第27話 光あれ

 第二エネルギーのことがあったので、まだ見ていなかったが、リーノの集落の観察は楽しみにしていたのだ。集落に監視カメラは設置済みだから見てみよう。


「シルフ、リーノの集落映像出してもらえるか?」


「ラジコンは集落に行ってないから、定点になるわよ」


 と前置きしてから、ディスプレイか点灯する。

 カメラの位置は集落を見下ろせるくらいの高い位置に設置されていたので、少し遠くまで良く見える。

 リーノの集落はアズールのところと違って、ひどく無骨なつくりをしている。白銀と岩でできた長方形の家が並び、中央は広場になっていて、電灯のようなものが噴水のようなものの周囲に並んでいた。

 それぞれの長方形の家には、一つづつ電灯が付いているが、どの電灯も光ってはいない。天井はリーノの集落と同じく蛍光色がみっしりと埋まっている。

 奥の方には、白銀の柵で囲われた蟻牧場が作られており、牧場の隣には畑らしきものが広がっている。しかしあれだな、蟻牧場広いな!100匹単位で飼育出来そうだよ!

 仕組みが分からないのが電灯らしきものだなあ。おそらく蛍石を使ってるんだろうけど、蛍光色で光る洞窟内に昼夜の区別があるのか?蛍石は触れてないと光らないようだけど、光らせる方法があるのか?

 電灯らしきものは、円柱形の支柱の頂点に丸いものがついている。近くで見ないことには詳細は分からないな。


「島田。蛍石だけど、地球の蛍石とほとんど同じものね」


 シルフは昨日アズールに見せてもらった蛍石の解析結果を教えてくれた。

 蛍石、別名フローライトは宝石類に分類されることはないが、透き通った透明のものがよくアクセサリーに使われる。

 ライトグリーン、黒、紫など多彩な色を持ち、加熱すると発光する。物によってはブラックライトを当てると発光する。

 アズールの持つ蛍石はブラックライトを当てると発光するものだったそうだ。たしか色は透明に近かったがライトグリーンの色がついていた。


「蛍石なら、そう珍しい鉱物でもないから、ドーム素材用の切り出した岩の中にないか探してみたのよ」


 痛い!頭に石が降ってきた。手のひらサイズの石は、蛍石だった。

 蛍石は科学合成で作ることも可能で純度の高いものは、レンズに使用されている割に身近な鉱物だ。もちろんこの船にも使われている。人工的な蛍石とホープ天然物の蛍石を比べることもできるな。


 どれ、試しに我が光らせて見せようではないか。

 俺は蛍石を天に掲げ、こう祈った。

 光あれ。と。


......え?


「島田!さすが島田!」


 シルフが腹を抱えて笑っている。なんてことだ、全く光らないぞ。


「島田。人間の目には見えないくらいだけど、僅かに発光してるわよ。僅かに!」


 笑いの止まらぬシルフがなにやらのたまっている。憮然とした顔で俺は腕を組む。

シルフは笑い、俺は不貞腐れているがお互い蛍石の特性で新しいことが分かるかもしれないと感じている。

 アズールの持つ蛍石と今俺が第二エネルギーを通した蛍石の輝度が明らかに違う。蛍石に含まれる不純物によって異なるのだろうか。


「島田、次はこれ」


 また頭に降ってきた!普通に渡せないのか。次に降ってきたのはレンズに使う限りなく純度の高い蛍石だ。色は透明。

 こちらに第二エネルギーを通してみると、全く光らなかった。不純物が混じらないと光らないのか、地球産だからダメなのかは不明だ。

 アズールの蛍石は透明にライトグリーンの色が付いていた。


「シルフ。透明で色つきの色と濃さが違うものをいくつか準備してくれないか?」


「輝度でマナの吸収率やら、物質やらが見えるかもね」


 蛍石はレンズや精密機械に使うので、精製設備もある。もちろん、作業用のドームはすでに設置済みだ。差し当たり、透明なものに同一の色を付け濃さを変えていこう。

 その後、順に別の色を混ぜる。その結果効果が高いものの傾向を見る。透明さのほうも計測する必要があるけど。その辺はシルフに丸投げでいいだろう、俺は第二エネルギーを通すだけだ。


「蛍石のことで聞きそびれたんだけど、カルデラ地下はどの辺まで進んでるんだ?」


「なかなか手ごわいわよ。かなり入り組んでいて、地表付近まで行こうとすると困難だと思うわよ。特に島田が行くとしたらね」


 歩いて行くとなると、直線距離でも6000メートルだからなあ。途中に危険な生物やら水で埋まっているところとかあるだろうから一日じゃ到達できないかもしれない。山は下へ行くほど面積が広くなるから、その分洞窟も複雑化しててもおかしくない。

 いずれにしても、地下もしくは低い位置から水が抜けていないとカルデラの湖から水が溢れて来るはずで、溢れて来てないということはどこかから水が流れているはずだ。外からの調査で何かわかればいいんだけど。


「んー。軽くでいいので教えてくれないか?」


「りょーかい。まず深度1000メートルまでは、蛍光色がよく繁茂していて、とても明るいわ。アズールやリーノの生活圏も深度1000メートルくらいまでと思うわよ。深度1000メートルを超えると、蛍光色がだんだん減っていって、2000メートルを超えると全く見なくなるわ」


「つまり、2000メートルより深いところは真っ暗なのかな?」


「実はそうでもないの。3000メートルまでは暗闇の世界なんだけど、3000メートルあたりに大地底湖があるのよ。広さはそうね、ここのカルデラ全体より広いくらい。3000メートル付近の面積の40%以上を地底湖が占めるわ」


 地底湖か。そこで一旦水が溜まっているのかな。


「この地底湖があるエリアは大きな空洞になっていて、上部には蛍光色がびっしり繁茂しているの。地底湖に水が溜まる過程で大きな空洞ができたんでしょうね。その空洞に地底湖があるわよ。水面から天井までの高さは最大で500メートル。つまり、蛍光色が生えている壁は深度2500メートルから3000メートル付近の天井になるわね」


 なんか壮大な湖だな。後で映像を見れるようシルフにお願いしてみよう。


「地底湖は水深がかなり深くて、一番深いところで1000メールルくらいあるの。水中には蛍光色がいないから、水深の深いところは真っ暗ね。ここから先はまだ調査中よ」


「いつの間にかそんな深いところまで行っていたんだな。生物は発見しているのか?」


「いくつか見たんだけど、ピックアップしておくから明日にでも見ましょうか」


「それは楽しみだ」


 地下3000メートルの地底湖か、これが映画か何かだと心躍るスペクタクルなんだろうけど、実施行くとなると困難だな。途中に生物が全くいないんだったらさほど難しくもないが。

 地下洞窟については、危険生物のチェックをまず優先し、俺が行く場合は行き先にソナーや赤外線で事前に生物のチェックをしながら進むしかないか。


「外はどうだ?横穴が見つかったかな?」


「横穴らしきものは今のところまだ見つかってないわ。何しろ広いから、なかなか進まないわね。地表のほうは、いくつか渓谷らしきものはあったわよ」


 最初上陸しようとしていた大渓谷も含むんだろうな。


「大渓谷に横穴がないかも見ておいてくれるか?」


「りょーかい」


 しかしどこに行くにしても、問題は俺自身だよな。宇宙服が破損したら即アウトの地表、宇宙服だけなら大丈夫な地下洞窟は危険生物がいる可能性が高い。どっちもどっちだよ。

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