第6話 カミキリムシ少女、あ、新しい

 白銀はあっさりと見つかった。湖の浜辺の砂浜には白銀が多く含有されていたのだった。

 そう調査するまでもなく見つかったのだけど、湖にはエビの他にカニっぽいもの、貝っぽいもの、色違いの藻、そして水中適応したシダ類など割に多種多様な生物が住んでいるようだ。

 これらのうち、エビカニのような甲殻類や貝類はほとんどの種類で、白銀の殻を持っている。それらの死骸が砕かれ、長い年月をかけて砂浜に蓄積したのだろう。

 地質調査はしていないが、このカルデラにある岩や地中、洞窟の中などに、白銀の大規模鉱脈があるかもしれない。


 タマムシは白銀を取りに来たと言っていたが、砂浜の砂を拾いに来たかもしれない。砂浜の砂を精製すれば、白銀を取り出すことは容易だ。なにもエビカニから集めなくてもいいってわけだ。


 次にタマムシがくつろげるように、客室ドームを作ろう。タマムシが来てから二日後にドームは完成したものの、中身はこれからだ。家はとりあえずカーボン製のプレハブで、後々タマムシからあの蔦で出来た牧歌的なお家の建築方法を教えてもらおう。


 タマムシたちの集落は俺にとっては幻想的で目を奪われる光景だった。そのほんの一部分ではあるが、ドーム内に置いて眺めたい。


 空調は、集落に合わせれば問題ないだろう。大気構成は以前調べたとおり、気温は25度だ。タマムシが「地上は毒に」とか言ってた気がするので、集落の空気に含まれる細菌やらを持ってきたほうが良いのだろうけど、今は無菌にするしかないか。

  蔦の家を建築するまでには、集落と同じような環境を作ろう!


「お出迎えに熱心ねー。来なかったりして」


 う、その可能性も否定出来ない。ちょっと傷ついた俺は、シルフに新たなお仕事を与えることにして溜飲を下げよう。


「シルフ、そろそろ家畜ドーム作ろう」


「肉、卵、乳製品...全く島田は強欲ね。牛は育つまで数年かかるわよ」


「牛より先に鶏だなー。鶏ならまだ早いし!卵食べたーい」


「まあ、もしもの時のために備蓄は必要だし、ホープのドーム下できちんと生育するかの実験にもなるわね。作っておくわ」


 家畜ドームを作ってくれるらしい。「まだ早い!」とか言われるかなと思っていたが、案外早く卵食べれそう。


  タマムシと分かれてから、7日経った。タマムシは「また来る」の言葉通り俺を訪ねてくれた。

 ひゃっはー。久々の会話(ただし、AI除く)。俺がこのままボッチにならないよう、頑張ってもてなすぞー。


「やあ、タマムシ。来てくれてありがとう」


[こんにちは]


  俺とタマムシは消毒ドームを抜け、客室ドームへと進んだ。しかし、タマムシは全く警戒心を出さずノコノコついてくる。

  今回タマムシと積極的に交流しようとしているのは、俺がこの先何年ぼっちでいるか分からないから、といった至極私的な理由からだが、それでも俺は一応のリスク管理をしている。

 万が一、タマムシの種族と不和を起こした場合も、もちろん想定している。最悪の場合、このカルデラからの完全撤退のプランもシルフに立てさせた。

疑り深いだけな気もするが、タマムシの無警戒さ無防備さは逆に俺に疑念を覚えさせる。まあ、何かあればそのときだ。少なくとも今は敵対することはないだろう。


[ここは...]


 タマムシ用のドームに入り、タマムシは気がついたようだ。


「タマムシがくつろげるように、毒を取り除いた部屋を作ったんだ。どうだ?呼吸できそうか?」


[おそらく、ここなら問題なさそうです。一体どうやってこんな]


  多分驚いているのだろうが、種族が違いすぎてよくわからない。俺は、タマムシを透明な壁で半分に分断されたテーブルがある椅子に案内し、少し待つようお願いする。

 俺は一度消毒ドームを抜けてから、タマムシと対面の壁の向こうの部屋へ進み、タマムシに声をかける。


「タマムシの呼吸できる空気は、俺にとっては毒かもしれないから、この部屋を作ったんだ」


 ここは、透明な壁で囲った俺用の隔離空間だ。この中は地球環境と同じ大気構成になっている。もちろん、気圧も地球と同じだ。


「改めてようこそ。俺のドームへ。俺は島田健二」


 と、フルフェイスヘルメットを脱いで、ようやく自己紹介する。やっぱ顔見せて話たいよね。そのためにかなり苦労したけど。


[島田さん、あたらめまして、私はアズールと言います]


こうしてようやく、俺とアズールは自己紹介したのだった。


[島田さんの顔は少し私たちに似ているかもしれません]


 不意にアズールは、カマキリバイザーに手をかけ、バイザーを外した。いきなり外すとは驚きだ。


 アズールの素顔は確かに俺たち人間に近いと言えば近い。蝋を薄く塗ったような、薄い青色の肌。アーモンド型の二つの瞳は瑠璃色で、薄い瑠璃色のまつ毛に、頭髪。

眉毛はなく、眉の位置には平安貴族のような黒い斑点があった。

 口の形は人間そっくりで、歯らしきものも見える。何より特徴的なのが、頭部上部からはえる触覚だろう。触覚は左右に二つあり、青と黒のストライプで長さも20センチほどある。この青と黒のコントラストは日本の昆虫ルリボシカミキリを想起させる。

  顔の作り全体的に見れば、人間の10歳前後の少女のようにも見えなくはない。 前髪は人間の眉がある位置にある黒い斑点にかかるくらい。横後ろは首のあたりで切り揃えられている。


「確かに似ているかもしれないな」


 どこか人間らしさを感じるその顔を俺はマジマジと凝視してしまう。

 カミキリムシ少女...新しい。

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