第32話 集光レンズ
同時並行してることが多くなって来たが、やれることからやっていくしかないな。インパクトが大きいのは蛍石の実験と例の麓の洞窟だな。
「シルフ、リーノと通信してみよう」
「りょーかい。呼び出すわよ」
通信機で呼び出しを行う。もしリーノが対応可能なら持っている白銀箱にテレパシーを繋ぐはずだ。
[こんにちは]
室内のスピーカーからリーノのテレパシーが届く。成功だ。白銀を通じてシルフのネットワークにテレパシーが繋がったようだ。
「リーノ、聞こえるか?島田だ」
[...離れたところで会話できるとは不思議な気分だ]
よし、ちゃんと応答しているな。これで、リーノに電話をかけることができるぞ。
「せっかくだから、一つ教えて欲しいことがあるんだよ。蛍石の光量を上げたいんだけどよい案ないかな?」
ダメ元でリーノに蛍石のことを聞いてみよう。
[そうだな。方法は三つある。一つはより透明な蛍石を使うことだ。二つ目はより大きな蛍石を使うことだ。大きなものほどマナがたくさん入る。三つ目はよく使われている手段だが、石を重ねて使う。一つ目も二つ目もなかなかよい蛍石が取れないからな]
なんだと!透明なものほど増幅効果が高まることは先日の実験でわかった。二つ目は白銀の実験の際にアズールが言っていたことと同じだ。石を重ねて使うと増幅されるのか。詳しそうだからもう一つ聞いてみよう。
「手を離した状態で蛍石を光らせることってできるのかな?」
さすがに、あなたの集落の街灯のようなものを見たんでとは言えないから、少し表現を変えて聞いてみる。
[そうだな。蛍石を好む虫を置いておくと、虫から出るマナで光るぞ]
光に集まる蛾みたいなもんか。こちらは期待外れだな。
「いろいろありがとう。試してみるよ」
と言って、リーノとの会話を俺たちは終了した。リーノから得た情報を元に実験し、うまくいけば第二エネルギーの壁を突破できるかもしれない。
「シルフ。蛍石のことだけど、おそらく俺のやってみたいことの予測はついてるだろうけど...蛍石を重ねると増幅されるらしいから、半分に切って繋げて試してみようか。もう一つ、連結する先端の蛍石を集光レンズにしてみよう。全ての蛍石は透明に一滴入れたやつでたのむ」
「先日の実験で使ったやつがあるから、さっそくやってみましょうか」
シルフが先日使用した蛍石を出してくれた。この蛍石は元々直方体に加工してあり、サイズは手のひらに乗るくらいのサイズだ。これを3つブロックのように積み重ねて、第二エネルギーを通してみると全ての蛍石が光、輝度は20パーセントほど上がった。
次に直方体の蛍石の上に蛍石の集光レンズを重ね、第二エネルギーを通してみると、集光レンズだけだが、見事に光が屈折し集束された!光を集光できるのなら、シルフに加工させてレーザーポインタのように一点集中できるかもしれない。
この光は第二エネルギーを元に発射されているはずなので、光には第二エネルギーが含まれているはずだ。となると、蛍石を連結し、すべての光を集光し一点強化すれば、第二エネルギーの壁を突破できるかもしれない。
とはいえ、一点突破しているだけなので人体が第二エネルギーの壁を突破することは不可能だ。しかし、点であっても穴が開くのなら通信はできるはずだ。もし地球と通信ができれば、俺たちに時間制限は無くなる。時間をかけて俺が帰る方法を模索していけばいい。
「シルフ。蛍石の光を全て集光できるような作りで、作成してくれないか?どの程度の強度を当てれば第二エネルギーを突破できるか分からないんだけど」
「いえ、島田。私たちは強度は測れないけど、手はあるわよ。第二エネルギーの壁に触れた生き物はどうなるかわかってるでしょ?」
なるほど。そういうことか!第二エネルギーの壁に触れた生物は消し炭になる。正確には最初からそこにいなかったかのように、消失する。第二エネルギーの壁を突破するには、壁より強い第二エネルギーを当てれば可能とのことだ。ルベールが本当のことを言っていればだけど。
ならば、生物実験をすればいい。集光した光で生物を消失させることができれば、少なくとも第二エネルギーの壁と同等の強度だ。
「なるほど。理解した。完成したら実験しよう」
「明日には出来てると思うから、実験しましょう」
シルフにとっては、集光する構造自体は難しいことではないみたいだ。形を計測し寸法を出しているのだろう。コンピュータだけに。この実験の結果次第で一気に問題解決だな、明日は期待して実験するか。上手くいきそうな時ほど何かに足元をすくわれがちだから注意しないとな。
といっても何に?と言われると多少懸念しているのはルベールくらいなんだが。人間関係が希薄で泣けてくるわ。
今後のためにも、第二エネルギーの扱いを少しでも上達しようと練習していると、シルフが肩の上に出現し来客を告げる。今日はアズールが来てくれたようだ。
[こんにちは]
アズールはいつもの穏やかな調子で俺に挨拶をする。俺はそれに答え、いつものテーブルに案内した。新しい食材が入っていないのでマンネリで申し訳ないが、炭酸ジュースキノコタピオカ入りをテーブルに出す。
[お約束していた、芋虫の糸を持ってきましたよ]
アズールが出したのは、彼女が着ている鎧と同じタマムシ色をした糸だった。芋虫さんの出す糸だったのね。地球の蚕のようなものだろうきっと。
「ありがとう。助かるよ。その芋虫ってどれくらいの大きさなんだ?」
[だいたい、1メートルくらいですね。一匹で一人分近くの繊維が取れますよ]
でかい、見たくない。1メートルの芋虫は衝撃映像すぎて俺が倒れそうだよ。タマムシ糸を受け取った俺はシルフに成分調査するよう頼んでおいた。
「アズール。今日は渓谷まで行ってみようと思っているんだ。フィンエアーに乗って」
[ほんとですか!また空を飛べるんですね!]
この前のフィンエアーの飛行がよっぽど気に入ったらしく、目をキラキラさせているアズールだった。今回は上下に移動するだけじゃないぞ。きちんと飛行する。どんな顔をするか楽しみだよ。
フィンエアーに乗り込んだアズールは終始はしゃぎっぱなしだった。高速で流れていく景色に身を乗り出し、羽音の歓声をあげ続けている。ほどなくして大渓谷の第三エネルギー濃度を聞いてみたところ、俺が予測した値に近いものだった。
「ルベール。第三エネルギーのことはさっぱりなんだけど、第三エネルギーはコアに近づくほど濃度があがるってことはわかったんだけど、局所的に溜まったりしないのか?」
[知的生命体の営みがあるところほど、溜まりやすいと言ってますね]
「知的生命体が第三エネルギーを無意識に集めるのかな。だったら、アズールたちの集落のほうがここより濃度が高いんじゃないか?」
[集落の濃度はおよそ1.5くらいとのことです。集落である程度第三エネルギーは溜まるのですが、すぐに地下へ流れていってしまうようです]
「となると、カルデラ山の最深部が一番可能性が高いのかな。それか知的生命体が他にもいるか、いろんな山の地下を調べてみてもいいけど」
第三エネルギーのことは的を得ないな。ルベールが意図的にそうしているのか、法則性があいまいなのかわからない。いずれにしても、あの麓付近の洞窟を調査すれば何かわかりそうだな。
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