第31話 風呂に今度こそ入るんだ

 昨晩アロマ風呂に入り損ねた俺は、朝風呂を楽しむことにしたのだ。もちろんラベンダー風呂だ!

 服を脱ぎ脱ぎして、いざ行かんアロマ風呂。


「リーノが来たわよ」


 待てー!またこのパターンかよ。どうしても俺をアロマ風呂に入れないつもりだな。


[こんにちは]


「やあ、リーノ。約束通りタコは捕獲したぞ。食べてみるか?」


[どうやったか興味あるところだが、君がやったのか?]


「い、ま、まあいいじゃないかそこは」


 よし、タコを調理だ。誰がやったかなんてこの際どうでもいいじゃないか。重要なのはタコを捕獲したことだ。タコは蛍光部分の吸盤は美味しくなさそうなので、吸盤を切り取りゲソを少し焼いて塩を振り掛ける。

 タコの成分調査はまだ実施中だから、マウス実験もしていないが、リーノの種族は過去に食べたそうなので気にせず出すことにした。


「食べてみてくれ。タコの塩焼きだ」


[おお、おお]


 リーノはフォークを握り締め、豪快にタコゲソに突き刺すと、大きな口を開けてかぶりついた。美味しそうな汁がタコからジュワッと出てくる。見た感じ美味しそうだなあ。食べれるとしても一週間後なのは残念だ。

 一口食べた後、猛然と食べ始めたのできっと気に入っているに違いない。湖の底にいる獲物だから、滅多にリーノたちでは食べれないはずだ。美味しいのなら尚更貴重だろう。

 リーノが食べている間、俺はティータイムにするか。小麦もできたので、クッキーとキノコジュースでお茶しよう。クッキーはバターが使えないのでパサパサしてるが、やっとできた小麦だから不味いとは思わない。

 懐かしい味が心に染みるぜ。まさかクッキーでそんな気分になるとは自分でも驚きだよ...


 などとクッキーで哀愁に浸っているとリーノは食べ終わったようで、食後の黄色キノコジュースを楽しんでいた。


[確かに、タコは頂かせてもらった。実に、実に美味だったぞ!]


「試験は合格でいいのか?俺たちの探索に協力してもらってもいいのかな?」


[ああ、お前たちといると今後も美味いものが食べれそうだ。協力させてもらおう。一つ提案がある]


 タコのことを思い出しニヤニヤした後、急に真剣な顔でリーノ。提案か。一体なんだろう。


[君はマナを使えるようになったらしいが、一向に上達していないな。だから、探検は私一人で行ったほうがいいと思うんだ]


 足でまといは来るなって言いたいのか!確かにそうだが、リーノ一人で危険があるかもしれない探索に行かすのは気が引ける。


「さすがに、危険なところへ一人で行かすのは気が引けるよ」


[安全なら、共に行ってもいいとは思うんだけどな。君がいると逆に、その、まあそういうことだ]


「シルフのサポートを付けるから大丈夫だって。危険生物がいないか事前に調べながら進むしさ」


[無理にとは言わないが、シルフ殿のサポートを私が受けれるのなら私単独のほうがよくないか?]


「それがな、シルフにサポート受けながらなら、会話する必要があるんだよ。残念ながら顔を合わせてないと会話できないだろ」


「それなんだけど島田。一つ試したいことがあるのよ」


 突然会話に参加したシルフのホログラムがテレパシー通信用の白銀の箱をペチペチと叩いている。


「私とテレパシーを繋げる時に、この箱にテレパシーを繋げるんでしょ。だったらさ、白銀箱に通信機能を付けて、白銀箱にテレパシーを送ってもらえれば、私と繋がっているから遠方からの通信ができるようにならないかな?」


 お、それはいけるかもしれない。なら、白銀箱をもう一つ作ってリーノに持たせてみるか。


「シルフ、なら通信可能な白銀箱を一つ作っておいてくれないか?」


「島田、すでに作ってあるわよ」


 と、天井から白銀箱が降ってきてリーノが座るテーブルに、コロンと転がった。リーノは転がった白銀を手で掴むと不思議そうにそれを眺める。


「リーノ、そいつを一回持って帰ってもらえないか?今晩、呼び鈴を鳴らすから、呼び鈴が鳴ったらその箱にテレパシーを繋げてみてくれないか?」


[了解した。試してみよう。離れたところから会話できるとしたら素晴らしいな!]


 これの素晴らしいところはそれだけじゃない。リーノと会話していてもルベールに盗聴される可能性が減ることだ。テレパシーの会話はルベール達は聞くことができるが、音声の会話は聞くことができない。

 もし聞くとしたらリーノの元へ行かなくてはならないのだけど、アズールの集落とリーノの集落がどれだけ離れているかだな。しかし現地人であるリーノとの会話内容をわざわざリーノのところまで行って盗聴するとは思えないんだよなあ。

 科学的な考察の話をリーノにしても理解できないと思ってるだろうし、事実だからな。

 ルベールが危険かもしれない現状、第二エネルギーについて聞きたいことがあればリーノに聞くということもできるわけだ。その場合、通信機で会話したほうが危険性は減るだろう。


 リーノが帰った後、蛍石がいくつか準備できていたので蛍石の実験をすることにしたんだ。その前にこの前のクワガタ金属についての成分結果を見てみようか。


「シルフ、この前のクワガタ金属の成分はどうだった?」


「特に変わったものはないわよ。白銀と少し違うけど地球にある金属と変わらないわ。あれはいわゆる真鍮よ」


 真鍮とは、銅と亜鉛の合金で日本の五円玉に使われているありふれた合金だ。ただの真鍮ではあるが、おそらく第二エネルギーを流すと変わるはずだ。

 俺はクワガタ金属の欠片に第二エネルギーを流し、シルフに鑑識をかけてもらう。


「驚いたわ。強度が鋼鉄以上まで上昇してるわよ。靱性も鋼鉄とは比べ物にならないくらいよくなってる。ありえないわ...マナ」


 第二エネルギーと真鍮の相性がいいんだろうきっと。白銀より第二エネルギーによる効果が大きいみたいだな。強度自体は白銀より真鍮のほうが強い。常識を打ち破りすぎだろほんと。


「変化は読み取れたか?」


「相変わらずダメね。科学的にはどれだけ細かく見ても観測できないわ。ナノ顕微鏡クラスで見ても不明よ」


 第二エネルギーはほんと計測できないな。次の蛍石実験で少しは分かるといいんだけど。


 次に蛍石の実験結果だが、一定の法則があるように思えてきた。まず、純度100の蛍石は第二エネルギーが通っても全く光らない。一番光るのが色に関わらず、ほんの一滴他の色を混ぜた蛍石だ。

 この蛍石は高輝度のLEDや車やサンゴの飼育に使われるHIDランプ並の輝度を出した。ほんの僅かな第二エネルギーでここまで光るとはすさまじい。逆に色を濃くしていけばいくほど、ぼんやりとした色になっていく。

 しかし透明度が一切なくなると、今度は逆に色が濃いほど強い色がでる。ただし、蛍石に付いた色と同じ色が光る。紫なら紫色。赤なら赤色といった風に。また、強い光といっても、輝度はそれほど高くない。

 色付きの光は最高でも、一滴混ぜた蛍石の半分程度の輝度しか出ていない。


「んー。一定の法則はあるように思えるな」


「そうね。色成分がないと光自体が出ないようね。透明な部分は光を増幅するのかな?」


「透明じゃないものとは分けて考えたほうが良さそうだな。発見は透明な部分は増幅するってところだ」


「光の強さを増幅するってことは、第二エネルギーを増幅してるってことなのかなあ」


「そう考えるのが妥当なんだけど、俺は第二エネルギーの量は分からないから、推測以上のことは分からないな」


「はやく計測できるようになりなさいよ!」


 いや、修行はしてるんだけど未だに体を巡らせるのでいっぱいいっぱいなんだよね。

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