外伝4 ルベール砲

 俺たちは、蛍石によって宇宙ステーション「イエール」と通信を行うことができた。蛍石による第二エネルギーの収束、発射の技術は俺たちに新しい可能性を示唆している。

 それは、第二エネルギーの有効利用だ。俺は研究者ではないので、第二エネルギーの画期的な使い方を模索することは難しいが、シルフと話をすることで何か使えることはないかと考えている。


「シルフ、可能性の話だがルベールを第二エネルギーで覆うだろ、なら壁は通過できるよな?」


「そもそも、第三エネルギーのルベールが第二エネルギーの壁に引っかかるかも不明だけどね」


 確かにそうだ。山脈の麓の通用口らしき洞窟の入り口には第二エネルギーの壁があった。あれはカルデラを第二エネルギーの壁で覆うために仕方なかったことだろうけど。


「いや、待てよ。シルフ!俺はすごい発見をしたかもしれない」


 ルベールはエネルギー体だ。どれだけの容量があるか不明だけど、細く長く変形したり、形は自由自在なはず。


「シルフ。ルベールはエネルギー体だよな。なら超高速通信に乗せれるんじゃないか?」


「なるほど。確かに可能かもしれないわね」


 シルフも可能性を模索しているようだ。俺の考えではこうだ。

 超高速通信は、膨大なエネルギーを一点集中して空間に穴を開け、そこに電波を通す技術だ。

 電波の内側に念のため第二エネルギーの壁を作り、その内側にルベールを入れる。

 あとは超高速通信を発射すると共に、第二エネルギーとルベールを打ち出せば、ルベールも移動できるんじゃないか?


「島田。変なこと考えるわね。今計算してみたけど、ルベールが電波のように変化できるなら、第二エネルギーの射出計算も含めて可能よ」


「おお!ならさっそくアズールに連絡だ!」



[なるほど、お話は分かりました。第一エネルギーで空間を歪ませるとは驚きです]


「予想だけど、ワープ技術は第二エネルギーを無意識的に使ってると思う。でなきゃ、ワープなんておかしなことが出来ないと思うんだよ」


 ともかく、ルベールは可能と言うので試してみたい。


「再度確認になるけど、ルベールの生命を脅かすことはないよな?」


[はい。万が一にもないです]


「なら、一度やってみよう。目標地は地球だ!日本の航空宇宙局に繋ぐぞ。定時連絡もあるし。そこでこっそり地球に進入してみてくれ」


[やってみましょう]


「電波から離れないようにしてくれよ」



 そして俺は日本と通信を行う。


「ハロー。こちら宇宙船ポチョムキン」


「こちら日本航空宇宙局。どうぞ」


 通信がはじまると、ルベールの姿はもとより目視することはできないが、地球まで無事行けたのかルベールからの会話を待つ。


[島田さん、成功です。現在通信先の日本航空宇宙局?にいます]


 よし!成功だ。通信中は日本航空宇宙局に会話を聞かれないようシルフと意思疎通していてもらおう。通信後に状況を聞けばいい。



「シルフ、ルベール。状況を教えてくれ」


 日本との通信完了後、俺はシルフとルベールにどのような動きがあったのか教えてもらうことにした。


「島田。今回の通信中、ルベールはここと地球を何度も行ったり来たりしたわ。全く問題なかったわね」


 ほうほう。それは素晴らしい。


[島田さん、地球には第二エネルギーはほとんどありません。ただ、第三エネルギーは溢れて漏れ出しそうなほどの量がありましたよ]


「たしか、第三エネルギーは知的生命体の活動?で増えるんだったか」


[はい。知的生命体が亡くなると同時に第三エネルギーが発生します]


「溢れてるなら第三エネルギーを取ってもよいものなのかな?」


[現状、溢れた分は宇宙空間に放出されていますし、いただいても問題ないと思いますが]


「なら取っちまおう!ルベールのエネルギー問題は改善するだろう」


「さすが島田!やることがえげつない」


 シルフの突っ込みが入るが、俺は聞こえない振りをする。だって、溢れて宇宙空間に放出されているくらいなら、溢れる分をもらっても構わないじゃないか。


「あと一つ気になっていることがあるんだ。第二エネルギーは惑星のコアから大量に生産されるんだよな。量の違いはなんで起こるんだ?」


[統計を取ったわけではありませんので、一般論でしかお話できませんが、我々炭素生命体に取って生存が難しければ難しいほど第二エネルギーの豊富な星は多かったです]


 炭素生命体って言い方はあれだが、ようは地球の生命体のような生き物のことだ。生存が難しければ難しいほど放出されるのなら、地球に第二エネルギーがほとんどないのも頷ける。


「つまり、ホープはそのままだと炭素生命体が生存できないほど過酷な環境だったから第二エネルギーが豊富なのかな?」


[私はそう予想しています]


「ルベール。俺は第二エネルギーの豊富な惑星をいっぱい知っているぞ。ホープや地球に重力も近い惑星も」


[私にとって重力はさほど問題ではありませんが、島田さんには重要な要素でしたね]


「ああ、せっかくだから俺も住める可能性を残したいしなあ。候補はあるし、そこに人類もいる」


 そう、地球からも近い惑星だ。現在テラフォーミングを行おうと鋭意努力中の惑星だ。重力は地球とほぼ同じだが、灼熱の惑星。


「その星は金星という。そこに知り合いがいるんだ。一度話をしてみよう」


 彼は元気だろうか。俺は会社を辞め、ホープ探査プロジェクトに応募したから残された彼らの仕事が無事進んでいいるのかも気になる。


「シルフ、金星のある宇宙船に繋げるか?コードは......」


「りょーかい」


 こうして、金星に向けてルベールを乗せた超光速通信は発射されたのであった。

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