第30話 タコ釣り漁
高度実験の結果、1000メートル下がるごとに第三エネルギーの密度は10パーセントづつ増えていくことが分かった。地表付近では、カルデラ付近が1とすると1.6といったところだ。
リベール曰く、吸収するためには濃度にして2以上ないと、濃度が低すぎてできないということだった。大まかな地形調査の結果だけど、大渓谷の底は今回計測した地表よりおよそ1500メートル下がる。
計算のままなら、濃度は1.75で足りないが、アズールが平気そうなら行ってみる価値はあるな。ひょっとしたら吸収可能な濃度かもしれない。
大渓谷ならフィンエアーで手軽に行けるから、カルデラ深部より遥かによい。
「シルフ、タコは見つかった?」
リーノから頼まれていたタコの捕獲は、もし大型ならすぐ見つかるだろう。
「ええ、アッサリ見つかったわよ。水深650メートルの底にいるわね。動きが少ないからこれまでの調査では、気にも留めてなかったわね」
動きが鈍いのか、動かないだけなのか。潜水艦ラジコンで、周辺を中継させるとタコの全貌が見えてきた。この深度になると暗いので、暗視スコープに特殊な感光を当てて色を付けている。
予想通り大型のタコで、体長はおよそ6メートル、足の吸盤全てが不気味に青色発光し、太さも根元付近でになると直径80センチほどあるか。
チョウチンアンコウのように、光で獲物を呼び寄せて、近づくとパクんと来るタイプなのかなあ。
やり方はいろいろ考えられるけど、手持ちの船は小型なので、引き揚げる際に転覆するかもしれない。
なら、フィンエアーで派手に行くか!
シルフにフィンエアーと釣り上げるための準備をお願いし、待っている間に実験タイムにすることにした。
"懸念することがあるから、実験は一旦やめるわよ"
いざ、検査ルームまで来るとディスプレイにシルフからのメッセージが写る。俺は口を開かず、首だけで答えた。
"タコの捕獲が終わった後、フィンエアーを飛ばすからそこで"
無言の俺にシルフから続いてのメッセージが来る。シルフがメッセージで伝えて来るのだから誰を警戒してのことかはすぐ分かる。ならば、ドーム付近での映像及び音声は危険だな。
いきなりきな臭くなって来たが、少し予想はつく。今はタコのことだけ考えておこう。
そうこうしているうちに、フィンエアーの準備が出来たので、湖上空30メートル、タコ釣りポイントに移動する。
シルフの情報では、湖には魚らしきものはいないが、イカは大量にいる様子。イカと言ったが地球にいるイカと見た目は少し違う。三角形の巻貝のような貝殻を持つイカだ。
古代地球に栄えて絶滅したベレムナイトや直角貝と言われる種類に近い。大きさは地球のイカと変わらず、ホープ特有の巨大化はしていない。食べれるならいい食料になりそうだな。
ここへ来た頃に水の音を聞いたが、恐らく原因はこのイカだろうと推測している。
フィンエアーは30メートル上空でホバリングしているとはいえ、吹き付ける強風が湖の水面を揺らしている。
「シルフ!状況開始だ」
「りょうかいー」
フィンエアー下部に取り付けた大型ルアーから大型の銛と、先端に四角い箱のようなものがついたピアノ線を垂らしていき、銛と箱を大型タコへと誘導しつつ、位置調整していく。
程なくして、四角い箱はタコの触手の射程圏内に入る。光る吸盤の周囲をユラユラ揺れる四角い箱。
獲物と思ったのかタコは箱に食いついた!凄まじい力で引っ張り、箱を取り込んでいく。
「今だ!」
俺の合図と共に強烈な電撃が箱から発射される!この電撃は地球では禁止されている禁断の漁。その名も電気ショック漁法。第二エネルギーの影響があるかもしれないと懸念し、威力は地球基準の20倍だ。黒焦げになるかもしれん。
「流石にタフね。あの電撃で気絶するだけなんて」
シルフもビックリのタフさだったらしい。
気絶してしまえば難しいことは何もなく、銛をタコに突き刺して引き揚げて、作業完了だ。
文明の利器を舐めないでいただきたい。
「あんた、何もしてないじゃない」
聞こえないふりをして、揚がった巨大タコを冷凍ドームに運びこんだ。
一風呂浴びた後、リーノに連絡を入れるか。今日はラベンダーアロマをたらそう。リラックスできるぞー。
ラベンダーを垂らし、いざ風呂へ行こうとしたらシルフに止められ、強制的に空の旅へと連れ出された。ああ、後で懸念することがあるからって言ってたな。
フィンエアーは、カルデラを越えそのまま大渓谷方面へ飛行中で、十分離れたと判断した俺はシルフに声をかける。
「シルフ、何か見つかったのか?」
「ええ、大発見よ」
ディスプレイが天井から降りてきて、映像を映す。これは山の麓付近か?景色はどんどん縮尺されていき、ある空洞の前で停止する。探していた横穴が見つかったのか?
「次行くわよ」
今度は場面が切り替わり、水陸両用ラジコンを横から映している画像だ。ラジコンには10センチほどの全長がある蚊のような虫が縛られている。ラジコンは洞窟の中から見える外に向かって進んでいるようだ。
そしていよいよ、ラジコンは洞窟から外へ出る。
え?
外へ出ると、蚊が消えてなくなっている!洞窟と外の境目で何があったんだ?
「シルフ、この映像は俺たちが住んでいるカルデラのある山かな?」
「そうよ。麓付近でようやく横穴を見つけたんだけど、衝撃の結果よ」
「中と外の気温があの境目で変わっていたのか?」
「ええ、あんたの予測どおりよ。温度も気体構成も、洞窟との境目で変わっていたのよ。それでさっきの実験をしてみたのよ」
話がいきなりすぎて分からないなあ。一旦整理しよう。場所は山の麓。外は気温180度の灼熱の世界だが、洞窟の境目を超えると気温25度の世界に変わる。
普通に考えると、洞窟の中に進むほど気温は落ちていくはずなんだが、突然気温が25度に変わる。
これが不可解だったため、シルフは生物実験を行った。その結果、洞窟の境目を超えた蚊は消し飛んだ...どこかで聞いた現象だ。
そうだ、この現象はホープへワープした時と同じだ。第二エネルギーの壁に阻まれ、生物が消し飛ぶ。
シルフは、洞窟と外の境目に起こっている現象は科学的にありえないから、科学で観測できない現象を疑い、生物実験を行なったんだ。ここに第二エネルギーの壁があるのなら、様々な矛盾が出てくる。
「第二エネルギーの壁がここにあったということか?」
「ええ、ルベールの話を信じるならね。ここに第二エネルギーの壁がある。それがどんな意味か想像してみなさいよ」
洞窟内の気温はともかく、気体の構成は不可解だったんだ。外と大気が繋がっている限り、中で相当量の酸素が発生している箇所がないとあの酸素量にはならないし、発生していたとしても洞窟内という閉鎖空間であれば、大気の構成はもっと歪になるはずだ。
当初から洞窟内の環境は謎だったんだが、おそらく第二エネルギーが絡んでいるのだろう。どういったメカニズムでこのような環境調整をしているのかは想像もつかないが、一つ言えることがある。
これは「自然現象」ではない。「誰か」が「人工的」に作り上げたものだ。カルデラ山全体を第二エネルギーの壁が包み込み、洞窟内環境を作っている。都合よくカルデラからは入ることができ、麓の入口からの侵入は拒否されている。
では、「誰が」第二エネルギーの壁を作り上げることができるのか?
知らない誰かかもしれないが、ルベールが何か知っている可能性もある。知っていて放置しているのなら、俺たちが麓の入口を知っていることは黙っておいたほうがいい。
「ルベールが関わっているのか?」
「分からないわ。私が推測することは三つ。一つ目、ルベールがこの第二エネルギーの壁を作った。二つ目、ルベールは第二エネルギーの壁のことを知ってはいるが当事者ではなく、関心もなく、私たちの知らない第三者が作り上げたもの。三つ目、ルベールはこのことを知らない。ルベールも知らないような優れた技術で第三者がこの壁を作り上げた」
「可能性として高いのは二つ目か三つ目だな。もしルベールが第二エネルギーの壁を意図的に操作できる技術があるのなら、俺たちの協力なんていらないはずだ。ホープには第二エネルギーの技術力が高い知的生命体がいるのかもしれないな」
「麓の入口は、メンテナンス用なのか他のカルデラへ行くための抜け穴なのかは分からないわね。奥の調査結果を出すときはフィンエアーでやりましょう」
「それが無難だな。危険な可能性がある限り、このことはルベールには秘密にしたほうがいい」
麓の第二エネルギーの壁については、何度も考察する必要がありそうだな。
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