外伝3 誠二編

 ホープからの通信が兄の健二からなされるまでの間、誠二は気が気でなかった。兄が無事だと分かるまでの数ヶ月間、彼は必死に関係各所に訴えかけ自ら宇宙船へと乗り込む予定だったのだ。

 健二からの通信が入るまで、いろいろなことがあったなあと誠二は回想していた。


――数ヶ月前

 ホープ有人探査は、地球の未来をかけた一大プロジェクトで、アメリカ、ロシア、日本、ドイツ、イギリスの5カ国共同ので行われたため、船員も該当国家出身の者を選出していた。

 そのため、本プロジェクトは5カ国共同で製作した宇宙ステーション「イエール」にて計画から実施まで行われている。

 火星と木星間にある宇宙ステーション「イェール」は、人類が持つ宇宙ステーションのうち最大のものであるが、五カ国の出身者以外の国の者が訪問するにはパスポートが必要となる。

 さらにイエールは厳重なセキュリティ管理がなされており、五カ国それぞれのスペースと共同スペースを持つ。イエール訪問の際にはそれぞれの国の窓口へ宇宙船を接続し入国が必要となるほどの厳重さだ。


 「イエール」は単独で人類10000人を支えることができる膨大な内部プラントを所持し、さらに食料や必須元素などを輸入するのならばその三倍の人口収容力を持つ。

 他にも多数宇宙ステーションはあるが、どれも単独となると3000人規模以上収容可能な宇宙ステーションは無く、イエールの巨大さは群を抜いている。


 ホープ有人探査プロジェクトは五カ国で実施したものであり、宇宙ステーション「イエール」が中心となってプロジェクトは進行した。そのため、まず誠二が訪れたのは「イエール」だった。

 誠二も兄の健二も日本出身であったので、誠二はまず日本居住棟に向かい、関係者とアポイントメントを取ろうとしたがこれがなかなか難航した。


 次に誠二が取った手段は、日本人の船員は健二の他に六名いたので、彼らの遺族と接触を図ることだった。

 いくら日本人といえども、地球だけに留まっているわけではなく、日本の宇宙ステーションに住む者も中にはいたので全員と接触することは骨だったが、兄への思いが誠二を突き動かしたった三日で遺族全員の同意を得ることができた。


 同意の内容は単純で「ホープへ救助船を出して欲しい」という陳情だ。


 再度イエールの日本居住棟へ誠二は向かい、関係者へ連絡を入れる。流石に、日本人船員遺族全員からの嘆願となると、関係者も誠二に合わざるを得ず、誠二はようやく「ホープ有人探査プロジェクト」の日本チームの責任者と接触することができたのだった。

 日本チームの責任者は、誠二の陳情を聞き入れ(多分にマスコミが誠二へ同情的な報道をしていたためではあるが)、プロジェクトの最高責任者である、アメリカ航空宇宙局ロバート・ヘックマンへ日本の陳情を持っていった。

 結果は日本チームの予想通り、ロバート・ヘックマンからのノーの返答だった。また、「ホープ探査プロジェクト」失敗をはやし立てたマスコミは、今回の誠二が行った陳情を日本チームが受け入れ、誠実に対応したことにより賞賛の声をあげる。このことも日本チームの予定通りであったのだ。


 しかし誠二はめげなかった。今度はアメリカ、イギリス、ロシア、ドイツのそれぞれの遺族会と連絡を取り、五カ国共同でロバート・ヘックマンへ陳情を持っていったのだ。

 さすがにこれにはロバート・ヘックマンも一応の理解を示さねばならず、検討するとだけ回答した。

 しかしながら、今回の失敗を受け「ホープ有人探査プロジェクト」チームは予算を大幅に削減されており、新たにワープ技術を装備した宇宙船を生産することは非常に困難であったのだ。


 検討はするものの、予算不足でどうにもならないとロバート・ヘックマンが回答するも、誠二をはじめとした遺族は諦めなかった。

 遺族の中には星間企業と呼ばれる大企業で働くものも多数おり、彼ら遺族は自らの会社を始め、民間から寄付を募ることにした。予算は順調に集まり、宇宙船の建造を開始できると思ったところ、国家間の利害に巻き込まれてしまう。

 寄付をした一部企業が、「有人探査船救出プロジェクト」に一枚噛ませろと意見してきたのだ。アメリカとの連合国家であるカナダやイギリスとの連合国家であるオーストラリアは別にして、イタリアやフランスの横槍には辟易する。

 このままでは、埓があかないと判断した遺族側は、それらの国からの資金を彼らに返却し、新たに寄付を募り、ようやく宇宙船の建造に入る事ができたのだった。


 しかしながら、建造開始から検査、稼働実験など、様々な工程を突破しホープへワープできるまでには一年はかかると見積もられていた。

 はやる気持ちを抑えながら、毎日を過ごしていた誠二だったが、突然宇宙ステーション「イエール」へ、惑星ホープから通信が入ったとの言葉を聞き驚愕する。


 直接ロバート・ヘックマンから通信が入った時には何事かと思った誠二であったが、唯一自分の兄だけが生存してるらしいことを聞き、歓喜の咆哮を上げてしまった。

 気をきかせたロバート・ヘックマンから通信をかわってもらった直後、通信が切れる。

 翌日もかわってもらうと通信が切れる......


 なんて間が悪いのだ。とぼやく誠二に、ロバート・ヘックマンは通信が安定していないようですまないねと謝罪してくれた。

 さすがに最高権力者からの謝罪は恐縮するもので、誠二は自分の不幸を嘆くしかなかったのだった。

 ロバート・ヘックマンがくれた情報によると、惑星ホープは特殊な磁場があり、ワープで惑星に近寄ると事故の発生確率が極めて高いとのことだ。今回、兄が生存したのは奇跡だとも言っていた。




 後で誠二が何を行っていたのかをロバート・ヘックマンから聞かされた兄の健二は、やはり通信しなくて良かったと安堵していたという。

 「あんな暑苦しいのと会話したくない」と呟く健二に、シルフが話すと「帰りたくなっちゃうからでしょ」と突っ込みを入れると、彼はバツが悪そうに頭をかいたという。


「いや、ほんとに暑苦しいから嫌なんだってば!」


「全く素直じゃないわね。和田と通信するくせに誠二とはやらないんだから。強情もここまで来ると感心するわ」


 誠二が健二と話ができる日はいつになることやら......

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