第17話 今後の方針は食べ物だ!
今後の方針は平和的で欲望渦巻く食材探索と決めた。監視カメラとラジコンの数も有限なので、範囲は限られるが...
これまでも、陸上探索、洞窟探索はそれなりに行っているが、これといって大きな発見はしていない。
そこで、今回は少しリスクが高い探索もしてみようと思う。
まず陸上。こちらは空から観測できるので広範囲な探索ができる。これまでの観測でカルデラ部分の調査は済んだが、発見出来たのは地衣類のみだ。地上部分については、少なくともカルデラで動く生物を発見していない。
地上は気温60度で酸素濃度も数パーセントしかないし、アズールたちも地上には何もいないと言っていたので盲点だったが、俺はここへ来た頃、地上で地衣類以外の生物を見ているじゃないか。
そう、湖から出てきたホタルの群れのような幻想的な光。あれは、蛍光色群の生き物のどれかだろう。
地球の砂漠など、日中は灼熱の地域でも夜になれば生き物が出てくる。
同じようにカルデラでも夜間になれば生き物が出てくるかもしれない。
といっても酸素濃度が低いので望み薄かもしれない。夜間飛行をするなら、ライトをつける必要がある。光に惹かれて突撃してくるものが出るかもしれないが、一度やってみる価値はあるだろう。
また、日中はカルデラの外まで進出し、この山の外周を見て行こう。
次に湖だ。湖は潜水艦型ラジコンが使える。このラジコンはソナー機能がついていて地形調査に使える。これまで、音波によって生物を刺激する懸念があったため、積極的な運用を避けてきた。
湖内部には多数の洞窟があり、それらは野良蟻洞窟であったり、アズールやリーノの洞窟につながっていたりする。
ソナーによって湖の地形を把握し、発見した洞窟へもソナーを飛ばしてみる。
これである程度の地形把握ができるだろう。
発見された洞窟のうち、深く内部まで繋がっているだろう洞窟へは、いつもの水陸両用ラジコンを向かわせる。
目指すは最深部だ。
「ようやくやる気になってきたのね。あんたここに来て二ヶ月くらいだっけ?カルデラからほとんど動いてないじゃない」
そうだな、洞窟の入り口までが一番の冒険だ。蛍光色を取りに行ったときだな。
「何があるかわからないかならあ。何しろ人類が経験したことのない探索だ」
「これまでよく機械類が全部無事に動いてきたものよね。多少トラブルがあると思ったのだけど」
「重力が地球に近いのが幸いだったよなー」
「そうね。重力が地球の三倍くらいになっちゃうと、島田の健康障害がまず出るでしょうね。着陸もしなかったかもしれないわよ」
「宇宙ステーションからの観測結果も相当ズレてたもんな。とにかく、今あることで楽しむしかないさ」
「あんたのそのお気楽さは才能ね。どんな人間にも一つは光るものがあるのかしら。興味深いわ」
「酷い!正直なところ、シルフが作業をこなすだけのAIだったらと思うとぞっとするよ」
「っ!」
「言うのも恥ずかしいが、一度だけだぞ。シルフ、俺は人間のように会話できるあんたがいなければ、とっくに気が狂っていたかもしれない。ありがとうな」
「っ!そういうのは恋人にでも言いなさい」
照れてる!全くすごいAIだな。中に人入ってんじゃないのか。
別段気にはしてなかったが、シルフとの会話はドームにいるときは、ホログラムと会話している。アズールたちが来た時にも隔離ルームの俺が座るテーブルの上に三角座りしている。
最近は芸が細かくなってきて、表情まで作るようになった。恐るべしシルフ。
「そうだシルフ。アズールのことなんだが」
「また女の話?全く」
「待て待て、何でそうなる!」
「冗談よ。アズールはどうにも不審な点があるってことでしょ」
そう、アズールのこれまでの対応は少しおかしいと俺は思っている。シルフもそう感じているのだったら試してみる価値はあるな。
最初からアズールの動きはおかしいのだ。アズールを初めて見たのは湖に打ち上げられて電気ショックを行ったところからだ。100歩譲ってたまたま、俺の監視範囲の湖に打ち上げられたのだと言われれば、納得できないこともない。
問題はその後だ。アズールを電気ショックで起こした。いくら目覚め直後とはいえ、俺程度の足払いであっさりと転がり、後ろ手を取るとすぐに抵抗を辞める...見たこともないドームへホイホイついてくる。ドームのことなど見たこともないだろう機械類について全く質問をしない。など上げればキリがない。
質問をしなかったのは、俺への気遣いかもしれないが、電気ショック後の態度はおかしすぎる。この不審は、アズールとリーノに野良蟻洞窟前まで連れて行ってもらったときに確信に変わった。人間のオリンピック選手を上回るほどの身体能力を持つアズールが俺の足払いなど食らうだろうか。
俺には見えないほど遠い位置から俺を感知できた触覚を持つアズールがだ。
見たこともない場所、見たこともない生き物に対して、全力で一度抵抗したのなら分かるが、力を入れるまでもなく、後ろ手に取られただけで抵抗を辞めるのだろうか。
そう、アズールは俺たちのことをすでに知っていたとしか思えない。「俺が危害を加えないことを知っていた」のだ。それはアズール本人の能力なのか、教えてもらったのかはわからない。
更に興味深いのは、機械類に対して全く興味を示さない。アズールが見ようとしたものは、地球産の植物や動物であって、優れた機械類ではない。シルフは俺と同様の知的生命体だとは思ってる素振りを見せていたが、
シルフと会話ができなかったことに対して、あんなにあっさりと「そういうものだ」と思えるのだろうか。推理が飛躍するが、シルフのようなAIとは会話できないとさえ知っていたのかもしれない。
俺はこれらの推測をシルフに伝えると、シルフも似たようなことを考えていたようだ。
「アズールが探知能力を持っていたとしても、機械類に対する対応がなぜなのか見えてこないよな」
「だからこそ、お泊りを提案したのよね」
そうだ。アズールは今まで観測する限り、ホープの地下洞窟で生まれ、これまで自身とリーノの集落くらいしか見たことがないと予想される。それが科学技術の進んだ地球の機械類を見ても興味を示さなかった。
ならば、アズールとは別にそういったことを知る人物がいるのではないかと思ったわけだ。となれば監視能力を持つのはその人物だと想像され、アズールに危害が加わるかもしれない状況になれば出てくるかもしれないと考えたわけだ。
試す方法は一つ。銃を構えてアズールに突きつけてみる。もちろん、打つ気は全くないんだけど。銃が何かわかるのだったら、慌てて出てくるかもしれない。
「アズールの秘密がわかるかどうかは、正直微妙なんだけど、何も試さないよりはいいかなと」
[気がついていましたか]
不意に頭の中に声が響く、動揺した俺にシルフは何か察したのか口を開く。
「向こうから話掛けてきた?」
「そうだ。やはり見ているやつがいたんだな」
ただ、声は頭に響くが姿は確認できない。見ることができないのかここに居ないのかわからない。テレパシーで話かけているならきっと目の前にはいるんだろうけど...
見えないので実際どっちなのかわからないなあ。
[あなたを害すると思われていては心外です。私のことをお話しましょう]
「分かった。まずはコーヒーのおかわりを持ってきてもいいかな?」
俺は虚空に向かって目をやり、コーヒーを取りに向かうのだった。
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