第19話 真実2

 一気に情報が入ってきて頭が混乱しそうだ。ただルベールがくれた情報は全て正しいかどうかはわからない。少なくとも全部が全部嘘ということはないと思う。

 俺に協力的な理由がイマイチはっきりしないんだけどなあ。

 まず、頭を整理するためにもシルフにさきほどのルベールとの会話を伝える。


「というわけなんだ。情報が大量なうえ、胡散臭くて正直ちょっとなあ」


「第二エネルギーとか第三エネルギーとかよくわからないわね。とにかくホープには何か不思議な力が働いていて、ワープが失敗したと考えればいいのかしら。もしかしたら原因はルベールかもしれないけどね」


「そうだな。ルベールが俺らの船に起こった事故の全ての原因という線も捨てきれない。情報を精査し検討していこうか」


 第二エネルギーは、俺たちの知っている科学で観測できるエネルギーとルベールが言う第三エネルギーに干渉できる。第二エネルギー由来の物質として俺が知っているのは白銀だ。

 白銀は生き物が生きているうちは想定される金属重量より遥かに軽い。ただ、生物が死ぬと想定される重さに戻る。試しに俺が触れてみたところ重量は変わらなかった。白銀のインゴットを持ったアズールは軽々と運んでいたのできっと重量が軽くなっているものと想定される。

 アズールもおそらくリーノも白銀の重量を軽くできるんだ。蟻やエビでさえ、効果を発揮できるのに俺にはできないなんて、ひどい。

 第二エネルギーを使った他の用途はテレパシーだ。これはルベールの言葉を信じるのならば、同一種族であっても使える者と使えない者がいる。

 そして、ホープは極度に第二エネルギーの濃度が濃いので、何もせずに放置している状態だと、自然と第一、第三エネルギーに影響を及ぼすという。


「第二エネルギーだけど、テレパシーはシルフには繋がらないんだよな。そんで、ルベールの言うことを信じるなら、第二エネルギーの壁とやらも人体には影響があったけど、機械には一切影響はなかった。ワープは虚数空間というエネルギーの筒を作って通過するものだから、壁にぶちあたって消えたのか?」


「言ってることが正しいとしたら、第二エネルギーは炭素生命体にしか干渉ができないんじゃないかな」


「炭素生命体って、俺の想像する生物全てか。炭素以外の生命体っているのかな?」


「現時点では発見されていないわ。ルベールの精神体?ってのが炭素生命体とは言えないわよね。この点は第三エネルギーの考察のときに追求してみましょう。ともかく有力な説としては、第二エネルギーは生命体または、純粋なエネルギーに影響を与えることができるのかな」


「そうだな。ワープの際につくる虚数空間は純粋なエネルギーのトンネルだ。ただ、電気とか無線とか俺たち使えてるよな。それはどうなんだろうな」


「使えてるものは事実としてあるんだから、エネルギーの総量なのかな。そういう意味では宇宙船の動力炉も影響を受けてないわよ」


 んー、第一エネルギーへの影響は相当量の純粋なエネルギーじゃないと影響を与えれないのか。よくわからない。


「ああ、こう考えたらどう?ワープ技術は第二エネルギーを知らず知らずのうちに使っている。だって、物理法則では光の速さは超えれないけど、ワープ技術はそこを突破するんだからね」


「発想の転換だな。しかし第二エネルギーは観測できないんだよな。ああ、そうか」


 虚数空間ってのがそもそも変なんだ。虚数ってのは現実にある数字ではない。なぜそうなったのかわからないけど、虚数空間を作り出す技術が発見された。架空の数字である虚数が。

 そんな不思議な空間は、観測不能の第二エネルギーが関わってるかもってことか。たしかにそう考えるとしっくり来る。


「つまり、第二エネルギーは第一エネルギーのうち、生命体には影響を及ぼせるが、生命体以外のものには純エネルギー(電気など)を含め、影響を及ぼさないってことか」


「そう。そのほうが辻褄は合うわ。だから私は一切第二エネルギーの影響を受けない。もちろん宇宙船の動力炉もね」


「第二エネルギーについてはそういう解釈でいこうか。観測できれば俺でも第二エネルギーは使えるのかなあ」


「第二エネルギーの使い方がわからないのでなんとも言えないんだけど、エビや蟻でも利用できるエネルギーでしょ。なら体に第二エネルギーがあれば無意識に使えるものもあるんじゃないかな?白銀とか」


「第二エネルギーは第一エネルギーと同じく広範囲にきっと使えるだろうから、第二エネルギーの出力・変換の仕方によってできることが変わるのかな。ただ俺たちから見ると、不思議パワーにしか見えないけど」


「そうね。なんとかして観測できないことには何とも言えないわね。ただ機械に一切影響を及ぼさない変わりに、機械での観測は不可能と思うわよ。ルベールも言ってたわよね。科学的に観測できるエネルギーが第一エネルギーだって」


「つまり、機械を使った科学的な観測では観測できないのか。んー、俺のシックスセンスでなんとかならんかな?」


「そのシックスセンスとやらは、どうやって使うのかしら?」


 冗談なのに、突っ込まないでー。第二エネルギーが干渉して機器が壊れることはないことがわかっただけでもよしとするか。


「ところでシルフ。第二エネルギーより何かわかりやすい言葉にできないかな?」


「不思議パワー?」


ネーミングセンスねえなおい!あ、こういうのはどうだ。生き物にのみ干渉する力、科学じゃ観測できない力ということで、


「マナってのはどうだ?」


「ファンタジーな名前ね。あんたの頭と同じだわ」


 いや、もう第二エネルギーでいいよ...第二エネルギーが俺でも使う方法があるかルベールに聞いてみよう。


「第三エネルギーだけど、第二エネルギーよりさらに想像がつかないんだよな」


 幽体離脱?のエネルギーなのか、ここまで来るともはや想像もつかない。


「聞いた限りだと、幽体とか幽体離脱のイメージに近いわね。精神体だったっけ」


「聞いた限りだと、肉体から精神だけを切り離して、精神体として動くそうだけど、ルベールの姿が見えなかったように俺には認識できない」


 そう、精神体であるルベールは俺の目では視認できなかった。第二エネルギーを使いこなすアズールなら見ることができるのかもしれないけど。第二エネルギーは第三に干渉できるってことだから。


「第三エネルギーについては、想像の域を超えてるから、現状認識をしておけばいいんじゃない?」


 ルベールは現在第二エネルギーの壁に阻まれて、ホープから出ることができない。第二エネルギーの壁がない場合、どれくらいの速度で移動できるのか、とか宇宙空間でも平気なのか、とかは不明。

 おそらく、精神体というものを想像するに、あらゆる物理法則を受け付けず、どのような環境であっても影響を受けない。第二エネルギーの壁がない場合、どこまで移動できるのか、とかは聞いといたほうがいいな。


「ルベールが言うには、第三エネルギーもホープには存在するそうだけど、量があまりないみたいだ」


「自己維持がせいぜいってところなのかしら。精神体とやらは、第三エネルギーが食事みたいなものと想像しておけばいいのかしら」


「想像でしか話ができないのが辛いところだけど、アズールと一緒に居ない限りエネルギーを消耗するらしい」


「そこまでエネルギー不足なら、ひょっとしたら第二エネルギーの壁が無くても動けないかもしれないわね」


「壁がなければ、補給を受けれるかもしれないけどな。想像に想像を重ねても仕方ない。現状ルベールはエネルギー不足であまり活動できないことと、俺たちに敵対的ではおそらく無いってことだけでいいか」


「そうね。ルベールともう少し話すれば島田が帰還できる方法がわかるかもしれないわね」


「んー望みは薄そうだけどなあ」


 この時、俺はまだ別の危機の可能性を考えていなかった。気がついた時に顔が真っ青になるのだが...

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