第二部 深層探索、ぼっち帰還への旅

第26話 島田はセンスがなかった

 アズールが次に来るであろう、7日間に俺は第二エネルギーを使いこなすべく練習を行っている。同時並行でどうにか第二エネルギーを科学で捉えられないか、の実験も行っていて、実験の中心は白銀だ。

 今日も俺は全身に第二エネルギーを巡らせようと体に力を込める。意識を第二エネルギーだけに集中するとどうにか全身にエネルギーが巡るといった習熟度になってきた。

 しかし集中が少しでも途切れると、とたんに体を巡っていたエネルギーは元の第二エネルギーの胃袋に戻ってしまう。


「なかなか難しいなこれ。体に巡らせれるようになったら、次のステップがマナ計測だったか。時間がかかりそうだよ」


 テーブルの上に三角座りをしているシルフに俺は愚痴った。シルフは気にした様子もなく、「まあ島田だしね」とボソッと。聞こえてるよ...


「島田。あんたが習熟するより科学のほうが早そうだから、白銀の実験をやろうよ」


 えっと、皆目検討つかない科学的計測より俺の習熟のほうが遅そうって、ひどい。事実になりそうなだけに喜ばしいことのはずなのに全く嬉しくないぞ。

 白銀の実験は、白銀に第二エネルギーを流し、手を離すことでどのような変化が白銀に起こったのかを計測する。白銀に第二エネルギーを通していると白銀の性能があがる。具体的には重量が下がり、強度が上がる。

 簡単なのは重量計測だ。第二エネルギーを通すと、なんと重量が52%も落ちる。俺が第二エネルギーを流し込む量を調整できればいいんだけど、白銀は第二エネルギーを少ししか吸わないみたいで、俺にはそこまで繊細なエネルギー移動はできない。

 問題は、全て一様に52%の重量軽減されているのは分かるのだが、原因となる物質的変化が全く計測できない。他に白銀のような物質があるなら、それと比べることで何か分かるかもしれないなあ。


「赤外線とかいろいろ試してみたけど、全く変化が見えないわね。顕微鏡で結晶を見ても変化なし。科学的には重量が変化したことが理解不能よ」


 うーん、何度やっても、あの手この手で調べても不明か。と、考えながら本日もぎたてのスイカの実をスプーンですくって口に運ぶ。スイカうまい。あれ?何考えてたっけ?


「アズールが来たようよ」


 今日は何を出そうかな。アズールからもらった食べ物は全てマウス実験を終えたので、俺も今日から蛍光黄色キノコパウダーを食べれる。黄色キノコパウダーは合成粉末ができているのでジュースにしたり、味付けにつかったり自由自在だ。

 とりあえず、この前出したものと同じになるけど黄色キノコのタピオカジュースにするかな。


[こんにちは。どうですか?島田さん。マナの習得具合は?]


 さっそく、黄色キノコジュースを一口含み、笑顔のアズールが尋ねてくる。


「集中してなんとか体に巡らせるくらいにはなったよ」


[そ、そうですか...よかったです]


 なんか、可哀想なものを見る目で俺のことを見ている。そんなに遅いのか俺...


「普通はもっと早いのかな?」


[え?いえいえ、島田さんは島田さんのペースでやればいいんですよ。そのうち目的の計測もできるようになりますよ!]


 優しさがとても痛いんだけど。シルフとは違う意味でグッとくるな。この分だとテレパシーの習得など夢のまた夢だぞ。気を取り直して、今日は試したいことがあったのだ。

 今シルフが三角座りしている横に、10センチの白銀でできた立方体がある。俺はこれに手を触れ、第二エネルギーを流す。


「アズール。この四角い白銀に向けてテレパシーをやってみてくれないか?」


 不思議そうな顔をされたが、言うとおりにしてくれるアズール。


「テスト、テスト、聞こえますかー?」


 シルフの声。これにアズールは目を見開き驚いている。どうやら通信できたようだな。


[島田さん、びっくりです。シルフさんの声が聞こえました。すごく可愛らしい声なんですね]


 可愛らしく聞こえるのはあくまでアズールのイメージだ。テレパシーは受けてのイメージによって言葉遣いも使われる単語も変わる。俺が受け取る言葉もアズール本来の言葉を日本語に変換したものとは違っているはずだ。

 実は、[島田ー。あたしねー。バナナジュースが超イカスとおもってんだー]といった口調でアズールはしゃべっているかもしれないけど、俺は[島田さん、バナナジュースがとてもおいしいです]と受け取る。

 受け取り方は違っていても意味は通じているので大きな問題ではないが、その人の人柄は言葉にもあらわれるのでその点は残念だけど。


「白銀とシルフを繋いだんだ。白銀が第二エネルギーを持っているからひょっとしたら通じるのかと思ってね。どうやら実験は成功のようだ」


 これでシルフもアズールと話ができる。何か意見があればその場で言ってくれるだろう。


「アズール一つ聞きたいことがあるんだ。白銀みたいな性質を持つ物って他にないか?できれば手に入れたい」


[ありますよ。私の鎧に使っている繊維です]


 アズールはタマムシスーツに目をやる。ほう、タマムシ繊維は白銀と同じ性質を持つのか。他にもいくつか第二エネルギーを吸収できる物質がありそうだな。

 あ、忘れてたが蜘蛛の糸もきっとそうだ。調べた結果と映像で見た性能が違いすぎるからな。


「できれば、少しだけ譲ってくれないかな?お礼はもちろんするよ。いつもの白銀インゴットに加え、これはどうだ?」


 2リットルほど入るビンをテーブルの上に置く。この中には黄色キノコパウダーがみっちり入っている。ちゃんと蛍光黄色に着色もしている拘りの一品だ。


[それは、黄色キノコを粉にしたものでしょうか?]


「正確には少し違う。今飲んでいるジュースのように、黄色キノコより味が濃くなっているよ。タマムシ繊維は手のひらくらいの量で十分なんだ」


[それくらいでしたら持ってきますよ]


 アズールは快く受けてくれた。実験がはかどりそうだ。


「島田。タマムシ繊維は生物由来だよね。できれば無機物のほうがいいんだけど。何かないかな?アズール」


 ああ、そうか。生物由来の物質と白銀のような無機物だと比較実験が難しいか。タマムシ繊維は蜘蛛の糸と比較実験出来ると思うけど。


[蛍石というものがあります。これはマナを通すと光る性質があるんですよ。暗いところの探検に便利です]


 蛍石か。アズールの言っている蛍石は同じものか気になるな。光る生物が体に蓄えている可能性もあるか。


「蛍石はどんなところから取れるのかな?実物があれば見せて欲しいんだけど...」


[蛍石は、生物からは取れません。岩の中に稀に取れることがあるんですよ]


 といって筒状のバトンを手提げ袋からアズールは出してくれた。


[このバトンの先に付いてるものが蛍石です]


「ちょっとだけ、借りてもよいか?」


[どうぞ]


 アズールが貸してくれるとのことだったんで、さっそくシルフに解析してもらおう。これでどんな鉱物か分かるはずだ。


「今日は一つお願いがあったんだ。ルベール、俺たちのことをアズールに話をしてもいいか?ルベールが俺たちと協力してくれるなら話をしようと思う」


[ルベールは、第三エネルギーの収集に協力してくれるなら、島田さんに手を貸すと言っています。私が協力するかは私に任せると言ってますね]


「アズールを危険な目には合わせたくないから、どこかに連れ出したりするってことは考えてないよ。ただ、ルベールだけと話をすることは難しいから、アズールにも俺たちの事情を知っていてもらおうと思って。それでもいいかな?」


[はい。島田さんたちの不思議な道具や食べ物は気になっていましたので、教えてくれるなら教えて欲しいです。ルベールと私にお話したことは皆には黙っていればよいんですね?]


「話がはやくて助かる。信じて欲しいのは、俺とシルフはルベールの協力が無いと目的は達成できないし、ルベールも俺たちの協力がないと望みはかなわないんだ。だから協力し合う」


 前置きでそう伝えてから、俺はホープへ来たこととここにある機器の簡単な説明を行った。科学的なことにアズールは造詣が深くない。なのでその辺はかなりボカして話をした。シルフのこともホログラムをシルフと認識してもらうことにした。

 ルベールは予想通り協力体制を敷いてくれたので、本日の目的は達成だ。

 アズールには、無線機を一つ持ってもらうことにした。この無線機はスグレモノで50気圧までの水圧にも耐えるし完全防水加工がされている。無線可能距離は15キロ。アズールの集落からも届くはずだ。地中から地上でもきっと問題なく通るはず。

集落についたら、一度試して欲しいと使い方も教授しておいた。

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