第8話 蟻だーー

 蟻だー/蟻だー/


 冗談はさておき、湖に蟻が打ち上げられていた。白銀は生物が死ぬと本来の重量に戻るので、白銀装甲の蟻も例外ではなく、死ぬととても重たくなる。

蟻はまだ食い荒らされておらず、検査のためにドームへ持ち帰ることにした。

 しかし、ドーベルマンサイズの蟻の死骸ともなると重量もそうとうあるな、こちらには削岩機で掘った岩を運べるローパーもあるから重さは問題でないけど。

蟻はシルフに生態調査してもらうとして、湖に蟻が打ち上げられていたことは今後問題だ。


 蟻が陸上でも活動できるなら、俺の居住区にとって脅威となり、自由に水中移動できるならアズールたちの集落に押しかけるかもしれない。たまたま迷い込んだ蟻が泳ぐことが出来ずに死骸となっただけならいいんだが。


 蟻、蟻ねえ...

 蟻が重量化、巨大化した場合、地球基準で考えると小さな蟻より生存競争に不利になる気がするんだが。

 蟻は気門と言われる体に開いた穴から呼吸する。人間などの大型生物と違って自発呼吸をするわけではないので大型化した場合、他に比べ呼吸が不利になる。

 洞窟環境を考慮すると、洞窟内は水で満たされたところが多々あるので、広範囲に移動するなら水中を泳ぐことが必要だ。蟻は気門から呼吸するわけだから、水中に浸かると呼吸できない。短時間なら死ぬ前に水中を抜けることができるかもしれないけど...

 地球上の蟻の場合、水に浮くので水中に沈まないまま水から逃げ切ることも可能だ。まあ、それくらい出来ないと雨降ったら終わりだからね。

 この巨大蟻は巨大化してるので、餌がそれなりに必要だろう。昆虫類はエネルギー効率がいいので、同じサイズの犬に比べると二十分の一以下の食事量でも充分生存できるだろうけど、それでもサイズが大きい分、餌はそれなりにいるはず。

 巨大蟻が地球の蟻と違って一度に少数の子供しか産まないのであれば、大幅に軽減されるが、それでも餌を捕るために広い範囲を巡回する必要があるわけだ。

 そうなると、水中移動出来ないのは非常に不利にならないか?

 蟻の生息地域が広範囲で水のない洞窟なのかもしれないけど。

 しかし、有利な点もある。消費するエネルギー量からするとハイパフォーマンスを誇る戦闘能力だ。巨大な顎と毒針は脅威と言える。この巨大蟻が毒針を持っているかは分からないが、地球の蟻はハチ科なだけに、毒針を持った種が多数派だ。

考えても仕方ない。シルフの検査結果を待とう。


 今日でちょうど、アズールが前回来て以来7日が経つ。一度目と二度目の訪問はちょうど7日だったので、そろそろアズールが来てもいい頃だ。

 今後の対策を含め情報を得たいところだ。もっとも一番の楽しみは食材だけどね!


 と考えごとをしているとアズールが訪ねて来たようだ。


[こんにちは]


 アズール用のドームに案内した俺は、冷水を出した後、巨大蟻について聞いてみることにする。


[蟻ですか?赤の一族のペットでしょうか]


 また謎の一族が。蟻はペットだったのか。まさかあれに騎乗は出来まい。アズールたちは俺たちに比べ小さいとはいえ、人間の10歳児程度の大きさはある。荷物運び用かな。


「赤の一族?ってアズールたちのこと?」


[いえ、私たちは青空の民と呼ばれています]


 ってことは、全くの別種族かもしれない。


「赤の一族って、アズールたちと見た目が違うのかな?」


[はい。赤の一族は大きな尻尾が特徴です]


 新展開!ホープは知的生命体が多種族か。地球は文明を持つ種族が人間だけだから多種族だと絶え間ない戦争になったりするのだろうか。人間は同種同士でもずっと戦争してるしなあ。


[私たちと赤の一族は基本不干渉です。世界の危機にはお互い協力することになってますが]


 なるほど。生物として別物だから、何かのきっかけで、争いが起こるかもしれない。洞窟世界は環境が過酷なので、争っていてはお互いに環境に押し潰されるかもしれない。そのため、最も平和裡にことが進む不干渉。大きな天災があったりすると協力するってことか。技術力が今後上がっていくだろうから、いずれは向かい合うことになるだろうけど、地球からしたらビックリの平和主義だ。


「その赤の一族のペットが、湖に打ち上がってたから何事だと思ってさ」


[迷い込んで溺れたのでしょうか]


 あの蟻、泳げないのかー!ペットじゃないと生きてけないんじゃないか。


「お、溺れるんだ。まあ、ただの事故なら今後心配はないかな?」


[恐らくは]


「ありがとう。安心したよ」


 その後、俺はアズールから食べ物を見せてもらう。キノコやらシダやら、大きな種など、異星の植物は興味深い。

 これを解析すれば、アズールの食べれるものや、俺が食べれる異星のものが少しはわかってくるだろう。細菌やウィルス対策はどうしよう...シルフに実験マウスを育成させるか。


 ノンビリとした時間を過ごし、アズールは帰って行った。次の訪問はとんでもない事態になるのだが...


 アズールを見送った後、さっそく貰った食材を分析してみることにする。

 キノコは二種類あって、一つがジュースになるというあれだ。もう一つはなんか真っ赤で毒々しい。食用だよなこれ。

 キノコジュース用のキノコは、驚いたことに糖分が多分に含まれている。少し溶かしてみると、紅茶のような香りがするとのことだ。

 流石に未知の植物に直接触れるわけにはいかなあので、キノコジュースの香りもまだ楽しむことは出来ない。

 成分自体は有毒なものは入ってないとの結果が出た。ホープ由来のウィルスの毒性まで全て検査上は問題なさそうだけど、マウスに一度食べさせて様子を見てからだなー。

 真っ赤なキノコは、見た目とは裏腹にエリンギのような成分だった。こちらも毒性のある物質はなかった。

 種はバナナ一本を太くしたような見た目で、色も黄色。近い地球産のものはメロンと出た。

 これを見る限り、栄養価や消化吸収可能な食べ物は人間に近いかもしれない。多分アズールたちは草食だろうけど。


 次に巨大蟻。荷物運び用かと思いきや、食欲かもしれない。白銀の殻を取ると、まるでエビカニのようにプリプリの身が詰まっている。この身の成分はザリガニに近いようだ。蟻の食性は雑食。やはりこの大きな顎が脅威だなあ。幸い毒針は 退化していた。


 成分調査完了!今日はほうれん草とモヤシを収穫だー。大豆も取っておいたのでこれも食べれる。


 ようやく天然物の素材も幾つか食べれるようになってきたなー。

 ほうれん草とモヤシのバター醤油炒めに、豆類のサラダ、フライドポテト。

 調味料は地球から持ってきた分しかないけど、まだまだ在庫はある。

 醤油や酒は熟成開始しているけど、そうそう完成しないし、完成するまで居るのかここに...少し鬱だ。


 いやいや、せっかくの食事に暗くなってどうするんだ!来月には卵と鶏肉が食べれるぞー。牛も育成を一応開始したし、乳製品もいずれ。


 では、いただきまーす!


「島田!来客よ」


 え、ええー。しかしぼっちたるもの、貴重な来客を無駄にするわけにはいかない。


「シルフ、隔離ルームに俺のご飯運んでおいてー出迎える」


 アズールがこの前来てからまだ5日だけど、何かあったのか。

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