第7話 きのこじゅーすはお好きですか?
「先にアズールへ、俺からのお土産を見せておくよ」
俺は、長さ20センチほどの白銀のインゴットを取り出し、アズールへ見せた。これは、白銀と呼んでいるが、地球の白銀と全く違い不思議な合金のことだ。
[ありがとうございます!私が一回で持って帰るより多いです。二回分くらいあるかも]
謎の羽音で喜びを表現するアズール。
「また取っておくから、白銀を集める時間でここへ遊びに来てくれないか?」
アズールのお仕事状況とか分からないし、多忙な中、白銀を取りに来ているのかもしれない。収集時間を歓談時間に使うなら大丈夫かと思った次第だ。
[あまり甘えるわけにはいかないのですが、そうしてもらえるのでしたら、お話する時間が取れます]
「いろいろ聞きたいことはあるんだけど、まずは...アズール、あんたはどんなものを飲むんだい?」
[普段は水を飲んでます。水に溶けるキノコを混ぜたキノコジュースとか、ある種のシダの実を潰したジュースとかですね」
キノコジュース...不味そうなんだけど。今更だけど、物の名前が俺の知ってる単語に変換されているな。テレパシーは言語を翻訳するものではなく、意識を直接伝えるものだから、アズールのイメージが俺の持つイメージに近いものに変換されてるのだろう。逆もまた然り。
集落を見る限り、主な植物はシダ類か細菌類のキノコ類が主に見えた。食性もそれに近いのかな。カマキリムシって草食だし。
「甘いジュースとかはないのかな?」
[甘いジュースですか、キノコジュースで甘いものはありますよ]
またキノコか!果実系もありそうなんだけどなあ。裸子植物らしきものもあった気がするけど。ああ、裸子植物って果実は実らないか。種で食べれるようなものはありそうだけど、ジュースにはならないか。
せっかくの来客に出せるものがないのは残念だけど今は仕方ない。
「ん、下手なもの食べて消化出来なかったりしたら困るしなあ。今日は水で我慢してくれ」
と、シルフに頼み水を持ってきてもらった。
アズールは不思議そうに、クリスタルカーボン製のグラスを眺めた後、グラスに触れてビックリした様子。
[島田さん、これすごく冷たいです!]
「冷たいのはダメかな?」
[飲んだことありませんが、不思議な感じですね]
冷水に口をつけ、少しだけ口に含むアズール。ドキマギしながらもさらに口を付けてくれている。
「今度来るときは、何か食べ物か飲み物を持ってきてくれないかな。お礼は白銀でよければ、今度そのサイズの白銀を4本準備しておくよ」
[4本頂けるのでしたら、ぜひ。次来るときには持ってきますね]
この後少しの間歓談した後、アズールは帰っていった。今回わかったことは、アズール用のドームは問題なく呼吸可能であったこと。次回アズールが食べ物を持って来てくれれば成分調査を行い、アズールが食べれるかもしれない地球産の植物を見繕ったり、逆に俺が食べれるかもしれないホープ産の食べ物が見つかるかもしれない。
せっかく、未知の惑星に来たことだし、食は試してみたいなー。次回が楽しみだ。
「シルフ、会話の内容はだいたい伝えたが、どう思う?」
「ちょっと無警戒すぎて逆に疑っちゃうわね。悪意ある者に今まで触れたことがないみたい」
「んー。実際のところ、性質的にそういう者がいないのかもしれないなあ。集落を見る限り、生活していくだけでギリギリな雰囲気だものなあ。洞窟の中にある空間だけで生活していく上に、そこまで科学技術も発展しているようには見えないしね」
「全員が協力しないと生きていけない環境なのかもねえ」
「とりあえず、次回用も含め白銀のインゴットはそれなりに作っておくか」
「りょーかい」
「ところでシルフ...ひよこちゃんはどうなってる?」
「鶏はまだまだだねー」
今の俺の楽しみは、アズールとの会話もそうだけど、家畜ドームで生まれたひよこちゃんの成長を見守るのも楽しみの一つとなっている。早く大きくなって卵産んでね!
この鶏は品種改良されており、食べるなら30日前後で食肉に回せ、卵も同じく生後30日前後で産むことができる。おそらくあと20日ほどで卵を産むようになってくれるはずだ。
10匹ほど飼育しているので、何羽かは潰して食べよう...ああ待ちどうしい!
スペースはどれだけでも拡大できるし、飼育数も50匹くらいまでなら問題ないが、鶏を飼育するにも餌が必要だ。餌となる粟・稗・ひまわりの種などは絶賛育成中だ。
植物ドームは現在2棟あるけど、どんどん拡大予定で、あと3ヶ月もすれば、豊富な植物が食べれるようになるだろう。米も食べれる!
モヤシなど生育の早いものはすでに収穫に入っていて食べることができる。はやく葉物野菜と合成食料のループから脱出したいなあ。実は木もいくつか植えてはいるけど、木は生育までに数年かかるのでこれが成長するまでここに居ることを想像したくはない...何年ぼっちしろと。
「島田。生活環境は落ち着いてきたから、周辺調査に力をいれない?」
「んだなー。このカルデラの周辺20キロほどと、湖の調査をしたいなあ」
「湖はアリの巣のように入り組んでると想定されるけど、アズールのような知的生命体までいたから、他にもいろんな生物がいそうだね」
「アズール以外にも知的生命体がいるかもしれないし、まだ見てないけど危険な生物がいるかもしれない」
アズールは友好的な種族だったが、獰猛な猛獣が湖地下に潜んでいるかもしれない。湖も相当広いのでサメなどの危険な生物がいるかもしれない。陸まで上がってくることはないだろうが調査しておくに越したことはない。
地上は未だ動く生き物を見ていないが、陸上適用している生物がいないわけではない。現にアズールたちは陸棲だしな。
こうして周辺調査に力を入れることになった俺たちだったが、4日目に地下洞窟内にとんでもない生物を発見する。ドーベルマンほどの大きさをした白銀色をした蟻...アズールたちの住む集落とは直接洞窟が繋がってはいない。
アズールの集落から巨大蟻がいた洞窟まで行こうと思えば、一旦湖まで出てから巨大蟻の洞窟へ行く必要がある。また、蟻の生息地はアズールたちの集落より300メートル以上深い位置にある。
まあたぶん接触することはないだろうが、ホープで初めて発見した危険生物だ。
そして、7日目には地上で生物を発見する。といっても地衣類だろう見た目の生物で見た目はコケに近い。地上は気温60度という高温の世界ではあるが、こういった細菌類は環境適応力が高いので生存していたものと思われる。
地衣類かどうかは分からないけど、地衣類と同じような性質を持つならば、れっきとした光合成ができる生物になる。こうした生物が増えて行くことで、いずれ地上も酸素が増えていくかもしれない。
しかし、まだまだ未発見の生物は多数いそうだ...探索すればするほど出てきそう。
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