第23話 ものすごーーく痛いの

 俺はさきほどのルベールから得た情報を目の前で三角座りでテーブルの上に乗るシルフに伝えていた。羽をパタパタさせながら俺の話を聞いているシルフ。さらに芸が細かくなってきてるな。


「というわけなんだ。まず俺が第二エネルギーが貯めれるかどうか試すため、アズールに一発やってもらおうかと思ってる」


「ものすごーーく痛いってのが、身体にどの程度ダメージを受けるか不明だからリスクは高いわよ。このカルデラを深部まで調査してからでもいいんじゃない?」


 カルデラ深部が地表付近まで繋がっているなら、アズールを連れて底まで行けるかもしれないが環境が同じとは限らないんだよな。宇宙服を着れる俺にルベールを憑けたほうが何かと動きやすいんだが。

 それに、第二エネルギーの実験もできる。


「死ぬわけじゃないから、試してみたほうが今後のためにいいかと思ってね。カルデラ探索に時間がかかった場合、結局試すんだ。もし吸収できるなら第二エネルギーの実験も同時並行したほうが良いと思う」


[あんたに覚悟があるなら、止めはしないわよ]


 ふうとため息を一つつくシルフであった。

 時間が限られている以上、試せることは同時並行したほうが望ましい。もしルベールが俺に憑けるとなると、宇宙服を来て180度の地表に行けるかもしれない。

 といってもカルデラの中のほうが第三エネルギーの滞留量が多いことが、予想されるんだよな。

 どうも閉鎖空間のほうが溜まりやすい気がする。ガスと同じような性質ならば...ここはルベールへの確認ポイントだな。


「手段はいくつかあるわね。一つ目、ルベールに第三エネルギーをためてもらって第二エネルギーの壁に穴を開けてもらう方法、さらに余裕があれば第二エネルギーの壁への距離を計測してもらう。

二つ目、私たちがどうにかして第二エネルギーを圧縮し、壁に穴を開ける。三つ目、宇宙船で第二エネルギーの壁を突破する。ただし突破できるまで宇宙船の燃料がもつか不明、さらに島田のぼっちはほぼ確定」


 なるべく三つ目の手段は取りたくない。最悪、何もできず宇宙船の燃料を消費しきってホープに戻ってくることになる。どちらが早いか不明だが、一つ目と二つ目は同時並行できるなら行う。

 ただし、二つ目は俺が第二エネルギーを取り込めないなら即終了だが。あと、突っ込みたくはないが、ぼっち確定は地味にくるものがあるな。


 翌朝、アズールに秘蔵のバナナチップスとメロン、炭酸ジュースキノコを振る舞いながら、ものすごーーく痛いのをやってもらえるようお願いしてみた。バナナチップスは持っている分がなくなれば終了という貴重品だ。

 現時点で蛍光黄色のキノコはバナナと似た成分だったので、振る舞える数少ない食料の一つだったからだ。毎回同じものでも飽きるからね。

 メロンとキュウリで迷ったけど、メロンにした。現在実験中ではあるが、赤色キノコと蛍光黄色キノコを合成できないか試している。成功すればジュースキノコのようにパウダー状であれば提供可能だ。

 そう難しいことではないので、すぐに生産できると思う。ただ、バナナパウダーはともかく、エリンギパウダーは使いどころが...ダシ取りに使えるか?


[このバナナチップスは少し硬いですが、このパリパリした感触が素敵ですね]


バナナチップスを気に入ってくれたようで何よりだ。バナナの木は数年かかるからね。一応植えてるけど...


「食べた後、例のあれをやってもらえるか?」


[そうですね、もしかしたらマナが蓄積できるようになるかもしれません。痛いだけで体に害はありませんので安心してください]


 そうかー、痛いだけかー。痛いだけでも嫌なんだけど。

 さっそく、フルフェイスと宇宙服を着込み、アズールの前へ立った。


[では、ここへ寝転んでください]


 アズールは正座し、自らの太ももをポンポンと叩いた。膝枕だー。やったね俺。ってヘルメット越しだし何も嬉しくねえよ。

 アズールの膝枕を受けた俺の顔をアズールが覗き込む。俺と目があうと、彼女は微笑み俺のヘルメットを撫でてくれた。

 とその瞬間、全身のリンパ腺に駆け巡る衝撃!

 直接神経を刺されるような激しい痛みが俺を襲う。思わぬ痛みに顔を顰め、体を固くし、うずくまろうとする俺をアズールは膝枕で固定するように俺を押さえつける。

アズールに押さえ込まれている箇所からさらなる痛みが登ってくると悲鳴をあげそうになったのでなんとか口を締め悲鳴を押さえ込む俺。

 10分ほど耐えただろうか、痛みは熱に変わり、全身がものすごく発汗する。それが落ち着いてくると、アズールは俺の胸に手を置く。アズールの手から今度は心地よい暖かさがスーツ越しに伝わってくる。

 この暖かさは、飲食店などで出される熱いオシボリのような感触だ。


[はい。もういいですよ]


 と頭をまた撫でられた。俺から見ると子供の見た目なアズールに頭を撫でられると恥ずかしいものがあるな。


「俺は第二エネルギーを取り込めそうか?」


[はい。少なくとも体にマナは蓄積できます。マナを取り込めるかはまだ分かりません。取り込めない場合は、私が今みたいに送り込みますよ]


 おお。最低条件は満たすことができたか。少なくとも蛇口は開き、中にタンクもある。外から取り込めるかはまだ不明ってことか。


「第二エネルギーを体に送ってくれたことは分かったんだけど、どれくらい今体の中にあるのかよくわからないな」


[今は全て熱になっているので分からないかもしれませんが、落ち着いてきますと、感覚的にわかるようになります。今日は一旦帰りますが、明日またここに来ますので、その時にマナの状態を見ますね]


「すまないな。仕事もあるだろうに」


[私のような巫女は、皆さんの家畜の世話やキノコの世話のお手伝いをしますけど、必ずってわけじゃないんです。テレパシーを使ってリーノ達他の種族と会話することが仕事といえば仕事ですので]


「そう言ってもらえると助かるよ。今日は安静に過ごすから明日また頼むよ」


[いえいえ。明日来るために今日はすぐ帰らせてもらいますね]



 俺はアズールを見送り、自室のベットまで何とかたどり着いた。正直さっきの蛇口を開けてもらう施術でもう体力の限界だ。風呂に入るのもきついくらいだ。

 ベットに仰向けに倒れた俺の胸の上にシルフのホログラムが現れる。俺の体の上で三角座りしないで欲しいんだけど。


「シルフ、一応健康チェックを頼む。あと血液サンプルも取って分析してみてくれ。今第二エネルギーが体の中に入ってるらしいから」


「りょうかい。診断の結果、島田の体に損傷があれば治療するわよ。あんたは今日もう寝なさい。栄養ドリンクを持ってくるからそれだけは飲みなさいよ」


「助かる。飲んだらまた寝転ぶから採血も適当にやっちゃってくれ」


 どうにか栄養ドリンクを飲めた俺は、すぐに意識が遠くなっていった...



 翌朝起きると、俺は点滴がされた状態だったので、寝た姿勢のままシルフを呼ぶ。また、胸の上に出てきたのはご愛嬌か。


「点滴をしているってことは、そこまでエネルギーを消費してたか?」


「栄養もそうだけど、かなり水分を失っていたわ。脱水になっても困るから念のためね。体には異常はないわよ」


 なるほど、昨日の施術には相当体力を使ったんだな。


「それでどう?第二エネルギーは分かるようになったの?」


 ふむ。確かに分かる。なんというか胃が二つになったみたいだ。食欲とは違う胃といえばいいのか、今空腹なのか満腹なのかが感覚的に分かる。第二エネルギーを感じる胃ってところか。

 今は満腹状態だ。


「ああ、これは説明されても分からないかもしれない。第二エネルギー用の胃袋ができた感じだ。だいたいの感覚でしか捉えれないな。空腹なのか満腹なのかって感じで」


「なるほどね。あなたの体を全てスキャンしてみましょう。何か掴めるかもしれないからね」


「ああ、出来うる限りの検査は徹底的にやろう。ひょっとしたら計測できるかもしれないからな」


 さあ、アズールが来るまで検査だ。

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