第34話 ハローこちらポチョムキン
翌日昼、蛍石集光レンズが完成したとのことなのでさっそくフィンエアーに乗り込み、実験を行ってみることにする。生き物ならなんでもよかったんだけど、地球産のほうれん草を実験材料にすることにした。
透明に一滴たらした正方形の蛍石を組み合わせ、先端部には集光レンズがハマっている。見た目は少し大きなライフル銃のようだ。ライフル銃と違って引き金はなく、銃身のみの構造になっている。
持ち手を掴み、ほうれん草に向けて構えた後、第二エネルギーを持ち手から流し込む。とたんに、ほうれん草に小さな穴が開く。見事成功だ!
「シルフ、上手くいったようだな」
嬉々としてシルフに伝える俺。シルフのホログラムも万歳のポーズだ。
次の実験は、金属製の箱の中にほうれん草を入れ、第二エネルギーを掃射するライフル銃を構え、箱に向けて発射する。音も無く発射される銃だが、光は見えるのできちんと発射されていることは確認でき、箱を開けてみるとほうれん草に小さな穴があいていたことが確認できた。
光は箱を透過しないが、第二エネルギーは箱を透過するという実験結果が出た。これは恐ろしい兵器になりそうだ。どれだけ高性能のケプラースーツに身を包んでも、第二エネルギーの壁はそれを透過し、生命体のみを消失させる。
第二エネルギーを減衰させる条件がまだ不明なので距離なのか生命体を消せば減衰するのかは今後研究の価値はあるなあ。
地球にこの銃を持って帰ると、新しい火種の元となりそうなので、もし帰還できそうなら捨てていくに限るな。
「なら次は通信できるか、フィンエアーに乗り込みましょうか」
「了解」
フィンエアーに乗り込み、大気圏ギリギリまで上昇する。第二エネルギーが距離によって減衰するかは謎だが、光と同じ性質なら空気に阻まれ減衰するかもしれない。 超光速通信を起動し、電波とライフル銃の斜線を合わせる。電波もライフル銃も斜線が線に等しいため、少しでもずれるとアウトだ。
「第二エネルギーを銃に流し込むぞ」
「りょうかい。超光速通信開始」
繋がれ!
「こちら宇宙船ポチョムキン、宇宙ステーション「イエール」応答せよ」
繋がれ!
「こちら宇宙船ポチョムキン、宇宙ステーション「イエール」応答せよ」
繋がれ!イエールへ。
「こちらイエール。貴船はポチョムキンで間違いないか?」
繋がった!やったぞ。ついに超光速通信を宇宙ステーションイエールと繋げることができた。
「宇宙船ポチョムキンで間違いない。私は船員の島田健二です」
シルフと二人で歓声を上げ、ついについに宇宙ステーションと通信できたことを喜び合った。
「こちらイエール。ポチョムキンの船員に島田健二の名前を確認。貴船は行方不明となっている。状況を伝えよ」
気を使って行方不明扱いになっているのか?消失して三ヶ月だから、そろそろ行方不明から、言いたくない扱いに変わりそうだな...
「現状を報告します。宇宙船ポチョムキンは島田一人を残し、行方不明。船員の安否は絶望的です。また、ポチョムキンはホープにて活動を行っております」
「こちらイエール。私はロバート・ヘックマンだ。島田君、君の勇気にまずは賞賛を送りたい」
ロバート・ヘックマン!ホープ探査プロジェクトの責任者兼アメリカ航空宇宙局の局長だ。とんだお偉いさんが通信してきた。言語は英語で会話されているが、シルフが日本語に翻訳しながら通信している。
いや、俺だって一応ホープ探査プロジェクトに選出されたメンバーなわけで英語が分からないわけではない。
しかし、どれだけ通信可能かもわからず、一発勝負になる可能性も高いので理解がはやい母国語に変換してもらっているのだ。
「ヘックマンさん、どれだけ通信できるか不明ですので、最初にこちらの要望を聞いていただけますか?」
「了解した」
「ホープへ有人探査機を送らないでください。原因不明ですが、船員が消失する可能性があります」
「君以外の船員がそうなったのかね?」
「話がはやくて助かります。その通りです。私が他の船員をどうこうした可能性もあなた方は疑うでしょう。しかし、船員の消失は事実です。なぜ私だけが生き残ったのかは依然不明です」
「君の話はにわかに信じられないな。君が他の船員を殺害したという話のほうが現実的ではあるが、君も知ってのとおりワープの動物実験は成功している。今回突然船員が消失したというのは突飛もない話だとは思わないかね?」
確かにそうだ。おそらくだが、動物実験時のワープアウト場所はホープから遠かったんだ。正確にはホープ磁気圏から遠かった。
太陽との位置関係で第二エネルギーの壁も移動するとルベールから聞いている。今回俺が生き残ったのは、たまたま以外言い様がない。俺のいた位置が第二エネルギーの壁がなかっただけに過ぎない。
「無人探査機なり、なんなり飛ばしてくれても構いません。ただ、人命が損なわれる可能性が高いことが予想されますので、どうか有人探査はご配慮いただきたいです」
「検討しよう。ポチョムキンが消失してからもう三ヶ月になる。その間君はホープに着陸し、単独でこれまで命を繋いできたのかね?」
「はい。メインコンピュータシルフのおかげではありますが、これまで自給自足でなんとか生き延びてまいりました」
「島田君。君の勇気に再度賛辞を送ろう。未知の惑星で三ヶ月。それも単独で生存するとは君は英雄だ」
ぼっちが褒められたー!例えぼっちであろうとも、俺は生き残ってみせる。少しの哀愁と孤独感はあるが、そんなもので俺を止めることはできないんだ。ディスプレイにシルフからメッセージが書かれている、
「ぼっちが褒められた。ねえ、どんな気持ち?どんな気持ち?」と。
ムキー!ヘックマン氏と会話してるから、シルフに難癖を今つけることはできない。
「ホープ着陸後、何度も超光速通信を試しましたが、原因不明の通信エラーのため、イエールと通信することができませんでした。ようやく今通信ができましたが、いつまで出来るのか不明です」
第二エネルギーの壁の話はルベールから聞いているが、本当か嘘か分からない話で、壁があるだろうと推測はしているが確定ではない。
しかし、今回通信できたことで、第二エネルギーの壁という説は有力だと思う。
「原因不明の要因によって、超光速通信が機能せず、船員は君を残して消失。地球へのワープはできそうかね?」
「いえ、もう気がつかれていらっしゃるとは思いますが、原因不明の要因によってワープが使えません。原因不明の要因をなんとかして回避し、戻る手段を模索しております」
「了解した。まず無人探査機をホープへ送ろう。君の言葉を信じるなら無人探査機も通信途絶するということだね?」
「はい。超光速通信は使用できなくなると予想されます」
「わかった。無人探査機をそちらに送ろう。ことの真偽も多少は判明するだろう。無人探査機はシルフで操作できるようにネットワークを構築しておく」
「ありがとうございます。無人探査機の到着をお待ちしております」
「了解した。島田君。君の家族...」
家族と聞こえた時点で、第二エネルギーを銃に流すのを辞めた。当たり前だが、通信が切れた。もし弟に繋がれたら話が長くなりそうだからね。決して話をしたくないわけじゃあないんだ。
通信がどれだけ安定してできるのかも分からないし、フィンエアーに乗ったままだと斜線制御が難しい。地上からの通信なら安定して電波を飛ばせると思うので、地上からも試してみるか。
地球との位置関係で壁がなくても通信できない時間帯はあるが、そこはシルフに任せておけば問題ない。
ともあれ、地球との通信が出来たので人命が失われう危機は去ったに違いない。俺の話をどこまで信じてくれるかによるが、無人探査機の状態を見て分かってくれればいいな。
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