第9話 お食事はいかが?

[こんにちは]


 今日はアズールの他にもう一人。アズールより少しだけ背が高く、カマキリバイザーにタマムシスーツを着ている。

 俺の感覚では、どっちがどっちか区別つかない。


「アズールのお友達も歓迎するよ!いつものドームへ行こうか」


 背の高い方のタマムシは、カマキリバイザーを脱いでから、俺に挨拶をしてくれた。


[はじめまして、リーノという」


「はじめまして、俺は島田です」


 リーノは見るからにアズールと別の種族と分かる。蝋を塗ったような青紫の肌に、丸い目尻の下がった瞳、鮮やかな赤色の髪にところどころ、青紫の水玉模様が入る。 アズールと同じく触覚があり、赤地に青紫の水玉模様だ。

 水玉で想像するのは、ヒョウモンダコとかフリソデエビだけど、この青紫はフリソデエビかな。

 リーノもアズールと同じで、遠目に見ると人間の少女に見えなくはない。たぶん、彼女?がこの前アズールが言っていた「赤の一族」なのだろう。

 ということは、何らかの危機があったということか。


[あ、お食事中だったのですね。すいません]


 アズールはテーブルに置かれた俺の料理に目をやり、少し顔を伏せた。


「あー、すまない。俺だけ食べるのもあれだしなあ。何か出せるかな。あ、そうだ。口に合わなかったら急いで吐き出して欲しいんだけど、俺の国の飲み物を持ってくるよ。あとは巨大蟻ならあるけど」


[蟻はちょっと...]

[フォルミーカ...]


 対称的な二人の反応。アズールはそんなもの食えねーよと言う感じだが、リーノは食いついてきた。フォルミーカ...初めてテレパシーを通してわからない言葉かもしれない。

 きっと巨大蟻のことなんだろうけど、後でシルフに聞いてみよう。


「塩振って焼いたものでよいかな。アズールにはエリンギっていうキノコを塩で焼いてみる」


[緑色の植物でしょうか?島田さんが食べてるものは]


 ほうれん草のことかな、草食であろうアズールは緑色に興味深々のようだ。


「この前貰った食べ物を少しだけ調べたんだ。これはほうれん草っていうんだけど、緑色の葉っぱはアズールが食べれるかわかんないんだよな。もうちょっと調べたらご馳走するよ」


 ご馳走と言う言葉で、パーっと明るくなるアズール。


[島田さん、今日ここに来たのは...]


[待って欲しい。私から説明させてくれないだろうか]


 アズールを制して、リーノが口を開く。

 言葉はちゃんと伝わっているんだけど、音だけを聞くと、アズールは羽音だし、リーノに至っては何も聞こえない。人間の耳には聞こえない波長のようだ。

 アズールとリーノでも言葉は伝わらないだろあなあ。どちらも発声出来ると思わない。奇跡というか適応進化というか、テレパシーが無いと、コミュニケーション取れないよね。


[実はだな、恥ずかしい話だが、野良フォルミーカがいつの間にか大量発生していしまってね。申し訳ない]


 フォルミーカて巨大蟻のことだよな。


「いや、どんだけ数が増えても、あの巨大蟻じゃあここまで来れないよ」


 あの蟻は泳げないし、地上の熱にも耐えれないし、酸素濃度が低すぎる地上では呼吸も出来ない。


[万が一もあり得るので、ここまでアズールに連れてきてもらったのだよ]


「なるほど、わざわざありがとう。リーノ」


[叱責されてもいいところを、謝意で返してもらえるとは思わなかったよ。君はアズールから聞いていたとおり、誠実な人物らしい]


 シルフが聞いてたら、誠実じゃなくヘタレのぼっちなだけとか言われそうだけど、友好的に取ってもらえるならそのままでいい。

 今のところ、アズールもリーノも友好的であるからよいけど、ここを害せるとしたら、カマキリバイザーを持つ彼らだけだろうから。


[それでですね、島田さん。しばらく様子は見ますが、さらに蟻の数が増えたら駆除しないといけないかもしれません]


「なるほど。そういうことなら、場所だけでも教えておいてくれないか?湖が蟻で埋まるまではいかないだろうけど、大量に打ち上げられてたら気分的にね」


 正直、地下洞窟が全部蟻で埋まろうが俺は脅かされない。蟻の駆除に協力することはやっていいものか悩むところだ。

 異星人の俺が生態系を破壊して良いものか、その点に尽きる。

 今更なんだという話だけど、ホープの環境と考えるとなあ...


[わかりました。島田さん。後ほど案内しますね]


 あー、アズール達の手前、いつものラジコンじゃダメか。初の水中探査だ。まあ、いずれはやるつもりだったしちょうどいい。

 っとシルフから連絡だ。


「料理が出来たみたいだから、持ってくるよ。お口に合うといいんだけど」


 俺は、蟻の身の塩焼き、エリンギの塩焼き、砂糖入りの紅茶を二つ、アズールたちに持ってきた。この砂糖は先日のジュース用キノコの甘み成分を分析して化学合成したものだ。

 いちいちバイザー被るのが面倒だなあ。

 塩焼きにしたのは、塩は彼らが普段口にしているものと分かっていたからだ。他の調味料は受け付けるかわからない。味ではなく、体がね。


[ありがとうございます。まずこの飲み物を]


 紅茶を少し口につけ、ほぅーとアズールは息を吐く。


[キノコジュースに味はそっくりですが、香りが違いますね。不思議な味です]


 一応殺菌処理をしておいたから、多分大丈夫だ。

アズールは次に、フォークを手に取りエリンギを口にした。


[こっちは赤キノコにそっくりです。島田さんも私たちと似た食べ物を食べてるのですね]


 満足してもらえたようでよかった。リーノも豪快に蟻の身をフォークで突き刺しムシャムシャしてる。

 あの巨大蟻は家畜だったか。

 彼らが食べるのを見つつ、俺も食事を始める。すっかり冷めてしまったけど、ようやく食べ物を振る舞えたので少し満足だ。

 冷めてもやはり、天然物はよい。合成食料は美味しくないんだー。食こそ人間の基本だよやっぱ。異星に来るとますます食への思いが強くなった。


「多分なんだけど、俺の食べてるものも味付け次第で食べれると思う。アズールたちが普段食べてるものをもっと持ってきてくれれば分かると思う」


[そういうことでしたら、ぜひ。いろいろ持ってきますよ]


「確認だけど、今回二人が来てくれたのは、飼育してた巨大蟻が脱走か何かして、野良巨大蟻が居住区と違うところで気がつかないうちに大発生したと。で、お互いの集落の危機になるかも知れないから、協力体制を敷いている。アズールが気をきかせて、最近引っ越してきた第三の種族である俺にも伝えに来てくれたんだな」


[そのとおりだ。赤の一族の不手際で申し訳ない]


 リーノが再度頭を下げてくれるが、俺にとっては、さっきも言ったとおり、蟻の発生は完全に対岸の火事だ。


「そういえば、赤の一族は尻尾が特徴って聞いたんだけど、尻尾は見えないけど」


 二人とも同じようなタマムシスーツで、尻尾は見えない。


[ああ、彼は知らないのか。私たちが鎧を着てることを]


 え、え、タマムシスーツ??あれ鎧だったのか。かなりピッタリ着こなしてるので全く分からなかったぞ。


[ここだと空気も気温も大丈夫ですし、せっかくですので、鎧を脱いでみましょうか?]


「裸は、流石に...」


[ちゃんと下に服を着てますので、大丈夫ですよ。奥の部屋を借りますね]


 そう言って二人はプレハブへと歩を進めていった。

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