出来ないけど。欲しければ持って帰ってもよいよ」


[わー]


 マウスに少し触れながら、アズールは感嘆の声をあげる。マウスを持って帰るなら、洞窟までは送っていかないと。さすがにそのまま地上と水中はダメだろうし。

 マウスを持って帰るなら、マウス用ゲージとジュースキノコパウダーがあれば大丈夫だろう。サイズ少し大きいので、まずゲージだけでもいいかな。

 俺はアズールに、マウスのゲージのことと餌のことを説明しつつ、持って帰るなら、洞窟入り口までマウスを運ぶことを伝えた。


[持って帰れるか、みんなとお話しします!]


 上機嫌なアズール。集落でマウスが無事なら俺も無事なはずだから、ぜひ持って帰ってもらいたい。

 持って帰ってもらうマウスは念のため去勢しておこう。万が一、このマウスが大繁殖して環境汚染したら困るから。


 次に蛍光色の様子を見てもらった。アズールが言うには日光に当てないほうが良いらしい。地下洞窟で育ってるものだし当然だよな。というわけで、蛍光色はプレハブの中で育てることにした。

 蛍光色は大小様々な生物で構成されているみたいだけど、狙い目は小さなシダと細菌類(キノコ)ろう。虫やらはシダを食べるし。育てるには不要だと推測される。


 今回アズールは、また違う種類のシダとキノコを持ってきてくれた。今度のキノコは黄色、それも蛍光色の黄色。シダのほうは、10円玉ほどの大きさの種。種の殻を取ると、中は寒天とツブツブが入っていた。

 かなり、変わった植物だけど、まず調査してみよう。

 次は何を持ってきてくれるか楽しみだ。


 そして、試食タイム!

 今回は、ジュースキノコにキュウリを数本だ。ちゃんと無菌処理をしているから問題ない。キュウリはこの前のシダの種の分析から食べれると判断した。メロンも大丈夫そうだけど、まだ育っていないから今回はキュウリで我慢してくれ。


 アズールはキュウリの緑色をマジマジと見ている。緑色の実は珍しいのだろうか。カミキリムシなら葉っぱも食べれそうだけど、消化できるか不明な成分があるため出せない。


[おいしいです!こんなみずみずしい食べ物があるんですね]


 どうも、キュウリのような水分豊富な食べ物は珍しいらしい。


 アズールが帰宅してから、さっそくもらった食べ物の成分調査をすることにした。


「えー、黄色のキノコ。見るからにダメそうな雰囲気を出してるけど、どうなんだ、これ?」


「調べておくから、全部置いといてね。それより島田。野良蟻洞窟で動きがあったわよ」


「何があったんだ?」


「蟻はどんどん増えてたんだけど、新キャラクター登場よ」


「なんか嫌な予感がするんだが」


「よくわかったわね。新キャラクターは巨大蜘蛛よ。蟻を捕食してるわ」


「蜘蛛か、蜘蛛は場合によっては脅威だな」


 蜘蛛は、地球の進化の歴史では、最古参の鋏角類に入る生物だ。鋏角類はかつて最も繁栄したグループだったが、陸では昆虫類に、海では甲殻類に押され、衰退していった。

 しかし、古い進化系統の種でありながら、有力な捕食者として綿々と現在まで生き残るのが蜘蛛とサソリだ。蜘蛛は網をうまく使うことによって捕食者としての地位を守ってきた。

 巨大蜘蛛となると、蜘蛛糸と8本の足による柔軟な動き、強力な顎と人間にとって脅威と予想される。

 巨大蜘蛛がどれだけ水中適用しているのかによっては地上まで来る可能性まである。

 とはいえ、昆虫類と違って頑丈な装甲を持たない蜘蛛が熱湯の雨の中で生き残れるとは思えないし、雨がなくとも、気門で呼吸する限り、酸素濃度が極端に低い地上では生存不可能だろう。

 結果、蜘蛛であっても俺のドームには影響はない。だが、もし遊泳できた場合にはアズール、リーノにとって脅威になるかもしれない。


「シルフ、その蜘蛛は遊泳できるのか?」


「不明ね。ただ、野良蟻洞窟まで入ってきたから短時間なら泳げる可能性もあるわね」


「だなー。巨大蜘蛛がどんなのかまず見てみるか」」


 監視カメラってほんと便利だよね。いろんなところに仕掛けてるのだ。


「これは...」


 モニターで見る蜘蛛のサイズは、巨大蟻と同サイズだった。ドーベルマンほどのサイズだ。蜘蛛らしく俊敏な動きで、洞窟の壁や天井でさえ苦もなく歩行する。

 糸は巣を張るタイプではなく、手に持って投げるタイプの蜘蛛糸だった。蟻に向かって糸を投げつけ、動きが止まったところを捕食。蟻は多少抵抗するものの、さすが家畜にされるくらいの生物なので、あっさりと仕留められている。

 野良蟻たちは、巨体に関わらず割に繁殖速度が早いので全滅まではいかないだろうが、ほうっておくとどんどん蜘蛛の個体数が増えていくだろう。

 これは手を打ったほうがいいかもしれない。


「巨大蟻じゃ相手にならないようね」


「んだな。こんなのが集落に侵入したらアズールたちでも大変なんじゃないか」


「案外、あっさり撃退するかもしれないけどね。あの子達、人間よりも身体能力がかなり高そうだし」


 確かに、泳ぐ速度もそうだが、蛍光色を取りに行った時の触覚の感知力もスグレモノであった。泳ぐ速度から陸上種ということを加味すると陸上でもかなりのパフォーマンスが予想される。

 蜘蛛は蜘蛛で、壁を縦横無尽に駆け回る俊敏さと粘着性のある糸がある。実際見てみないとわからないけど、どっちかが一方的に仕留めるのかもしれない。


 蜘蛛の話で心配していたら、翌日リーノが訪ねてきたのだった。




[すまない。蜘蛛が出た]


 リーノは訪問早々そう言って少し頭を下げた。


「野良蟻のところ?」


 知っているけど、一応そう答える。


[そうだ。蜘蛛は多少なら泳ぐことはできる。島田は泳ぐのが得意じゃなさそうだから、気をつけて欲しい。地上に来ることはない]


 泳ぐのは普通だって。人間だもの。リーノたちのようにはいかないさ。


「蜘蛛がリーノ達を襲うことってあるのか?」


[蜘蛛は捕食できるものなら何でも襲いかかる。もちろん私たちも例外ではない]


「そうか。蜘蛛を相手にするとどうなんだ?」


[数匹同時でなければまずやられることはないさ]


 逆に言えば、数匹同時なら危ないってことか。なら協力してもいいか。


「蜘蛛は野良蟻という豊富な食料があるから、大繁殖するかもしれないぞ。よければ蜘蛛退治に協力させてくれないか?」


 ものすごく意外そうな顔をされたんだけど、そんなに俺は弱そうなのか...

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