第16話 リーノさんが全部食べるそうです
「リーノたちは蟻以外に何食べてるの?」
リーノが食事に一息ついたところで、毎回蟻じゃああきるかな、と思い聞いてみた。
[フェルミーカが一番食べる。他となると狩猟になるから、取れたものを食べる]
ふぅーと息を吐きながらリーノ。
なるほど、リーノ達は肉食よりなのかな。蟻を肉と言っていいかわからないけど。主食となるのが、家畜の蟻か。狩猟ならどんな生き物がいるんだろうか。
「狩猟ってどんなもの取るの?」
[君も知っている蜘蛛だろ。ヒトデ、貝などの水の中にいるものも食べる。手強いやつも祭りのときには狩るぞ]
手強いやつって、蜘蛛より危険なやつか。なんだろう。目で続きを促すとリーノは再び口を開く。
[土竜やスタッグ。食べれないがアネモネも強力だ]
土竜って、モグラじゃないよな。今のところ虫などの節足動物しか見てないし。となるとミミズやムカデかなあ。
スタッグはきっとクワガタだ。もしクワガタがあの憎きカブトムシのような色をしていたら気持ち悪さで倒れるかもしれない。アネモネはイソギンチャクだが、地上にいるのか?
きっと全部、蜘蛛と同じく巨大なんだろうなあ。見たくねえ!
「ありがとう。参考になったよ!もし取れたらご馳走する」
あくまで取れたらだ。取りに行くのではない。あ、蜘蛛はいっぱいいるぞ、全部水死体だけど。
[期待して待つとしよう。私からも取れたらお裾分けしようじゃないか]
もらったらマウス行きだけどなー。ただ、成分分析したら似たようなものは地球産の動物で存在するかもしれない。
植物と違って育てるの大変ではあるけど。
「ああ、食の話で目的を忘れてたよ。野良蟻の洞窟、全て駆除したんだ」
[え?]
余りの驚きで、完全に固まっておられる。俺がまさかやるとは思っていなかったんだろう。ははは、こやつめ。
「ただ、駆除したのはいいんだけど、現地にそのままになってるんだよね。どうしたものかと」
[...]
まだ固まっておられる。おーい。戻ってこーい。
[...すまない。まさか君が全部倒すとは想像してなかったものだから。私たちが集団でかかっても一日、二日じゃあ倒しきれないものだからね]
「何も全て殴り倒してきたわけじゃないよ。奴らは溺れただけだ」
[ふむ。確かに蟻は泳げない。蜘蛛も短時間しか水には潜れない。私たちと違って兜がないからな]
少し納得してくれた様子。俺は弱そうというか、弱いってのは確定なのね。
「詳しい方法は言っても仕方ないと思うから、問題は溺れた蟻と蜘蛛をどうしようかってことなんだ」
[島田一人、いやシルフ殿も入れて二人か。たしかに、二人であの量は食べれないな]
お前の頭の中は食うことだけなのかよ!で、なんでシルフには殿なんだよ!俺の扱い酷いな。いやまて、実際ほとんどの作業はシルフだ。察していたのか。いやまさかー。
「いや、食べないって。そのまま置いてて腐ると不味ことになると思って相談してるんだよ」
[ということは、あの蟻と蜘蛛は必要ないと?]
ガバッと乗り出して来たよ!食べるのかよ、全部。
「あ、ああ」
思わず後ずさる俺。
[なら、いただいてもいいのだろうか?シルフ殿にも聞いてくれると嬉しい]
またシルフ!
「いや、問題ない。俺たちはもう話あってるからね。処分に困ってたんだよ」
[了解した。悪いが全て私たちが集落まで運んでしまおう]
「そうしてくれると助かるよ」
いやー食いしん坊万歳だな。みんなリーノみたいなんだろうか?蟻と蜘蛛に群がる赤の一族。目は血走り、口元にはよだれが!もうジョークにしか思えない。
[蟻と蜘蛛の恩はいつか必ず]
すました顔でそう言っているが、口元!口元注意よ、リーノさん。まさかリーノがただの食いしん坊だったとは驚きの一日だった。
口元を終始緩ませながら、締まらない顔でリーノは帰っていった...
リーノが帰宅したことだし、お楽しみの成分調査結果を見ようではないか。
「シルフ、この前アズールからもらったキノコとシダの種は検査済んだかな?」
「済んでるわよ。蛍光黄色のキノコは成分から一番近いのはバナナね。シダの種はキュウイとタピオカを合わせた感じかなあ」
「赤いキノコはエリンギだったか。赤いキノコ以外全部甘い系統だなあ。アズールたちはフルーツが主食なんだろうか?」
「主食は不明ね。アズールがお土産にって持ってくるものだから、甘いものなのかもしれないわよ」
ああ、そういう発想もあるか。お土産に米と味噌汁はないわな。黄色はバナナか!バナナも時間がかかるので、食べれることはないだろうと思っていたものだ。キュウイとタピオカのほうは、うーん。キュウイもバナナと同じで、木になる果実なので、時間がかかる。タピオカはキャッサバを加工したもので、キャッサバならすぐにでも食べれる。
なら、あれだなジュースキノコでタピオカジュースだ。これならアズールに出せる。
「マウス実験はどうなってる?異常が出てるものはある?」
「今のところ全部食べれそうよ。明日、蟻食べてみる?ジュースキノコのジュースと一緒に」
えっと、ジュースキノコは紅茶で、蟻はカニか。いやエビだったか。
蟻じゃないと思えば食べれそうだ。ジュースキノコがコーヒーだったらなあ。紅茶は作れるけど、コーヒーは木になるから在庫切れたら終わりなんだよな。
とはいえ、コーヒーはみんな大好きだったから量は大量に抱えている。コーヒーの実が取れるまで持つかはわからないけど。
「蟻だと思わなければ、あれはエビだ。いやカニか。キノコジュースは普通に飲めそうだな」
とか昨日言ってましたが、蟻美味しいです。食感はエビだけど、味はカニだ。プリプリ食感がたまらない!
肉も魚もずいぶん食べてないから本当にうまい!久々補正も多分にあるだろうけど。
キノコジュースのほうは、自販機で買うミルクティーくらいの甘さがある。ミルク入れたい!ないけど。
食べ終わったら一応健康診断を受ける。異星の食べ物だから、マウスで実験済みとはいえ何が起こるかわからないから。
しかし、ホープの食べ物は予想以上に美味しい。ようやく生活環境も整ってきたので、洞窟の深部まで調査を行い、まだ見ぬ食材を集めに行くのもよいか。目的がないと生きるのに辛くなるからね。
その点、食材探査は平和的かつ好奇心を満たすことができ、さらにまだ見ぬ未踏の地への探検もできる(主にラジコンが)。
どうもホープは地球では観測されない何か不思議な力がある。要素や元素と言ってもいいかもしれない。アズール達のテレパシーや白銀の特性など、似たような不思議元素の働きで地球の科学的にはありえない結果をもたらしているのだろう。
不思議元素の探求もよいテーマだと思うけど、俺はあまり頭を動かすのは得意ではないし、不思議の解明よりは不思議がどんなことが出来るのかのほうが興味がある。
ただ、不思議元素がどのような効果をもたらすのかがわかってない以上、探検は慎重に行うべきだ。いきなりテレポーテーションでドームまで敵対者がやってきても不思議ではないのだ。
と考えると、君子危うきに近寄らずが安全確実だと思う。ただ、刺激が全く無く、いつ救出されるかわからない状況で何年過ごすのだ?そうなると先に心が折れてしまうと思う。
だからこそ、多少危険を冒してでも探検をするのだ(ラジコンが)。
まずはリーノの言った狩猟対象の生物を探しに行ってみるか。
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